2015年日韓政府間合意・元慰安婦への手紙を合意の範囲外だとする基準に照らせば、安倍政権による少女像撤去要求は日韓合意を超えている

合意にも裏合意にも韓国政府が少女像を撤去・移転するという確約は無いと何度言えばわかるのか。
安倍総理は2015年の日韓合意を超えることを、韓国政府に要求していない」と指摘されたので反論しておきます。
まあ、少ない字数で言いっぱなしのブコメよりもブログにまとめて書いてもらった方が回答はしやすくて歓迎です*1

日韓両外相共同記者発表で、尹外交部長官は「韓国政府は,日本政府が在韓国日本大使館前の少女像に対し,公館の安寧・威厳の維持の観点から懸念していることを認知し,韓国政府としても,可能な対応方向について関連団体との協議を行う等を通じて,適切に解決されるよう努力する」と説明している。

http://www.anlyznews.com/2018/01/2015.html

ここまではその通りです。

公館の安寧・威厳の維持と言っていることから、ウィーン条約第22条2項に照らし合わせて適切に解決することを意図しているように読める。つまり、撤去に向けて努力する事になっている。

http://www.anlyznews.com/2018/01/2015.html

日本政府が「公館の安寧・威厳の維持の観点から懸念していること」というのがウィーン条約第22条2項を想起しているのもその通りでしょう。問題は、「ウィーン条約第22条2項に照らし合わせて適切に解決する」などとは合意していませんし、「ウィーン条約第22条2項に照らし合わせて適切に解決すること」が「撤去に向けて努力する事」とも限らないと言う点です。

1.「ウィーン条約第22条2項に照らし合わせて適切に解決する」とは合意していない

「公館の安寧・威厳の維持の観点から懸念していること」がウィーン条約を想起していたとしても、それはあくまで日本政府が懸念しているというだけの話であって、韓国政府がその懸念を共有するという合意ではありません。

(2)韓国政府は,日本政府が在韓国日本大使館前の少女像に対し,公館の安寧・威厳の維持の観点から懸念していることを認知し,韓国政府としても,可能な対応方向について関連団体との協議を行う等を通じて,適切に解決されるよう努力する。

http://www.mofa.go.jp/mofaj/a_o/na/kr/page4_001664.html

韓国政府は、日本政府が懸念していることを“認知”したにすぎません。合意の文言には“なぜ日本政府がそんなことを懸念するのは理解できないが、懸念しているということ自体は認知した”という含意もあります。
似たような外交的修辞の事例として日中共同声明を例示したんですけどね。

中華人民共和国政府は、台湾が中華人民共和国の領土の不可分の一部であることを重ねて表明する。日本国政府は、この中華人民共和国政府の立場を十分理解し、尊重し、ポツダム宣言第八項に基づく立場を堅持する。

http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/china/nc_seimei.html
http://scopedog.hatenablog.com/entry/2018/01/19/070000

この声明で日本政府は「台湾が中華人民共和国の領土の不可分の一部であること」を理解したわけではなく、そう主張する中華人民共和国の「立場」を理解したわけです。同様に韓国政府は日韓合意で、少女像について「公館の安寧・威厳の維持の観点から」問題であると理解したわけではなく、そう懸念している日本政府の状況を認知したにすぎません。
こういった外交的修辞はサンフランシスコ平和条約日華平和条約でも、例えば南沙諸島の取扱いという形で存在し、別に珍しいものじゃありません。今になってそれが理解できない振りをするのは誠実ではありませんね。

2.「ウィーン条約第22条2項に照らし合わせて適切に解決すること」が「撤去に向けて努力する事」とも限らない

何をもって適切な解決とみなすかについては、日韓政府間合意には明記されていません。
安倍政権の意図はそうであったろうというのはそうでしょうし、朴政権にしても出来れば撤去したいという意向があったのもそうでしょう。しかし、合意には裏合意も含めて明記されなかった。

明記されていない以上、それは合意事項じゃありません。それが外交の世界ですよね。

韓国政府が安倍政権に対して元慰安婦らへの手紙を求めた時に、日本社会は「手紙は合意に明記されてない」「手紙を要求するなら合意に含めるべきだった」と主張したじゃないですか。そして日本社会ではそれを追加要求呼ばわりしましたよね。
同様に合意に明記されてない少女像の撤去については、合意に明記されていないことを指摘されても意図は違うと言っても、“撤去を要求するなら合意に含めるべきだった”としかなりませんよ。それができないならダブスタです。

実際、合意後、韓国政府としては撤去を約束したものではないと国内で説明する一方、日本政府は慰安婦像の撤去に努力するように求めてきており、両者の見解に乖離があるように思われていたのだが、昨年の日韓合意の検証によって日本側の主張の方が合意に沿っていた事が確認された。韓国の新聞社の朝鮮日報の記事を引用しよう。

ソウルの日本大使館前に設置された少女像については、日本側が具体的な移転計画を求めたのに対し、韓国側は「適切に解決するよう努力する」と応じたという。その上で、「非公開部分で韓国側の少女像関連発言は公開部分の脈絡と違い、日本側の発言に対応する形になっている」とした。

韓国の外交部長官直属のタスクフォースによる日韓合意の検証報告書によって、日本側の主張に正当性があることが確認されたわけだ。関連団体との協議を行っていれば撤去できなくても合意を履行しているとは言えるかも知れないが、何もしていないと合意違反になる。日本側として努力を求める事は、追加措置の要求にはならない。

http://www.anlyznews.com/2018/01/2015.html

裏合意でも韓国政府は、“移転”するよう努力するとは言ってません。あくまでも「適切に解決するよう努力する」としか答えていません。韓国政府が移転についても合意したのならば、「“移転”するよう努力する」と答えるはずですね。
文脈的にも「日本側が具体的な移転計画を求めたのに対し、韓国側は「適切に解決するよう努力する」と応じた」という単純なものではなく、実態はこんな感じです。

 一、応答形式の非公開部分で日本側は「今回の発表により慰安婦問題は最終的かつ不可逆的に解決され「韓国挺身(ていしん)隊問題対策協議会(挺対協)」などの団体が不満を表明した場合でも、韓国政府としては同調せず、説得するよう望む。少女像をどのように移転するか、具体的な韓国政府の計画を聞きたい」と言及した。
 一、これに対し、韓国側は「韓国政府は日本政府が少女像について、憂慮している点を認知し、韓国政府としても可能な対応に関し、関連団体などとの協議を通じ、適切に解決されるよう努力する」と答えた。

https://www.jiji.com/jc/article?k=2017122700836&g=pol

日本政府による具体的な移転計画の求めに対し、韓国政府は「韓国政府は日本政府が少女像について、憂慮している点を認知し、韓国政府としても可能な対応に関し、関連団体などとの協議を通じ、適切に解決されるよう努力する」と答えています。文脈として「移転計画」が直接に「適切に解決」につながってはいませんね。
そして韓国政府の回答は、公開された日韓政府間合意ほぼそのままです。

(2)韓国政府は,日本政府が在韓国日本大使館前の少女像に対し,公館の安寧・威厳の維持の観点から懸念していることを認知し,韓国政府としても,可能な対応方向について関連団体との協議を行う等を通じて,適切に解決されるよう努力する。

http://www.mofa.go.jp/mofaj/a_o/na/kr/page4_001664.html

裏合意のやり取りは、日本側が「少女像をどのように移転するか、具体的な韓国政府の計画を聞きたい」と求めたのに対して、韓国側はその問いに直接答えず、「韓国政府は日本政府が少女像について、憂慮している点を認知し、韓国政府としても可能な対応に関し、関連団体などとの協議を通じ、適切に解決されるよう努力する」という公開される合意内容とほぼ同じ内容をそのまま繰り返した、というものに過ぎません。

何度も言いますけど、公開された合意、非公開の裏合意のいずれにおいても、韓国政府は少女像を移転するとも撤去するとも言っていないんですよ。
それなのに、韓国政府は「撤去に向けて努力する事になっている」などという虚偽が流布されているわけです。

まあ、個人的には、もし日本社会が元慰安婦への首相の手紙を求めた時に、“もちろん合意の範囲内である”と快く応じていたのなら、韓国側にも合意を好意的に解釈するよう求めることにも道理はあろうと思いますけども、実際は酷いものでしたから。

ア 慰安婦問題は,当時の軍の関与の下に,多数の女性の名誉と尊厳を深く傷つけた問題であり,かかる観点から,日本政府は責任を痛感している。
 安倍内閣総理大臣は,日本国の内閣総理大臣として改めて,慰安婦として数多の苦痛を経験され,心身にわたり癒しがたい傷を負われた全ての方々に対し,心からおわびと反省の気持ちを表明する。

http://www.mofa.go.jp/mofaj/a_o/na/kr/page4_001667.html

と合意したくせに「手紙は合意の範囲外だ」と日本政府も日本社会も主張して拒絶したわけですからねぇ。
確かに「手紙」という文言は合意には入っていませんけど、「安倍内閣総理大臣は,日本国の内閣総理大臣として改めて,慰安婦として数多の苦痛を経験され,心身にわたり癒しがたい傷を負われた全ての方々に対し,心からおわびと反省の気持ちを表明する」と言う部分に基づいて手紙を要求することのどこが合意の範囲外なのか、という思い。

「TFは日本が拠出した10億円と少女像移転問題を交換したという密約がなかったということを明確にした」

韓国の外交部長官直属のタスクフォースによる日韓合意の検証報告書によって、日本側の主張に正当性があることが確認されたわけだ。関連団体との協議を行っていれば撤去できなくても合意を履行しているとは言えるかも知れないが、何もしていないと合意違反になる。日本側として努力を求める事は、追加措置の要求にはならない。

http://www.anlyznews.com/2018/01/2015.html

合意の文言、裏合意での韓国政府の発言、共に、「撤去」のための協議をするなどという約束になっていません。正直言って、日本側がそこまで撤去・移転にこだわるのなら、合意の文言として明記すべきだったとしか言いようがありませんね。そう指摘すると“韓国政府に配慮して明記を避けてやった”的な反論をする人もいるんですが、それはすなわち“撤去・移転要求を取り下げた”ということですからねぇ。

さて、TFの検証報告によって「日本側の主張に正当性があることが確認された」とのことですが、こちらでは別の評価もあります。

「文在寅(ムン・ジェイン)政権には責任がある姿勢でこの問題に終止符を打とうという考えが本当にあるのか疑わしい。TFは高く評価しなかったが、2015年の日韓慰安婦合意には日本側の責任とおわび、反省を明確に込められている。四半世紀の間、両国は一度も合意しなかったため、日本政府、しかも歴史問題に強い執着を見せる安倍政権が事実上、国家としての責任を認めたのは『歴史的な事件』だった。TF報告書では朴槿恵(パク・クネ)政権の失政を強調したいという意志が強く感じられた。ただ、TFは日本が拠出した10億円と少女像移転問題を交換したという密約がなかったということを明確にした。この問題をめぐり朝日新聞など多くの日本・韓国メディアによる不正確な報道があった」

http://japanese.joins.com/article/519/237519.html

「TFは日本が拠出した10億円と少女像移転問題を交換したという密約がなかったということを明確にした」そうです。要するに、少女像を移転するという確約はなかったことがTF検証によって明らかになったということですね*2

そして日韓合意で明記されていない少女像の移転・撤去の要求は、追加措置の要求に他なりません。



*1:あまりにもアレな場合は無視しますが。

*2:引用発言は朝日新聞の箱田哲也論説委員のもの。「朝日新聞など多くの日本・韓国メディアによる不正確な報道があった」というならさっさと訂正してもらいたいものです。

フランスの徴兵制復活方針の表明に関する雑感

主に軍オタが流布した徴兵制非合理論については、4年前に批判しました。
徴兵制って別に軍事的合理性がないわけじゃないと思いますが。
徴兵制に関すること
徴兵制デマ
徴兵制非合理論の陥穽

↑こんな感じで。

最近ちょいちょい海外で徴兵制を復活させる動きがあって、その界隈が動揺気味です。
直近ではフランスのこんなニュース。

徴兵制復活へ 仏大統領表明 18~21歳の男女対象

1月20日 0時44分
フランスのマクロン大統領は、軍の幹部らを前に演説を行い、15年以上前に廃止された徴兵制度を復活させる考えを示し、相次ぐテロの脅威に備えるためなどとして18歳から21歳の男女に対し、1か月間の兵役という形で導入を目指すと見られます。
フランスのマクロン大統領は19日、海軍の基地がある南部のトゥーロンで、軍の幹部や兵士を前に年頭の演説を行いました。
この中で、「すべての国民を対象にした徴兵制度に向けて取り組み、実現させる」と述べ、2002年に廃止となった徴兵制度を復活させる考えを示しました。
マクロン大統領は、去年の大統領選挙で、相次ぐテロの脅威に備えるためや国民の団結を強めるためだとして18歳から21歳の男女に対し、軍による訓練を中心とした1か月間の兵役の義務化を公約に掲げていました。
今後、この公約に沿った形で導入を目指すと見られますが、徴兵制度の復活には、その効果を疑問視する声や多額の費用がかかるという批判もあり、実現に向けて曲折も予想されます。

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20180120/k10011295281000.html

「18歳から21歳の男女に対し、1か月間の兵役という形で導入を目指す」とありますので、実態としては即戦力としては考えにくいところです。マクロン大統領は「相次ぐテロの脅威に備えるためや国民の団結を強めるため」という徴兵制復活を公約としたとのことですが、「1か月間の兵役」では軍事訓練としては満足なレベルに達するとは考えられず、狙いは「国民の団結を強めるため」にありそうです。
1か月の訓練を終えた国民に連帯意識を持たせるという感じですかね。

それ以外の目的としては動員システムを稼働状態に置くということが考えられます。徴兵経験者の情報を国が管理し、非常時に招集できるようにするための官僚機構の整備ですね。召集される徴兵経験者にも非常時に自分がどこに招集されるのか理解させるという意味もあるでしょう。


このマクロン式徴兵制度案については、次のような点が懸念されます。

徴兵を経た国民に連帯意識を持たせ「国民の団結を強める」というと、いいことのようにも思えますが、では徴兵対象外の外国人労働者や移民などはどうでしょうか?徴兵経験の有無によって“国民”を分断させる副作用が生じるのではないでしょうかね。すなわち外国人・移民に対する排斥・差別を助長するのではないかという懸念です。「相次ぐテロの脅威に備えるため」が暴走することを懸念せざるを得ません。

もう一つは、召集するための徴兵経験者の情報管理を国に委ねることの懸念です。まあ、2002年まで徴兵制度があった以上、その辺は今さらかも知れませんが。



バカでもわかる国際司法裁判所

国際司法裁判所というのは、国家間の法的な紛争を国際法に従って解決する国連機関です*1国際司法裁判所に紛争を付託できるのは国家だけです。
国際司法裁判所の管轄権は、国家が裁判所に付託するすべての問題、国連憲章や条約・協定が規定するすべての事項に及びます。当事者となる国家が裁判所の管轄権を受け入れる方式には、裁判所に付託することを規定した条約・協定に署名する方法(条約の条項)、予め裁判所の管轄権を受け入れる旨を宣言する方法(一方的宣言)、紛争当事国双方が裁判所の管轄権を受け入れに合意する方法(特別の合意)、の三つがあります。
裁判所の管轄権を受け入れる方式は、同じ国であっても紛争課題によって異なります。

韓国に徴用工像阻止へ働き掛け 政府「国際条約順守を」 - 共同通信

提訴しろというコメがあるがどこに提訴しろと?(笑)韓国は選択条項を受諾してないので国際司法裁への提訴を拒否できる。もっとも韓国が選択条項を受諾すれば日本が真っ先に提訴するのは「竹島問題」だろうけどね。

2018/01/18 08:35
b.hatena.ne.jp

こういう訳の分からないことを言う人がいますが、この人は同じ国でも紛争課題によって条約の条項として管轄権を受け入れているものもあれば、対象となる条約が存在せず管轄権を受け入れるかどうかをその都度判断できるものもある、ということを理解していません。

独島(竹島)問題

日本と韓国の間には、国境問題に関して国際司法裁判所に付託することを規定した条約が存在しません。したがって、紛争当事国双方が紛争当事国双方が裁判所の管轄権を受け入れに合意するか、双方が予め裁判所の管轄権を受け入れる一方的宣言をしていない限り、裁判は成立しません。

日本外務省のサイトでは、独島(竹島)問題に関して、このように説明されています。

(注2)ICJは,紛争の両当事者が同裁判所において解決を求めるという合意があって初めて当該紛争についての審理を開始するという仕組みになっています。我が国は,国際社会における「法の支配」を尊重する観点から,1958年以来,合意なく相手国が一方的に我が国を提訴してきた場合でも,ICJの強制的な管轄権を原則として受け入れています。しかし,韓国はこのような立場をとっていません。したがって,仮に我が国が一方的に提訴を行ったとしても,韓国が自主的に応じない限りICJの管轄権は設定されないこととなります。

http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/takeshima/g_teiso.html

なお、日本外務省による上記説明は、日本は「法の支配」を尊重するからICJの強制的な管轄権を原則として受け入れているが、韓国はこのような立場をとっていないとして、韓国が「法の支配」を尊重していないかのような書き方をしていますが、「各国はその紛争を解決する手段を選ぶ主権と自由を有して」いるというのが国連の立場ですので、それ自体が問題とは言えません。

関係国は裁判所に事件を付託できる権利を持ち、裁判所の管轄権を承諾しなくてはなりません。つまり、問題になっている紛争解決のために裁判所の司法手続きの当事国となることに同意するということです。これは国際紛争の解決を律する基本原則であり、各国はその紛争を解決する手段を選ぶ主権と自由を有しています。

http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/takeshima/g_teiso.html

また、強制的管轄権受諾宣言は相互主義のため、宣言を行っていない韓国が日本を提訴したとしても日本に応じる義務があるわけでもありません。ついでに言うなら、日本は強制的管轄権受諾宣言を、国際司法裁判所での南極海捕鯨事件裁判で敗訴した直後に改訂し、捕鯨に関する紛争を強制的管轄権受諾宣言から除外してもいます*2。日本が誇る「「法の支配」を尊重する観点」というのはその程度のものです。
ちなみにこの強制的管轄権受諾宣言をしているのは2018年1月現在73か国*3です。

ウィーン大使館条約

ウィーン大使館条約には、日本も韓国も加盟しています。そしてこのウィーン大使館条約には「紛争の義務的解決に関する選択議定書」というものが付随しています。その内容は次のようなものです。

第一条
条約の解釈又は適用から生ずる紛争は、国際司法裁判所の義務的管轄の範囲内に属するものとし、したがつて、これらの紛争は、この議定書の当事国である紛争のいずれかの当事国が行なう請求により、国際司法裁判所に付託することができる。

https://www1.doshisha.ac.jp/~karai/intlaw/docs/vcdrp.htm

Article I
Disputes arising out of the interpretation or application of the Convention shall lie within the compulsory jurisdiction of the International Court of Justice and may accordingly be brought before the Court by an application made by any party to the dispute being a Party to the present Protocol.

https://treaties.un.org/doc/Publication/UNTS/Volume%20500/volume-500-I-7312-English.pdf

ウィーン大使館条約に関する紛争は、国際司法裁判所の義務的管轄の範囲内であるという内容の議定書です。これが裁判所に付託することを規定した条約・協定に署名する方法(条約の条項)にあたります。
この選択議定書に、日本は1962年3月26日に署名し、1964年6月8日に批准、韓国は1962年3月30日に署名し、1971年1月25日に批准しています。

したがって、ウィーン大使館条約に関する紛争については、日本は韓国を提訴することが出来、国際司法裁判所に事件を付託できるわけです。

まとめ

独島(竹島)問題については、日本と韓国が特別に合意しない限り(あるいは韓国も一方的宣言を行わない限り)、その紛争を国際司法裁判所に付託することはできません。
しかし、ウィーン大使館条約に関する紛争については、同条約に関する紛争を国際司法裁判所に付託する紛争の義務的解決に関する選択議定書に日本も韓国も署名しているため、いずれか一方が提訴すれば国際司法裁判所に付託することができます。

ソウルの大使館前の慰安婦少女像や徴用工像がウィーン条約に違反すると日本政府が本気で考えているのならば、日本は国際司法裁判所に提訴し付託することができるわけです。
韓国に徴用工像阻止へ働き掛け 政府「国際条約順守を」(2018/1/17 17:57、©一般社団法人共同通信社)

以上、バカでもわかる程度にわかりやすく書いたつもりですが、暗黒太陽には難しすぎて理解できなかったかも知れませんね。



*1:それ以外に国連機関に対して法律的問題について勧告的意見を与える役割も持っています。

*2:http://www.jsil.jp/expert/20160505.pdf

*3:http://www.icj-cij.org/en/declarations

外交的修辞としての2015年日韓政府間合意と1972年日中共同声明

広辞苑の「日中共同声明」の項目に「日本は中華人民共和国を唯一の正統政府と承認し、台湾がこれに帰属することを実質的に認め」という記述があることが少し前に問題視されました。
読者の皆様へ――『広辞苑 第六版』「台湾」に関連する項目の記述について

日中共同声明(1972年)にはこう書かれています。

中華人民共和国政府は、台湾が中華人民共和国の領土の不可分の一部であることを重ねて表明する。日本国政府は、この中華人民共和国政府の立場を十分理解し、尊重し、ポツダム宣言第八項に基づく立場を堅持する。

http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/china/nc_seimei.html

台湾が中華人民共和国の一部であることを日本政府は理解し尊重すると書かれています。これは日本政府が、台湾が中華人民共和国の一部であることを認めたのと同義でしょうか。
普通はそうではなく外交的修辞であることを踏まえて、「台湾が中華人民共和国の一部である」という中華人民共和国の“主張”を理解した、と解釈します。あくまでも、中国がそう主張しているという事実を理解したのであって、主張内容に同意したわけでも、承認したわけでもない、という解釈ですね。
もちろん、日中共同声明には、理解するだけではなく、尊重するとも書いてありますから、全体としては、“日本政府は中国政府の主張内容に同意したわけでも承認したわけでもないが、反対もしない”という感じになりますね。

さて。

2015年日韓政府間合意には、こうあります。

(2)韓国政府は,日本政府が在韓国日本大使館前の少女像に対し,公館の安寧・威厳の維持の観点から懸念していることを認知し,韓国政府としても,可能な対応方向について関連団体との協議を行う等を通じて,適切に解決されるよう努力する。

http://www.mofa.go.jp/mofaj/a_o/na/kr/page4_001664.html

韓国政府は、日本政府が少女像について懸念していることを認知し、適切に解決されるよう努力する、とあります。これは韓国政府が、少女像の撤去・移転に同意したのと同義でしょうか。日中共同声明の場合と同様に、これも外交的修辞ですから、「日本政府が少女像について懸念していること」を韓国政府は認知した、と解釈します。あくまでも日本政府が懸念しているという事実を知ったのであって、懸念に同意するわけでも問題だと認めたわけでもない、という解釈です。
そしてこの合意でも、認知するだけではなく、適切に解決されるよう努力するとありますから、全体としては、“韓国政府としては日本政府の懸念に同意するわけでも認めるわけでもないが、適切に解決されるよう努力してあげましょう”という感じになります。

そういうわけで「韓国政府は慰安婦像が問題と認識して解決するよう努力する」なんてことは書かれていませんよ、という話。

韓国政府が日本の自発的な謝罪を期待すると“追加措置要求だ”と発狂した安倍政権は、合意直後に少女像撤去を期待するという“追加措置”を要求していたりする。 - 誰かの妄想・はてな

本文中にちゃんと韓国政府は慰安婦像が問題と認識して解決するよう努力するって書かれてません?記事見る限り合意に基づいて動くよう催促してるようにしか見えないのですが…

2018/01/18 15:34
b.hatena.ne.jp


韓国政府として少女像を問題だと認識したのではなく“なんかよくわからんけど日本政府が懸念しているらしいことは認知した”という程度の外交的修辞になっているだけです。
「適切に解決されるよう努力する」の内容についても具体的にどうすればよいかという記載は何もありません。

努力する内容も「可能な対応方向について関連団体との協議を行う等を通じて」決めることであって、日本政府の意向を聞くとも書かれていません。

適切な解決が、少女像の移転や撤去を意味するとは合意のどこにも書かれていません。
少女像の移転や撤去の要求は、勝手に日本政府が合意の範囲外で主張している「追加措置」の要求に過ぎません。

ここまでかみ砕いて説明しても理解できないなら、もう少し人生経験を積めばわかるようになるんじゃないかな、と言っておきます。



韓国政府が日本の自発的な謝罪を期待すると“追加措置要求だ”と発狂した安倍政権は、合意直後に少女像撤去を期待するという“追加措置”を要求していたりする。

2016年1月12日の毎日新聞記事。

衆院予算委>首相、沖縄の選挙「影響せず」 辺野古移設
毎日新聞 1月12日(火)11時29分配信
 慰安婦問題の「最終的かつ不可逆的」な解決を確認した日韓合意に関しては、慰安婦を象徴する日本大使館前の少女像は「移転されると考えている」と述べ、韓国側の対応を見守る考えを示した。

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20160112-00000035-mai-pol(リンク切れ)
http://scopedog.hatenablog.com/entry/20160112/1452604963

少女像を移転するという内容は、日韓政府間合意には存在せず、合意の範囲外です。

(2)韓国政府は,日本政府が在韓国日本大使館前の少女像に対し,公館の安寧・威厳の維持の観点から懸念していることを認知し,韓国政府としても,可能な対応方向について関連団体との協議を行う等を通じて,適切に解決されるよう努力する。

http://www.mofa.go.jp/mofaj/a_o/na/kr/page4_001664.html

ちなみに裏合意にも、少女像の移転・撤去を確約する合意は存在しません。

(オ)少女像
 一、合意内容は、両外相が共同記者会見で発表した部分と、発表しない部分があり、少女像問題は両方に含まれた。
 一、応答形式の非公開部分で日本側は「今回の発表により慰安婦問題は最終的かつ不可逆的に解決され「韓国挺身(ていしん)隊問題対策協議会(挺対協)」などの団体が不満を表明した場合でも、韓国政府としては同調せず、説得するよう望む。少女像をどのように移転するか、具体的な韓国政府の計画を聞きたい」と言及した。
 一、これに対し、韓国側は「韓国政府は日本政府が少女像について、憂慮している点を認知し、韓国政府としても可能な対応に関し、関連団体などとの協議を通じ、適切に解決されるよう努力する」と答えた。
 一、少女像は民間団体が設置したため、政府が関与して撤去するのは難しいと主張してきたにもかかわらず、韓国側はこれを合意内容に含めた。

https://www.jiji.com/jc/article?k=2017122700836&g=pol

つまり、安倍首相は合意の範囲外である少女像移転を“追加措置”として要求していたわけです。日韓政府間合意成立から半月も経たないうちにです*1

最近、菅官房長官が日韓政府間語彙について「1ミリたりとも動かさない」とか言ったようですが、動かしてるのはお前らだ、と言いたいですね。



*1:ちなみに、岸田外相も同様の少女像移転という”追加措置”を要求していますが、こちらは合意当日です。こいつら合意からたったの1日すら我慢できず、追加要求を出しているわけです。それをまともに批判できないメディアがあまりにも情けないですね。

文政権新方針に関する朝日社説に対する批判

2018年1月10日の朝日新聞社説です。
まあ、朴裕河路線に絡めとられている朝日では、この程度の社説しか出せないだろうという感じ。

 韓国政府として今後どうするのか明確な考え方が見えない。理解に苦しむ表明である。

https://www.asahi.com/articles/DA3S13305833.html

のっけからこれですが、今回の韓国政府の対応って結構わかりやすいと思うんですけどね。なぜ「理解に苦しむ」のか、そっちの方こそ理解に苦しみます。まあ、これは別途記事を挙げたいと思いますので、ここでは保留。

「合意の根幹である元慰安婦らへの支援事業は変更する方針」

 ところが一方で、合意の根幹である元慰安婦らへの支援事業は変更する方針を示した。
 日本政府から拠出された10億円は、韓国政府が同額を支出し、日本の拠出金の扱いは「日本側と今後協議する」という。
 支援事業のために設立された財団の運営については、元慰安婦や支援団体などの意見を聞いて決めるとしている。
 これでは合意が意味を失ってしまう恐れが強い。合意の核心は、元慰安婦たちの心の傷を両政府の協力でいかに癒やしていくか、にあったはずだ。

https://www.asahi.com/articles/DA3S13305833.html

もう何度目だと思うんですが、合意の内容はこれです。

(2)日本政府は,これまでも本問題に真摯に取り組んできたところ,その経験に立って,今般,日本政府の予算により,全ての元慰安婦の方々の心の傷を癒やす措置を講じる。具体的には,韓国政府が,元慰安婦の方々の支援を目的とした財団を設立し,これに日本政府の予算で資金を一括で拠出し,日韓両政府が協力し,全ての元慰安婦の方々の名誉と尊厳の回復,心の傷の癒やしのための事業を行うこととする。

http://www.mofa.go.jp/mofaj/a_o/na/kr/page4_001664.html

日本政府の予算で資金を拠出し、韓国政府が財団を設立し、そして「日韓両政府が協力し,全ての元慰安婦の方々の名誉と尊厳の回復,心の傷の癒やしのための事業を行うこと」が合意の内容です。
でも、法的責任を認めない日本政府からの金を受け取りたくないという元慰安婦がいるわけですよね。その意向を無視して金を押し付けることは「名誉と尊厳の回復,心の傷の癒やしのための事業」に値しないでしょう。普通の市民感覚でもそんなことはわかるでしょうに。
では、どうすればいいか、“日本政府からの金を受け取りたくない”のなら、韓国政府から出すのでそれを受け取ってほしい、というのが「韓国政府が同額を支出」する意図でしょうよ。もちろん、その資金の利用方法については単純に配布するというのではなく、「元慰安婦や支援団体などの意見を聞いて決める」ということです。
まさに“日本政府からの金を受け取りたくない”という元慰安婦も含めた「全ての元慰安婦の方々の名誉と尊厳の回復,心の傷の癒やしのための事業」そのものじゃないですか。

朝日社説のいう「合意が意味を失ってしまう恐れ」なんてのは、全く理解できません。「合意の核心は、元慰安婦たちの心の傷を両政府の協力でいかに癒やしていくか、にあったはずだ」というのならば、「元慰安婦や支援団体などの意見を聞いて決める」のは当たり前の話です。誰のための合意だと思ってるんですかね?

で、宙に浮く「日本政府から拠出された10億円」ですが、それについては「日本側と今後協議する」というのが韓国政府の方針です。
これも「日韓両政府が協力し,全ての元慰安婦の方々の名誉と尊厳の回復,心の傷の癒やしのための事業を行うこと」の一環ですよね。“日本政府からの金を受け取りたくない”という元慰安婦の意向を考慮したうえで、どのように「名誉と尊厳の回復,心の傷の癒やしのための事業」を行うのか、どのように資金を利用するか、「日韓両政府が協力し」と合意に書いてある以上、拠出した日本政府と協議して決めたいというのは、これまた当たり前の話です。
韓国政府が求める「日本の拠出金の扱い」関する協議に日本政府は応じる義務があり、それは日韓政府間合意上、明らかですよね。

慰安婦には多様性がある”というのは、朴裕河氏の書籍を擁護する際に用いられたフレーズですが

 これまでの経緯に照らしても一貫性を欠く。
 日本では90年代以降、官民合同の「アジア女性基金」が償い金を出した。だが、民間の寄付が主体なのは政府の責任回避だとして韓国から批判が出た。
 今回の合意はそれを踏まえ、政府予算だけで拠出されたものだ。その資金を使って財団が支援事業をすることを否定するならば、話は大きく変わる。

https://www.asahi.com/articles/DA3S13305833.html

日本政府予算からの資金であれば受け取れるという元慰安婦もいれば、日本政府予算からの資金であっても日本政府が法的責任を認めないのならば受け取れないという元慰安婦もいる。多様性があるのですから、別に不思議な話ではありません。多様な元慰安婦に対して、画一的な基準でもって「一貫性を欠く」とか指摘するのは配慮に欠けていますし、朴裕河氏の書籍を擁護する際に用いた自らの主張とも矛盾するんじゃないですかね。

この合意では「問題解決はできぬ」という発言と新方針で問題が解決するかというのは別問題

 この合意が結ばれた手続きについても韓国外相の調査チームは先月、問題があったとする報告をまとめていた。その後、文大統領はこの合意では「問題解決はできぬ」と発言した。
 では、きのう表明した方針で問題が解決するかといえば、甚だ疑問であり、むしろ事態はいっそう混迷しかねない。

https://www.asahi.com/articles/DA3S13305833.html

文政権の今回の対応について、個人的には限られた選択肢の中で最良の選択をしたと評価しています。それは韓国の外交・内政両面にとってのみならず、人権問題という面でも及第点であろうという評価です。まあ、戦時性暴力被害者である元慰安婦らに徹底的に寄り添い、日本と外交的に対立するという選択肢も無いではないですが、その選択肢は人権問題という面で見てもあまり有効ではないだろうと見ています*1
で、朝日は「文大統領はこの合意では「問題解決はできぬ」と発言した」ことを批判していますが、現実に日韓政府間合意を受け入れず批判している元慰安婦がいる以上、「問題解決はできぬ」のは事実でしかありません。日韓両政府間だけの問題であるならば日韓政府間合意で解決できますが、慰安婦問題の当事者というのはまず第一に元慰安婦らです。

どうも、日本政府も日本社会も韓国前政府も元慰安婦らは慰安婦問題の当事者ではないと考えているフシがありますが、言うまでもなく、慰安婦問題の第一の当事者は元慰安婦らであって、日本政府はその相手方当事者であり、韓国政府は元慰安婦らの代理人でしかありません。代理人と相手方当事者がいくら合意案を練り上げたところで、当事者である元慰安婦らの同意を得ていなければ問題が解決したことにはなりませんよ。

また、そもそも日韓政府間合意の文言上も、解決確認には前提条件が規定されています。

(3)日本政府は上記を表明するとともに,上記(2)の措置を着実に実施するとの前提で,今回の発表により,この問題が最終的かつ不可逆的に解決されることを確認する。

http://www.mofa.go.jp/mofaj/a_o/na/kr/page4_001664.html

上記(2)の措置」すなわち「全ての元慰安婦の方々の名誉と尊厳の回復,心の傷の癒やしのための事業を行うこと」です。
日韓政府間合意を受け入れず批判している元慰安婦がいる以上、「全ての元慰安婦の方々の名誉と尊厳の回復,心の傷の癒やしのための事業」は完遂されておらず、したがって「上記(2)の措置を着実に実施するとの前提」は成立せず、当然「解決されること」にもならないのですよ。

もちろん「きのう表明した方針で問題が解決するか」という点については未確定で予断を許せるものではありませんが、それは2015年合意で問題解決できるかどうかとは別の問題です。朝日社説ともあろうものが、別の問題を混同して批判するなど朴裕河路線に毒されるにもほどがあるでしょう。

「元慰安婦のための支援事業のていねいな継続」のために

 何よりめざすべきは、元慰安婦のための支援事業のていねいな継続であり、そのための日韓両政府の協力の拡大である。
 その意味では日本側も「1ミリたりとも合意を動かす考えはない」(菅官房長官)と硬直姿勢をとるのは建設的ではない。

https://www.asahi.com/articles/DA3S13305833.html

「元慰安婦のための支援事業のていねいな継続」が重要なのは確かです。そのために日本政府の資金を受け入れない元慰安婦らが受け入れられるよう韓国政府も資金を出すんですよ。何でそれが理解できないかな?
ところで菅官房長官は「1ミリたりとも合意を動かす考えはない」とか言ってますけど、2015年合意にも裏合意にも存在しないソウル大使館前の少女像の撤去を求めたり、合意中に全く存在しないソウル以外の慰安婦記念碑などについて抗議するなど、日本側はさんざんゴールポストを動かしてますよ。日本のメディアは、自分たちもゴールポストと一緒に動いているから気付かないだけです。少女像の撤去など合意されていないのに、合意事項であると散々報じてきた責任は取ってほしいものですね。

「韓国側から言われるまでもなく、合意を守るためにその範囲内でできる前向きな選択肢を考えるのは当然」

 アジア女性基金では歴代の首相が元慰安婦におわびの手紙を送ってきた。韓国側から言われるまでもなく、合意を守るためにその範囲内でできる前向きな選択肢を考えるのは当然だ。

https://www.asahi.com/articles/DA3S13305833.html

これはまあ当然ですが、韓国側から言われるまで日本のメディアはろくにそんな提言してこなかったわけでね*2。それどころか、2016年10月に安倍首相が謝罪の手紙を「手紙は合意に含まれていない」と言下に拒絶した時に、それをまともに批判した日本メディアがありましたかね?
そのくせ「合意に含まれていない」少女像の撤去を韓国政府の義務であるかのように報じ、韓国は合意を守っていないと非難しているわけですから、日本はどれだけ恥知らずなのか、と。

「自発的」の意味

既に韓国政府は、日本側の自発的な謝罪を期待する、という姿勢に切り替わっています。
「自発的な」ですから、今後、日本がどうしても戦時性暴力被害者に対して謝罪したくないならしょうがない、という姿勢です。

自発的に謝罪などしたくないなら、日本は無視すればよろしい。それで日韓外交上は「混迷」したりしないでしょうよ。でも、日本政府や日本社会はその無視ができないでしょうね。今後、韓国政府が元慰安婦らを記念する施設や行事を推進する度に、顔を真っ赤にして抗議しまくって、日韓外交に「混迷」をもらたすでしょう。
ただ、その「混迷」の原因は、自発的に謝罪することも韓国のやることを無視することも出来ない日本政府・日本社会の幼児的なわがままに帰するものですから、そのくらいは自覚して少しは大人になってほしいものです。



*1:もちろん、有効かどうかとは別に原則としてどうあるべきか、というのも大事ですし、元慰安婦らの意向に寄り添うのも重要ですので、そういう主張に対しては同意はしないものの尊重し、共感しますが。

*2:西日本新聞が2017年4月に提言したのは把握してますが、それ以外はよくわからない。

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前途多難な安倍政権

文政権が日韓政府間合意について破棄も再交渉もしないと表明したことで、日本以外では安倍政権が期待していたような韓国非難の論調が広まっていません。

Japan Balks at Calls for New Apology to South Korea Over ‘Comfort Women’(By MOTOKO RICHJAN. 12, 2018 )
South Korea ended its review of its ‘comfort women’ deal with Japan. Here’s what you need to know. (By Celeste Arrington, January 11)
South Korea will not renegotiate ‘comfort women’ deal with Japan Seoul stands by 2015 agreement but angers Tokyo with demand for further action (Bryan Harris in Seoul and Robin Harding in Tokyo, January 9, 2018)
South Korea Urges Japan Issue 'Heartfelt Apology to 'Comfort Women' (January 10, 2018 6:03 AM )

まあ、“事実上の”破棄だなんて日本がいくら言っても、公式には破棄してない以上、同調してくれる国はあまり現われないでしょう。それは日韓政府間合意以降も、慰安婦を売春婦呼ばわりしたり性奴隷に非ずと国連で声高に叫んだりして、“事実上の”合意違反を繰り返してきた日本政府自身が良く理解しているべき話でしょうにね。

さて、前途多難なのはそれだけではなく、英語圏の報道にも表れています。

裏合意で「慰安婦を性奴隷と表現するな」と要求した日本政府

今回の文政権による日韓政府間合意の検証によって、日本政府が韓国政府に対して「「性奴隷」という単語を使用しないよう希望」したことが明らかになりました。

 一、日本側は(1)今回の発表により慰安婦問題は最終的かつ不可逆的に解決され、挺対協など団体が不満を表明する場合にも、韓国政府としては同調せず、説得するよう望む。少女像をどのように移転するか、具体的な韓国政府の計画を聞きたいと言及(2)第三国における慰安婦関連の像・碑の設置に対しては、このような動きは諸外国で各民族が平和と調和の中で共存を希望する中で、適切でないと考える(3)韓国政府は今後、「性奴隷」という単語を使用しないよう希望する-と指摘した。

https://www.jiji.com/jc/article?k=2017122700836&g=pol

詐欺や暴力によって日本軍相手の売春を強制された戦時性暴力被害者のことを現在の日本では「性奴隷」と呼んではいけないことになっています。慰安婦を「性奴隷」と表現すると様々な社会的な抑圧が加えられる一方で、慰安婦を自発的な売春婦だと表現する連中は安倍政権や右翼メディアに重宝され、様々な恩恵を与えられるような状況です。
日本国内に、日本軍慰安婦を「性奴隷」だと表現できるメディアはほとんど残っていないでしょう。

ところが安倍政権による圧力と支配が届かず、安倍首相との会食に招かれることもない英語圏のメディアは忖度という日本の伝統文化を理解していません。

New York Times

Three days after South Korea said it would not roll back a 2015 accord over women forced into sexual slavery for the Japanese military during World War II, Prime Minister Shinzo Abe of Japan rejected on Friday “additional measures” sought by Seoul.

https://www.nytimes.com/2018/01/12/world/asia/japan-south-korea-comfort-women.html

Washington Post

On Tuesday, the South Korean government wrapped up a months-long process of reviewing a landmark 2015 agreement with Japan over the “comfort women” issue. In the agreement, Japan apologized for the sexual enslavement of Korean women in military brothels before and during World War II. It also offered for the first time government money to support surviving victims through a foundation run by the Korean government. Both sides pledged to stop criticizing each other on the comfort women issue. They pronounced the deal a “final and irreversible resolution” to the issue.

https://www.washingtonpost.com/news/monkey-cage/wp/2018/01/11/south-korea-ended-its-review-of-its-comfort-women-deal-with-japan-heres-what-you-need-to-know/

Financial Times

South Korea will not try to renegotiate a contentious deal with Japan over the latter’s wartime use of sex slaves but insisted that the issue was not resolved.

https://www.ft.com/content/3e21906e-f50e-11e7-88f7-5465a6ce1a00

Voice of America

South Korean President Moon Jae-in has urged Japan to make a "heartfelt apology" to the women who were forced into sexual slavery by Japanese colonial forces.

https://www.voanews.com/a/moon-jae-in-wants-japan-to-apologize-for-comfort-women/4201316.html

こんな感じでいずれも、"sexual slavery"、"the sexual enslavement"、"sex slaves"といった表現で報じています。
これらの英字紙の記事はとてもけしからんものです。

ちゃんと、安倍政権が慰安婦を性奴隷と呼ぶなと裏合意で要求したことにも言及するべきですよね。

そんなわけで安倍政権にはこれらの英字紙に対して、「性奴隷と呼ぶな!」と正式に抗議してほしいものです。日本の真意が英語圏にしっかりと伝わることでしょう。