米韓通貨スワップ協定に関する件・補足

ところでこのサイトなどは、「03月19日にFEDが新たにスワップラインを締結した9カ国の中央銀行の中で、韓国銀行はぶっちぎりで最高金額を借りています」などと述べています。このサイトの論調は、韓国に対する揶揄・侮蔑に満ちていますが、それ故に韓国以外については全く見ておらず、結果として韓国すら見えていません。

ちなみに、「新たにスワップラインを締結した9カ国の中央銀行」に限定せずに、5月7日時点での借金額を並べると以下のようになります。

相手 未返済額*1
EU*2 1437億0970万ドル
英国*3 258億8000万ドル
カナダ*4 0.0
日本*5 2198億3200万ドル
スイス*6 100億6000万ドル
オーストラリア*7 11億7000万ドル
デンマーク*8 42億9000万ドル
ノルウェー*9 54億ドル
シンガポール*10 84億2400万ドル
ブラジル*11 0.0
韓国*12 174億5800万ドル
メキシコ*13 65億9000万ドル
ニュージーランド*14 0.0
スウェーデン*15 0.0
総額 4428億1370万ドル

未払総額4428億1370万ドルの約半分(49.6%)が日銀の借金分ですね。米国との通貨スワップ協定に基づく5月7日時点の日銀の借金額は韓国銀行の借金額の実に12倍以上ですね。

そろそろ本当に返済時の心配をした方が良いのではないでしょうか。



*1:Amount Outstanding

*2:European Central Bank

*3:Bank of England

*4:Bank of Canada

*5:Bank of Japan

*6:Swiss National Bank

*7:Reserve Bank of Australia

*8:Danmarks Nationalbank

*9:Norges Bank

*10:Monetary Authority of Singapore

*11:Banco Central Do Brasil

*12:Bank of Korea

*13:Banco de Mexico

*14:Reserve Bank of New Zealand

*15:Sveriges Riksbank

米韓通貨スワップ協定に関する件・2

米韓通貨スワップ協定に関する件 - 誰かの妄想・はてなブログ版の続き。

韓米通貨スワップのドル供給、開始37日後に中断…理由は?(5/7(木) 11:25配信 中央日報日本語版)

米韓通貨スワップ協定に基づくドル供給が6回目で中断することになりました。6回分の入札状況は以下のとおり。

入札日 入札額 応札額 決済日
3月31日 120億ドル 87億2000万ドル 4月2日
4月 7日 85億ドル 44億1500万ドル 4月9日
4月14日 40億ドル 20億2500万ドル 4月17日
4月21日 40億ドル 21億1900万ドル 4月23日
4月27日 40億ドル 12億6400万ドル 4月29日
5月 6日 40億ドル 13億2900万ドル 5月8日
決済日 落札額 金利 満期日
4月 2日 8億ドル 0.5173% 4月 9日
4月 2日 79億2000万ドル 0.9080% 6月25日
4月 9日 2億7500万ドル 0.4819% 4月17日
4月 9日 41億4000万ドル 0.5323% 7月 2日
4月17日 1000万ドル 0.3300% 4月23日
4月17日 20億1500万ドル 0.3567% 7月 9日
4月23日 21億1900万ドル 0.3386% 7月16日
4月29日 12億6400万ドル 0.3348% 7月23日
5月 8日 13億2900万ドル 0.2941% 7月30日

(参照:Central Bank Liquidity Swap Operations

韓銀関係者は「通貨スワップが締結されたことで必要ならいつでもドルを調達できるという心理が金融機関に広がり、安全弁の役割をした」とし「国内銀行の外貨健全性も相対的に良好とみられる」と説明した。

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20200507-00000030-cnippou-kr

中央日報記事にはこのような記述がありますが、金利が4月頭からかなり下がっていることもあり、まあその通りでしょうねぇ。


協定そのものは、米国連邦準備銀行FRB)と韓国銀行の間で締結されるものです。

例えば、韓国銀行が4月2日から4月9日まで8億ドル必要な場合、FRBから8億ドルの提供を受け、同時に4月2日の為替レートで8億ドル相当の韓国ウォンをFRBに提供します。そして4月9日になったら、韓国銀行はFRBに8億ドルを返済し、FRBは4月2日の為替レートでの韓国ウォンを韓国銀行に返済します*1
決済時点と満期時点で同じ為替レートを用いるため、実際の市場為替レートが変動していたとしても、FRBも韓国銀行も利益も損失も生じません。
ちなみに利息は双方に発生しますから満期時点で為替レートが大きく変動していなければ、双方プラスもマイナスも大したことになりません。


韓国銀行は8億ドルをどう使うかというと、8億ドルの110%相当額(国債など*2)を担保として市中の銀行*3に貸し出すわけです。

貸出期間は基本的に短期間で、要するに外貨払い用のつなぎ資金なわけですが、個人がサラ金で借りるようなものとは性質が全く違います。

それを混同して韓国差別するのが嫌韓バカなわけですが。



*1:Federal Reserve Board - Swap Lines FAQs

*2:国債政府保証債通貨安定証券を優先、不足する場合は、銀行債、韓国住宅金融公社発行の住宅抵当証券、ウォン貨現金も認める

*3:輸出入銀行、産業銀行、企業銀行など、国策銀行を含むすべての銀行

有馬哲夫氏の慰安婦問題否認論の誤りについて・1

この件。
「従軍慰安婦」が歴史教科書に復活 どこが問題か? 一からわかる「慰安婦問題」(1)(5/7(木) 7:45配信 デイリー新潮)
デイリー新潮が有馬哲夫氏の著書から抜粋引用する形で慰安婦問題否認論を展開しています。これは歴史修正主義に他なりませんが、記事の内容が抜粋であるなら原典著者である有馬氏自身が歴史修正主義者であるということになるでしょうね。以下、新潮記事が有馬氏著書から正確・誠実に抜粋していることを前提として記載します。

有馬氏の手法・ワラ人形叩き

有馬氏はまずこんなことを述べています。

朝鮮人慰安婦は20万人いたか

 いわゆる「慰安婦問題」に関しては、現在「20万人の朝鮮人女性が日本軍や官憲によって強制的に慰安婦にされた」という途方もない言説が世界に広まっています。これは複雑な経緯があってこういうことになっていますが、まったく歴史的事実に反しているということを最初にいっておきます。また、そもそもこれは、「歴史問題」ではないということも断っておきましょう。その上で、反証可能な歴史論議によってこの言説を検討してみましょう。
 まず、20万人という数ですが、これはアメリカなど海外のメディアで報じられている数で、クマラスワミ報告書のなかにあります。しかし、その根拠は北朝鮮当局が出した数字です。北朝鮮はジェノサイド(集団虐殺)も主張しています。
 北朝鮮のいうことは全部嘘だ、とまではいいませんが、問題は報告者のラディカ・クマラスワミが北朝鮮に招かれていたにもかかわらず調査にいかず、代わりの「人権センターの代表団」に行かせ、北朝鮮側が用意した「慰安婦」の証言を鵜呑みにして報告書を作っていることです。つまり、意図のある聞き手が意図のある証言者から得た、反証可能性のない、一方的な証言なのです。それなのに、なんの事実確認も検証もせず、そのまま報告書に記載しています。お読みいただいた方はその内容がいかに信じがたいものかお分かりだろうと思います。まだの方は、ぜひアクセスして確かめてみてください。

https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20200507-00621510-shincho-kr

この記載を読むと、北朝鮮当局の出した数値を根拠にクマラスワミ報告(女性に対する暴力-戦時における軍の性奴隷制度問題に関して、朝鮮民主主義人民共和国、大韓民国及び日本への訪問調査に基づく報告書-(日本語))は、20万人の朝鮮人女性が慰安婦にされたと結論付けたような印象を受けます。
しかし、「20万人の朝鮮人女性」についてはパラグラフ 69に書かれていますが、明確に「北朝鮮の立場」として北朝鮮側の専門家の主張を記載しているにすぎず、報告書として結論付けた数字ではありません。ちなみに「韓国の立場」も「日本の立場」も報告書に載っています。
さらに言えば、20万人という数字自体は、1996年1月のクマラスワミ報告以前に吉見義明氏の推算の一つとして提示されていますし*1、「金一勉氏が慰安婦の「8割ー9割」、17ー20万人が朝鮮人である」と主張したのはもっと前です。

そもそも「現在「20万人の朝鮮人女性が日本軍や官憲によって強制的に慰安婦にされた」という途方もない言説が世界に広まっています」という有馬氏の事実認識も怪しいんですよね。

例えばオーストラリア政府のサイトには慰安婦の人数についての言及も特にありませんし、報道でも特に言及されていません。
NBCの「Who are the 'comfort women,' and why are U.S.-based memorials for them controversial?」という記事には20万人という数字が出てきますが、「She was one of an estimated 200,000 “comfort women,” a euphemism for the mostly Korean women who were forced into Japanese military-run brothels during World War II.」という記載のみで、20万人の“朝鮮人”女性という説明ではありません。
韓国政府の公式サイトでさえ、20万人の“朝鮮人”女性という説明はしていません。

At present, it is not possible to know the total number of women conscripted as Japanese military ‘comfort women’ since no systematic data revealing their number. Some scholars have speculated on the total number of ‘comfort women’ victims based on data from Japanese military plans of how many ‘comfort women’ were to be assigned per Japanese soldier or from testimonial records. However, there seems to be a great differences among researchers due to a variety of assertions placing the total number between a range of 30,000 to 400,000.

In the early days of ‘comfort station’ installations, the Japanese conscripted mainly women from Japan and their colonies of Joseon (Korea) and Taiwan. As the war became prolonged and the front lines expanded, women from other occupied territories such as China, the Philippines, Indonesia, Vietnam, Myanmar, and Dutch women living in Indonesia were forced to serve as ‘comfort women’. Yoshimi Yoshiaki, a researcher who has long studied the issue of ‘comfort women’ in the Japanese military, estimated that the number of ‘comfort women’ in the Japanese military was at least 80,000 to 200,000 and that more than half of them were women from Joseon (Korea).

http://www.hermuseum.go.kr/eng/PageLink.do?thirdMenuNo=&subMenuNo=010100&menuNo=010000&link=forward:/PageContent.do&tempParam1=&%22

いったいどこの世界で「現在「20万人の朝鮮人女性が日本軍や官憲によって強制的に慰安婦にされた」という途方もない言説が世界に広まって」いるのでしょうか?
単に有馬氏にとって「20万人の朝鮮人女性が日本軍や官憲によって強制的に慰安婦にされた」という説であれば反論しやすいから、それが「世界に広まって」いることにしたいだけではないですかね。

有馬氏の慰安婦認識の誤り

さて、有馬氏は「20万人の朝鮮人女性が日本軍や官憲によって強制的に慰安婦にされた」という決して主流とは言えない説を否定してみせるため、以下のように続けます。

 さて、20万人という数を反証可能なデータに照らし合わせてみるとどうなるのでしょうか。
 日本の領土内(朝鮮半島、台湾などを含む)には慰安所はありませんでした。したがって、慰安婦が相手をしたのは、占領地や戦地の日本兵です。
 日本から大陸に渡った日本軍の兵士の総数は約300万人です。もちろん、戦争中増減があり、末期にはかなり減ります。そうすると最多の時期でも兵士15人につき慰安婦が1人という割合になります。日本軍の幹部が兵士150人につき1人の慰安婦が必要だと考えていたという記録が残っていますが、この数はその10倍にものぼります。

https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20200507-00621510-shincho-kr

有馬氏はのっけから間違っています。慰安所が「日本の領土内(朝鮮半島、台湾などを含む)」にもあったことは常識です。
「日本から大陸に渡った日本軍の兵士の総数は約300万人」も意味不明です。この表現では中国大陸に派兵された兵力以外は無視されてしまいますし、「総数」というのも延べ数かどうかも曖昧です。
ちなみに1944年時点で、中国には77万人、朝鮮・満州には51万人、南方に138万人、航空・船舶部隊として45万人の陸軍兵力がありました(内地に87万人)*2。内地以外に300万人以上の陸軍がいたということでそのことを指しているのかもしれませんが、有馬氏の記載はあまりにも不明瞭ですね。

「日本軍の幹部が兵士150人につき1人の慰安婦が必要だと考えていたという記録が残っています」と有馬氏は言っていますが、「兵100人女1名慰安隊ヲ輸入」という言葉」*3という言葉もあります。さらに中国戦線では中隊以上の駐屯地には慰安所の開設が認められていましたが*4、中隊定員は220人で慰安所一軒には慰安婦4~5人いるのが普通ですから、この場合は兵士約50人に1人の慰安婦ということになります。
また、有馬氏は交代率を考慮していません。例えば、中国戦線では、1937年以来、常時50万~80万の日本軍が占領・駐留していましたが、単純に50万人の50分の1である1万人の慰安婦がいたことにはなりません。なぜなら、その仮定では、慰安婦は1937年から1945年まで足掛け8年間、慰安婦を続けたことになるからです。
普通に考えるなら、慰安婦の任期を2年として8年間では1万人×4=4万人の慰安婦が中国大陸にいたことになります。
同様に朝鮮・満州(兵士約50万人)にも8年間で4万人の慰安婦、南方(約150万人)にも2年間(1944~45年)で3万人いたことになり、これらを合計すれば11万人になりますね。この他に航空・船舶部隊、内地、海軍にも慰安婦がいた記録がありますから、20万人という数字は現実的にありうる数字でしょう。

自ら設定した「朝鮮人女性のみで20万人」説を否定してみせ、プロパガンダだと主張する自作自演の手法

有馬氏がやっているのはまさにそれです。

吉見氏の推算の一つである20万人説は否定できないのか、民族構成上朝鮮人はその半分以下だと主張し、以下のように述べています。

 さて、両者の概数を総合すると、朝鮮人慰安婦の数は慰安婦全体の半数だとして、2.5万~10万人だということになります。南京事件の30万人の犠牲者と同様、朝鮮人慰安婦20万人説はあり得ないという事がわかります。
 10万人も相当怪しく、前述の日本軍の幹部の算定式を参考にして、下限の2.5万人ならばあり得るかもしれないという考え方ができます。
 なぜ、こんな理性的、論理的考え方をクマラスワミができなかったのか不思議です。

https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20200507-00621510-shincho-kr

上述しましたが、クマラスワミは北朝鮮の見解として報告書に記載しただけでクマラスワミが評価した数字ではないのですが、有馬氏はクマラスワミが「理性的、論理的考え方」をできないというレッテルに利用しています。誠実とはいいがたい主張ですね。

ちなみに慰安婦といっても、内地・朝鮮で娼妓を勧誘したり、民間人女性を騙したりして日本軍用売春宿に連行した事例だけではなく、占領地内の売春宿・売春婦をそのまま軍用として利用したり、占領地住民を強制的に日本軍用売春婦にしたりした場合など様々です。敗戦時に日本政府が米軍に対してやったように、強姦被害を避けるために一部の女性を人身御供として占領軍である日本軍に差し出したような事例もありますし、占領地の女性を監禁して継続的に強姦したような事例もあります。
日本軍兵士数に対する割合と交代率で算出する推算法では、監禁された上で継続的に強姦された女性は慰安婦としてカウントされませんので、慰安婦の人数に注目する場合は、いったいどのような形態と慰安婦とみなすのか明確にする必要があります。
有馬氏はそれを一切やらずに、20万人説否定の自作自演をやっていますので、きわめて不適切ですね。

デイリー新潮編集部に対する指摘としては、「従軍慰安婦」が歴史教科書に復活 どこが問題か?」と銘打っておきながら、いずれの教科書が言及していない「20万人の朝鮮人女性が日本軍や官憲によって強制的に慰安婦にされた」説の否定だけで、実際の教科書記載の「どこが問題か」については全く答えていない点が挙げられますね。



雑感

安倍政権の失政が擁護しきれないレベルになると自民以外の極右論者を出して形ばかりの政権批判をしてみせる日本メディアの悪癖はどうにかならないものか。

橋下徹氏やら小林よりのり氏やら。
こいつらの「政権批判」って“日本はお行儀が良すぎて失敗している”みたいなレベルの自己陶酔に過ぎない上に、多くの場合野党批判の偽装だからね。



米韓通貨スワップ協定に関する件

2008年の金融危機以来の米韓通貨スワップ協定(Temporary U.S. dollar liquidity arrangements)が2020年3月19日に締結され、資金供給が始まっています。
Federal Reserve announces the establishment of temporary U.S. dollar liquidity arrangements with other central banks
期限は6か月で、韓国以外に、オーストラリア、ブラジル、デンマーク、メキシコ、ノルウェーが米国と同じ協定を結んでいます。

日本では“韓国は米国から警戒・敵視されている”みたいな俗説が流布されていますが、日本以外でそんな俗説が通用するはずもなく、3月15日のFRB声明からもわかる通り、COVID-19の蔓延による経済への影響を懸念して対応しているわけですね。そもそもFRBは日銀も含めたイギリス、EU、カナダ、スイス銀行と連名で協調行動をとることを発表しているので、日本の嫌韓バカ以外はそんなこと当然のこととして理解しているわけですが。

ちなみに2008年の金融危機でも韓国は米韓通貨スワップ協定に基づき資金供給を受けていますが、日本からは資金供給を受けていません。もちろん、米国から供給された資金は期限通り2009年12月にすべて返済しています。

限度額は2008年には300億ドルでしたが、今回は600億ドルとなっています。

入札日 入札額 応札額 決済日
3月31日 120億ドル 87億2000万ドル 4月2日
4月 7日 85億ドル 44億1500万ドル 4月9日
4月14日 40億ドル 20億2500万ドル 4月17日
4月21日 40億ドル 21億1900万ドル 4月23日
4月27日 40億ドル 12億6400万ドル 4月29日
5月 6日 40億ドル - -

入札額に対して応札額が少ないのはドルの資金需要が少ないことを意味しますから、限度額や供給額がかなり余裕を持った設定になっているということになります。
落札した分を見るとこんな感じです。

決済日 落札額 金利 満期日
4月 2日 8億ドル 0.5% 4月 9日
4月 2日 79億2000万ドル 0.9% 6月25日
4月 9日 2億7500万ドル 0.4% 4月17日
4月 9日 41億4000万ドル 0.5% 7月 2日
4月17日 1000万ドル 0.3% 4月23日
4月17日 20億1500万ドル 0.3% 7月 9日
4月23日 21億1900万ドル 0.3% 7月16日
4月29日 12億6400万ドル 0.3% 7月23日

“韓国は借金を踏み倒すに違いない”的な嫌韓バカの主張もあるでしょうから、2020年4月30日時点までの残高を見てみましょう。それまでに4月9日、4月17日、4月23日に満期日があります。

日付 残高 備考
4月 2日 87億2000万ドル -
4月 3日 87億2000万ドル -
4月 6日 87億2000万ドル -
4月 7日 87億2000万ドル -
4月 8日 87億2000万ドル -
4月 9日 123億3500万ドル 返済8億ドル、新規44億1500万ドル
4月10日 123億3500万ドル -
4月13日 123億3500万ドル -
4月14日 123億3500万ドル -
4月15日 123億3500万ドル -
4月16日 123億3500万ドル -
4月17日 140億8500万ドル 返済2億7500万ドル、新規20億2500万ドル
4月20日 140億8500万ドル -
4月21日 140億8500万ドル -
4月22日 140億8500万ドル -
4月23日 161億9400万ドル 返済1000万ドル、新規21億1900万ドル
4月24日 161億9400万ドル -
4月27日 161億9400万ドル -
4月28日 161億9400万ドル -
4月29日 174億5800万ドル 新規12億6400万ドル
4月30日 174億5800万ドル -

見てのとおり、韓国は予定通りに返済しています。4月27日までの資金供給分の次の満期日は6月25日ですね。

ちなみに「【借金175億ドル】韓国銀行は「通貨スワップ」利用の利息を「27億円」支払うことになります。」とはしゃいでいる人もいますが、4月30日時点で日本銀行FRBから「借金」している額は、2203億3400万ドルで韓国の10倍以上ですから、利息ももっと多いんですが、なぜか韓国のことだけが気になるようです*1



韓米通貨スワップ資金、40億ドル供給=5回目の入札を実施
米FRBと通貨スワップ協定の韓国中銀 来週にもドル調達

*1:そもそも「【借金175億ドル】韓国銀行は「通貨スワップ」利用の利息を「27億円」支払うことになります。」で書かれている利息計算も間違ってるんですけどね。「「84日」満期で年利「0.9080%」ですから、「0.9080% ÷ 365日」で1日当たりの利率を計算し、これに84(日)を掛けたものが「84日借りた場合の利率」になります」とか複利を理解していないように思われますが・・・。いやFRBが単利を採用しているなら間違ってはいませんけど。

雑感

まあ、安倍政権のCOVID-19対応がひどいのは、安倍晋三という人物の政治手法を見ればさもありなんとしか思えないんですよね。

安倍氏はある組織内において他者を蹴落とし権力を掌握する手法には長けています。無論、親の七光りがあったのは確かですが、それだけではなく権力に対する執着と誰にすり寄り、誰を利用し、誰を蹴落とすかを的確に実行出来なければ、いくら何でも首相にまではなれないでしょう。
安倍氏の掌握した権力への執着も大したもので、脅威となりそうなものを次から次へと潰していく手法は見事なものです。メディアや独立性の高い官僚組織や党内のライバル、そして野党まで、いかにうまく潰してきたかを見ればよくわかります。
首相になってからも、地位が脅かされないようにうまくやっていますね。「ポスト安倍」というナンバー2を何人も並列にして、誰かが突出してくるとはしごを外して蹴落とす手法です。岸田氏、菅氏などはそれで出る杭を打たれていますね。将来的なライバルである小泉氏に対しては閣僚にして飼い殺しにするという手法と言えます。

国民の不満は、野党をDisったり、分断したり、外国の脅威を煽ったりして自分には批判の矛先が向かないようにしていますが、これも見事な手法と言えます。

自分に対する批判が大きくならないように常に分断させる、他者を貶め自分を高く見せる、というのはそれなりに優れた人心誘導術と言えます。
安倍首相は人心誘導に長け、それにより権力の掌握に成功してきたわけですが、それは人間の集団内での優位性でしかありません。

つまり、人心誘導術だけでは天変地異に対して無力です。

天変地異でもある程度の規模までなら、配下の組織が既存の枠組みで対応し、失策があっても忖度でカバーしてくれます。
しかし、COVID-19のように既存の枠組みで対応できず、安倍首相自身の判断・指導力が求められるような事態では、そのような能力のない安倍首相には対応できるわけがありませんね。
配下の組織は既存の枠組み以上のことは安倍首相の顔色を見ながらでしか出来ません。安倍首相が権力を掌握する過程でそういう組織にしてしまったからです。
将来的なリスクを想定して先手先手の対応を打とうとしても、それが痛みを伴うような施策であれば、安倍首相の了解を確信できなければやれません。忖度で出来る範囲を超えているからです。

結果として、全て後手後手に回って手遅れになっている、と。そういう現状ですね。


もし安倍首相が判断力・指導力の点でも優れていたのなら、今頃はCOVID-19の封じ込めに成功していたんじゃないかな、と思います。



韓国が進歩派政権になると韓国の保守・反進歩派の言論人が日本でもてはやされる、という韓国あるある

韓国のコロナ対策を称える日本に欠ける視点(2020年05月02日(土)16時35分)」を崔碩栄氏もその口ですね。

この崔碩栄記事の悪質なところは、“まともな感染症対応か、それとも自由か”という虚構の二者択一を提示して、日本政府対応の不備を擁護している点ですね。
次の一文に、その性質がはっきりと示されています。

はっきり言えば、韓国が示してみせた「迅速さ」は国家の強力な統制と国民の我慢、そして犠牲の上に成り立っている。「韓国のように」と口にする人たちは「迅速さ」の裏側にあるものを受け入れる覚悟ができているのだろうか?

https://www.newsweekjapan.jp/che/2020/05/post-4.php

しかし、そもそも韓国のようなまともな感染症対策は「国家の強力な統制と国民の我慢、そして犠牲」の上にしか成立しないわけではありません。
例えば、“韓国には徴兵制があるから大量のPCR検査ができた”という主張は、既に徴兵制を廃止しているドイツで大量のPCR検査が行われている事実を見れば、“徴兵制が無いからPCR検査できない”ことを意味しないのは明白でしょう。
それどころか、徴兵制を採用していない先進国が軒並み日本よりはるかに多数のPCR検査を実施していますから、“日本には徴兵制が無いから大量のPCR検査が出来ない”のではなく、それ以外の政策・行政に問題があるとしか言いようがありません。

韓国には韓国で利用可能な制度があり、韓国政府はそれをうまく利用して効果を上げたのは確かです。同じようにドイツにはドイツの、台湾には台湾の、それぞれ利用可能な制度・システムをうまく利用して感染症対策を行ったのです。
日本政府は日本で利用可能な制度・システムをうまく利用することが出来ずに失敗したわけですが、日本の利用可能なオプションがことさら不利だったわけではありません。

具体例を見てみよう。まず、韓国はマスク不足への対策として1人が1週間に購入できるマスクを2枚ずつと制限した。この規則の運用に用いられたのは「住民登録番号」制度だ。韓国では出生届と同時に13桁の番号が割り振られる。全ての国民に一律に与えられるもので、その番号には生年月日、性別、出生地などの個人情報が含まれている。国民は17歳になると「住民登録証」という身分証の発行を受けるが、この時、全ての指の指紋を登録し、親指の指紋は住民登録証に鮮明に表示される。
この制度は、冷戦が極度の緊張状態にあった1968年、北朝鮮武装ゲリラ部隊による韓国大統領官邸襲撃事件をきっかけに設けられたもので、身分確認と統制が目的だ。導入当初は個人情報の収集やプライバシー侵害を恐れ反対する声も多かったが、明快で便利な身分証明として国民生活に浸透し、冷戦が終結した今もそのまま利用されている。今回のマスク販売の制限においても、購入者が住民登録番号を入力すれば、販売者は瞬時に重複チェックができる。この制度なしに、円滑な販売制限は行えなかっただろう。

https://www.newsweekjapan.jp/che/2020/05/post-4.php

韓国は国民を住民登録番号で管理していたからマスクの販売制限が出来たという主張です。私個人はマイナンバーに反対ではないのですが、それはそれとして韓国のような住民登録番号制度が無ければ、マスクの販売制限が出来ないわけではありませんよね。
日本の場合なら、法的には新型インフルエンザ対策特措法で「新型インフルエンザ等緊急事態措置の実施に必要な物資」を収用することが出来るようになっています(55条)。例えば、公的機関が法に基づきマスクを確保した上で、住民票の住所に配給のための通帳を配れば、販売管理は可能ですね。
ちなみに日本は1982年まで米穀通帳という制度*1で米の販売管理を行っていました。マスクで出来ないわけないですよね。

韓国のような住民登録番号制度が無くてもマスクの販売管理くらい可能なのに、住民登録番号制度が無いから販売管理ができないかのように主張するのは誤誘導としか言えません。

さらに、無視できないのが徴兵制だ。今回のコロナ対応に韓国政府は社会服務要員、軍人、公衆保健医という兵役義務を担う「若い男性」たちを動員した。社会服務要員とは軍役の代わりに居住地近隣の政府機関や公共施設で仕事をする人たちだが、彼らは薬局の人手不足を補うために投入され、軍人はマスク工場での包装や運搬作業のために動員された。

https://www.newsweekjapan.jp/che/2020/05/post-4.php

これも“韓国には徴兵制があるから動員された軍人にマスク工場での包装や運搬作業をさせることができた”という主張ですが、日本にも20万人以上の自衛隊員がいますよね?まさか自衛隊員にはマスク工場での包装や運搬作業なんてできないとか思ってるんでしょうか?
それとも日本の自衛隊員はマスク工場での包装や運搬作業を命じられたら嫌がって退職するとか思ってるんですかね。だとしたら、さすがにバカにしすぎでしょうよ。

また、兵役の代わりに離島や山間地で医療活動を行う公保医たちは、コロナ感染被害が当初最も深刻な状況にあった大邱慶尚北道地域に宿泊所も手配されていない状態で派遣された。1000人以上の公保医が劣悪な条件下で、だが最前線で奮闘していた。国家の命令による拒否できない動員が、韓国の「迅速な」対応を下支えしていたのだ。

https://www.newsweekjapan.jp/che/2020/05/post-4.php

公衆保健医は韓国の医療格差を改善するために行われている制度で徴兵制下の代替役務のようなもので韓国ではこの制度が利用できたので利用したわけですが、日本には国家の命令で動員できる医師がいないのかというと、1000名弱の自衛隊医官*2がいますよね。
韓国の公衆保健医は別に暇なわけではなく医師の少ない地方の保健所等で地域医療を支えているわけで*3、それをCOVID-19対応で一時的に流用したに過ぎません。
日本の場合なら自衛隊医官等衛生科の隊員に命じたり、防衛医大の学生(1学年300人程度)から志願を募るなりできますよね。

ちなみに日本にも保健所に勤務する公衆衛生医師がいますが待遇等の問題からかなかなか人員を確保できないようです*4
もうひとつちなみに、韓国では医学科の女子学生が増えており、結果として代替役務としての公衆保健医のなり手が減っているという問題もあったりします。

もし韓国の大邱のように日本でも特定地域で感染が拡大したのであれば、そこに自衛隊医官を投入することもできたでしょうし、民間医療関係者のボランティアを募ることもできたでしょうね。そのお膳立てを日本政府がネグらない限りは。ただ、日本の場合は広域に感染が拡大したので、韓国が大邱に公衆保健医を投入したような対応をとる必要に薄かったと言えます。とは言え、それぞれの感染地域に自衛隊医官を派遣してPCR検査を支援するというのは出来たはずでしょうけどね。


ところで、永久に Stay home しててほしい安倍首相が、右翼テロリストによる朝日新聞襲撃事件のあった5月3日*5に「“緊急事態条項”国会で議論を…安倍総理メッセージ」とか言ったそうです。

韓国憲法には緊急事態時の緊急命令制度(憲法76条)や戒厳令憲法77条)といった緊急事態条項がありますが、今回のCOVID-19に対して韓国政府はいずれも適用していませんよね。文大統領は2月23日に非常事態宣言を出したとされますが*6、内容は危機管理レベルを最高の「深刻(심각)」に引き上げ、大邱慶尚北道の清道を「感染症特別管理地域(감염병 특별관리지역)」に指定したという程度です。しかも、この時点では「感染症特別管理地域(감염병 특별관리지역)」に法的根拠はなく、単なる行政上の管理名称で政府が特に支援する地域という程度の意味合いでした*7
その後、文大統領は憲法76条の緊急命令を使うことなく、「コロナ三法」と呼ばれる感染症予防管理法、検疫法、医療法の改正案を国会で通過させています*8。これで感染の疑いのあるものに罰則付きで強制措置をとることが出来るようになり、感染地域からの入国拒否が可能になったそうです*9。なお、このコロナ三法のうちの感染症予防管理法改正によって、「感染症特別管理地域(감염병 특별관리지역)」が明文化され、行政上の管理名称から法的根拠のある指定となっています*10

つまり韓国の文政権は憲法上の緊急事態条項に頼ることなく、与党が過半数を割っているにもかかわらず国会での議論を通じてCOVID-19に対応する法改正を行ない、収束させつつあるわけです。

日本国憲法に緊急事態条項が無くとも国会で議論して必要な法整備をすることは、与党が圧倒的議席数を持つ安倍政権には容易なはずですが、安倍首相が無能すぎてそれができないだけです。

ああ、念のため言っときますが、韓国の政界はCOVID-19対応で一致団結しているわけではなく、東日本大震災時の野党・自民党のように文政権の足を引っ張るだけの未来統合党がいたりします。そして、“文大統領は謝罪せよ、外交部長官と保健福祉部長官を更迭せよ”とか言ってたりします*11

そりゃ、選挙で惨敗するわ、と。