ウィーン条約及び国内法に関するいくつかの判例

慰安婦像の存在がウィーン条約に違反するという考え方は、ほとんどの国では支持されなさそうな感じ*1

アメリカ(ナチスドイツやファシストイタリア大使館前での抗議を抑制するための法令が1988年に無効化)

State practice and domestic case law

Protest at embassies and consulates are not confined to this region. In 1976, the US Congress removed the provision banning picketing of diplomatic premises outside Washington DC due to fears it violated the freedom of speech and peaceful assembly guaranteed by the First Amendment.
And in 1988, the US Supreme Court struck down as unconstitutional a DC statute banning the display of insulting signs within 500 feet (152 metres) of foreign legations. This was the result of a lawsuit brought by activists seeking to protest before the Soviet and Nicaraguan embassies. The DC statute, which dated back to 1938, was enacted to curb protests before the embassies of Nazi Germany and Fascist Italy.

http://theconversation.com/statue-wars-reveal-contested-history-of-japans-comfort-women-72194

大使館や領事館での抗議は特に制限されていません。1976年に米国議会は憲法修正第1条で保証されている言論及び平和的な集会の自由に違反する恐れがあるとして、ワシントンDC以外にある外交施設に対するデモを禁止する条項を削除しました。その後1988年には、連邦最高裁判所が外国公使館から500フィート(152メートル)以内で侮辱的な表示を掲げることを禁止するDCの法令を違憲として無効としています。ちなみにソ連及びニカラグア大使館の前で抗議運動を進めてきた活動家らによって起こされた裁判の判決です。1938年にまで遡るこのDC法令は、ナチスドイツやファシストイタリアの大使館前での抗議を抑制するために制定されたものでした。

イギリス(罵倒や侮辱的言動、実際の暴力が生じた場合にのみ威厳が損なわれると判断)

In 1984, a British court held that the dignity of mission premises was impaired only if abusive or insulting behaviour or actual violence occurred. The UK government agreed, stating that “the essential requirements are that the work of the mission should not be disrupted, that mission staff are not put in fear, and that there is free access for both staff and visitors.”

http://theconversation.com/statue-wars-reveal-contested-history-of-japans-comfort-women-72194

1984年に英国裁判所は罵倒や侮辱行動や実際の暴力が起きた場合にのみ、外国公館の威厳が損なわれると判断しています。英国政府もそれに同意し「公館業務が妨害されず、公館職員が恐怖を感じず、職員も訪問者も自由にアクセスできることが、必須の要件である」と表明しています。

オーストラリア(サンタクルス虐殺に抗議する十字架を撤去したことがあるが、現在は事実上許容)

In 1992, an East Timorese group in Australia planted 124 white crosses outside the Indonesian embassy to protest an army massacre. But the Australian government removed them in accordance with a regulation purporting to implement its obligation under the Vienna Conventions.
The protesters challenged the regulation in court and won the case. But an appeals court reversed by a two-one vote.
The forceful dissent cited international precedents and reasoned that subjective criteria, such as “what the foreign country or its mission considers impairs its dignity” or “any personal desire of a Minister or government to please or placate the country concerned”, could not be decisive. Nor could the dissenting judge see why “fixed noiseless harmless objects bear on dignity” but people chanting or holding banners continue to be permitted.

http://theconversation.com/statue-wars-reveal-contested-history-of-japans-comfort-women-72194

1992年にオーストラリアの東チモール人グループが軍隊による虐殺(サンタクルス虐殺事件(ディリ事件))に抗議するため、124個の白い十字架をインドネシア大使館の周りに設置しています。これに対して、オーストラリア政府はウィーン条約を適用してこれらを撤去しています。
これに対して抗議者側は法廷で争いこの事件では勝訴しています。しかし、2対1の票決で訴えは破棄されています(この辺の制度がよくわからない)。有力な反対意見が確定されているわけでも、なぜ“固定され音も出さず無害なオブジェクトが威厳に影響するのか”についても反対意見が示されたわけではありませんが、現在は、唱和したり横断幕を掲げる市民は許容されているようです。

韓国(2000年に外国公館が脅迫を受けるような場合にのみ、その抗議を禁止すると判断。2003年に包括的なデモ禁止規定を無効化)

In 2003, the South Korean Constitutional Court has similarly struck down a blanket ban on demonstrations within 100 meters of diplomatic premises. In a 2000 decision, the court balanced the freedom of expression with the interests protected by the Vienna Conventions, namely the security and functioning of the foreign missions, by upholding protest bans only when such interests came under threat.

http://theconversation.com/statue-wars-reveal-contested-history-of-japans-comfort-women-72194

2003年、韓国憲法裁判所は法廷は同様に、外交公館の100メートル以内でのデモに対するに包括的な禁止を無効化しました。それに先立つ2000年に、裁判所は表現の自由ウィーン条約による保護法益、すなわち安全と業務機能、について比較し、その保護法益が脅迫を受けるような場合にのみ、その抗議活動を禁止するという判断を下しています。

韓国日報の記事

부산 일본 영사관 앞 소녀상은 국제법 위반인가(등록 : 2017.02.06 04:40、수정 : 2017.02.06 04:40)

この記事をレコードチャイナが引いて報じています*2

日本総領事館前の慰安婦像問題、日本の“国際法違反”主張に韓国専門家が反論=韓国ネット「韓国政府にも問題が」「像の設置は何の解決にもならない」(Record china、配信日時:2017年2月7日(火) 8時50分)

日本が慰安婦像撤去の根拠として挙げている国際法は、1961年に採択された「ウィーン条約22条2項」の「いかなる侵入や損壊に対しても、公館地域を保護し、公館の安寧の妨害、威厳の侵害を防止するためにすべての適切な措置を執る特別の義務を有する」という条項。同条項は国家間の平和・友好関係に必須の外交・領事活動を保障し、大使館・領事館に対する暴力行為を防止する趣旨であり、1996年7月の駐日韓国大使館正門への車突進事件や2012年7月の駐韓日本大使館正門へのトラック突進事故などがウィーン条約に違反した代表的な例だ。
しかし、集会やデモ、暴力行使などによる妨害行為ではなく、造形物の設置が同条項違反に当たるかについては明確な国際法上の判例がない。峨山政策研究院のイ・キボム研究委員は「造形物の設置に関しては判例がないため現時点では明確な答えがない」とし、「国際司法裁判所に付託したとしても、国際法違反と結論付けられる可能性はほぼない」と指摘。慰安婦像が公館の安寧を妨害するとは言えず、仮に公館の威厳を侵害するとしても、すべての適切な措置を執らなかったことへの責任を問える根拠が明確でないという。“すべての適切な措置”は公館の威厳侵害レベルに応じてその程度が変わるが、日本の国旗などが燃やされることと比べると、慰安婦像の設置は義務の程度が小さいと説明している。
イ研究委員は「日本の政治家の“国際法違反”主張は国際法上の根拠が足りない政治・外交的な修辞に過ぎないため、韓国はむしろ、国際法と普遍的な人権の観点から積極的に対応するべきだ」と主張している。

http://www.recordchina.co.jp/a162816.html

アメリカ・イギリスの事例などを見る限り、峨山政策研究院のイ・キボム研究委員の主張の方が日本政府の主張よりも理があるように思えますね。

*1:参照しているThe Conversation記事は判決文等にリンクされてますが、リンク先までは未確認。

*2:まあ、レコードチャイナは具にもつかない“ネットの声”をつけてどっちもどっち的な態度をとっていますが。

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慰安婦が集団虐殺された事例

日本発狂の件。

韓国大嘘教科書に「慰安婦の集団虐殺」 野上副長官駐韓大使「無期限待機」認める

夕刊フジ 2/2(木) 16:56配信
 韓国・釜山の日本総領事館前に日韓合意やウィーン条約に反する慰安婦像が設置されたことを受け、一時帰国させていた駐韓大使の帰任時期について、日本政府高官は、夕刊フジの報道通り「無期限待機」を認めた。一方、韓国は「反日」色を強め、中学・高校で導入予定の国定歴史教科書に「慰安婦の集団虐殺」というあり得ない記述を書き込むという。隣国は正気を失って暴走している。
 「帰任日は未定。今後、諸般の状況を総合的に判断して検討していきたい」「引き続き韓国側に対し、粘り強くあらゆる機会をとらえて、慰安婦像の(撤去)問題も含めて合意の着実な実施を求めていきたい」
 野上浩太郎官房副長官は1月31日の記者会見で、長嶺安政駐韓大使の帰任時期と今後の対応について、こう語った。
 ジャーナリストの山口敬之氏は、夕刊フジの連載「ドキュメント永田町」(1月24日発行号)で、駐韓大使の「無期限待機」をスクープした。安倍晋三首相が「こちらから動くことはない」「1年でも半年でも(構わない)」姿勢という内容で、政府高官がこれを認めたことになる。
 こうしたなか、韓国の暴走は止まらない。
 韓国教育省は1月31日、2018年度から中学や高校で導入予定の国定歴史教科書の最終版内容を発表した。この中に、慰安婦が「集団虐殺」されたとする記述が盛り込まれているのだ。
 慰安婦問題の「真実」を徹底追及してきた、拓殖大学藤岡信勝客員教授は「『集団虐殺』は、慰安婦をテーマにした韓国映画の一場面に過ぎない。証拠もなく、まったくの事実無根だ。ウソの強制連行という日本発のネタに妄想を加え、『歴史だ』と称して教科書に書き込むという行為で許し難い。日本国民の中には『韓国との国交断絶やむなし』という声はいっぱいある。断交するかどうかは韓国側が決めることで、日本側はこれ以上譲歩してはいけない」と語っている。

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20170202-00000001-ykf-int&pos=3

まあ、拓殖大学藤岡信勝客員教授は筋金入りの歴史修正主義者ですから、藤岡氏だけに取材している時点で夕刊フジの政治的偏向は明らかですね。
もちろん、藤岡氏の言う「『集団虐殺』は、慰安婦をテーマにした韓国映画の一場面に過ぎない。証拠もなく、まったくの事実無根だ。」という発言はデタラメです。

事例1「みな一緒にして、防空壕に薬をいれて、殺してしまい、埋めてしまった」

石家荘の慰安所

 朝から夜まで兵隊を相手にした。15人以内だった。討伐から帰ったときは、朝早くから来た。多い日は20人位になった。だからあとで子宮を(20代で)摘出するようになった。幼い娘たち、国民学校5,6年、中学校高校くらいの少女を連れてきても、性器が小さいでしょう。あそこがバラバラになって、菌が入り、薬といえばロクロク(性病予防の薬606号)と赤チンキしかなかった。だから膿んで治療できない。そういう時は中国人労働者に防空壕に草をたくさん敷かせて、そこに病人を入れた。布団もない。下は土なのだ。軍隊の命ずるままに中に入れられた。当時は電気はなく、ランプだった。防空壕にはランプもくれなかった。だから真っ暗な中で、「母さん腹すいたよ!母さん痛いよ」と叫んでいた。
 私たちが残り飯をもっていきたくても、頭がおかしくなった者もいるし、体の悪い者、肺病にかかっている者、こんな人ばかりで、恐ろしくて行けない。灯があれば、行けるけど、灯もないので、入れなかった。つかまって、放してくれなければ、どうするか。だから、私たちも中に入れなかった。何人かが死ぬと、娘たちは恐ろしいから、叫びはじめた。すると、みな一緒にして、防空壕に薬をいれて、殺してしまい、埋めてしまった。埋めてから、その横に新しい防空壕を掘り、また病人が出れば、そこに入れたのだ。

http://www.awf.or.jp/3/oralhistory-00.html

事例2「残りの10人全員を防空壕に入れることはできないから、そのうちの何人かを先に連れて行って、そこで殺したのよ」

鄭書雲(チョン・ソウン)

13人で行ったんだけど、慰安所で3人が死んでね。奴らは、残りの10人全員を防空壕に入れることはできないから、そのうちの何人かを先に連れて行って、そこで殺したのよ。私たちを帰すと後に問題になるかもしれないと思って殺したみたいだけど、血も涙もない奴らだよ。わたしは、そんな中で生き残ったのよ。

http://www.hermuseum.go.kr/japan/sub.asp?pid=124

事例3 司令部の命令を受けた志田少尉が防空壕に避難していた60〜70人の慰安婦らを殺害

秦・大沼歴史修正コンビによる性暴力被害者侮辱会見での8項目の指摘に対する反論8「8.「多数の慰安婦が殺害された」」

ちなみに戦後でなくとも、慰安婦の存在が米軍に知られたら恥だということで日本兵慰安婦を殺害した事例があります。1944年2月17日、18日に米軍の大空襲を受けたトラック島で、司令部の命令を受けた志田少尉が防空壕に避難していた60〜70人の慰安婦らを殺害しています(「天皇の軍隊と朝鮮人慰安婦」P246-248、西口克己「廓」、「慰安婦たちの太平洋戦争」P283-285 でも同じ事件について確認されている。)。

http://d.hatena.ne.jp/scopedog/20150323/1427042397

現代の二次強姦魔

はてなブックマーク - 「日本軍が慰安婦を集団殺害」 韓国国定歴史教科書に記述へ-Chosun online 朝鮮日報」こういう連中もさすがにうんざりですね。

未だにこんな連中に好意的な奴が多すぎる。全員東京湾に沈めないとな
anschlussのコメント 2017/02/01 18:42

http://b.hatena.ne.jp/entry/318932450/comment/anschluss

発言が殺人鬼のそれだよね。
こんなのの同類が当時の日本軍にもいたと考えれば、虐殺してても何の不思議も覚えない。

だからそもそも“少女像の撤去・移転”や“新規設置の禁止”は合意に明記されてないんだって

この件。

<少女像>駐韓大使帰国3週間、異例の長期化 不満募る

毎日新聞 1/30(月) 21:24配信
 韓国・釜山(プサン)の日本総領事館前に慰安婦を象徴する少女像が再設置されてから30日で1カ月が経過した。日本政府が長嶺安政駐韓大使らを一時帰国させた対抗措置は3週間と異例の長期化となった。島根県竹島(韓国名・独島)の問題にも飛び火し、日本政府はいらだちを募らせている。
 安倍晋三首相は30日の参院予算委員会で、慰安婦問題に関する日韓合意について「『これが最終解決でもう後ろに戻らない』とお互い国の信用をかけて約束した」と強調。少女像の撤去に向け「韓国側に合意を誠実に履行するよう粘り強く求める」と述べた。

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20170130-00000093-mai-pol

日韓政府間合意には少女像を撤去するとも移転するとも、新たな設置を禁止するとも書かれてません。日本政府の「懸念」を「認知」し「適切に解決されるよう努力する」とあるだけです*1

日本政府にとっての「適切に解決」とは撤去・移転以外にありえないのかも知れませんが、自らも責任を認めたはずの性暴力被害に対してそういう態度を取っていること自体、強姦魔が強姦被害者に対して“謝罪したし、金も払ったのだからとっとと失せろ”と言い放つに等しいんですよね。まあ、日本社会では強姦しても金を払えば“ただの売春”になってしまうので、そういう態度が問題視されることすらありませんが。

 少女像は韓国の市民団体が昨年12月30日、釜山の総領事館前に再設置し、地元自治体も最終的に容認した。日本政府は9日に長嶺大使と森本康敬・釜山総領事を一時帰国させ、日韓通貨交換(スワップ)協定の協議中断などの対抗措置を取った。

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20170130-00000093-mai-pol

日本が発狂したきっかけがこれですが、元々自治体による最初の撤去自体の法的根拠が怪しくかなり強硬な手段をとっていますので、強く抗議されれば自治体としては折れざるを得ません。まあ、日本社会としては韓国政府が韓国市民に銃を向けてでも少女像を撤去させることを期待しているのでしょうし、その際に何人か市民に犠牲者が出ようものなら、嘲笑しつつ、したり顔で人権問題を語るのでしょうが。
いずれにせよ、韓国が民主主義の法治国家として動く以上、少女像の撤去を強行することは出来ません。
日本政府はそんなことお構いなしに強硬な対抗措置をとったわけですが、現実的に韓国政府として動きが取れない状況での措置としては最悪ですね。振り上げた拳をいつ下ろすか、全く見通しが立たないので、日本政府としてのこの状態を続けざるを得ません。

 日韓間では、2005年の島根県による「竹島の日」制定を巡る両国関係悪化時や12年の李明博(イ・ミョンバク)大統領(当時)の竹島上陸時にも駐韓大使が一時帰国したが、日本滞在はいずれも13日間。日本政府関係者は「当初は最大でも前例と同程度と見込んでいた」と話す。
 しかし、16日に新たに韓国の地方議員団体が竹島への少女像設置を目指す募金活動を開始するなど状況は悪化。19日に大使らの帰任の先送りを決めた。首相は少女像の撤去に向けて状況が改善されるかどうかを重視している。

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20170130-00000093-mai-pol

つまり日本政府としては、韓国側が少女像を撤去しない限り、大使を戻せない、と。
まあ、私個人としては、どうでもいいです。
日本社会にとって戦時性暴力被害なんて記憶したくないのでしょうから、少女像がどこにあろうと許せないでしょう。ですが、韓国社会では少女像を撤去することを容認する人は相当少数派ですよね。理由は簡単で、まず合意中に少女像を撤去するなんて書いてませんし、戦時性暴力被害者を記念すること自体を悪いとは感じられないでしょうし、そもそも日本政府は日韓合意で慰安婦被害の責任を認めたのに何故執拗に少女像の撤去を求めるのか理解できないからでしょうね。
逆に日本側が強硬に撤去を求めれば求めるほど、日韓合意での謝罪は何だったの?という思いが強くなるでしょう。

その結果、次期大統領候補は揃って少女像を擁護する側に立っています。

日本社会では、それを“反日”としか理解できていません。それもそのはずで、ここ10年以上にわたって日本社会は海外を見るにあたって、“親日反日か”という枠組みでしか判断してこなかったから、それ以外の枠組みを持っていないんですよね。だから起きている事象をそのまま理解することが出来ず、“親日反日か”という枠組みに無理やり当てはめて判断しようとする。その理解に矛盾が生じると、枠組みの不備ではなく対象物が混乱しているからと判断する。その結果、手前勝手で夜郎自大な解釈が日本社会にまかり通る。
まあ、今さら戻ることも出来ないでしょうけどね。

 日韓がともに同盟を結ぶ米国で、政権が交代したことも長期化の背景にある。オバマ政権ではバイデン副大統領(当時)らが日韓双方に歴史認識問題の解決と連携強化を働きかけ、日韓合意の「陰の立役者」となったが、トランプ政権ではアジア政策は不透明なままだ。日韓関係に対する米国の影響力が働かない「空白期間」(政府関係者)が続いている。
 日本の韓国政府への不満も高まる。少女像設置を容認した地元自治体を中央政府が阻止できなかったことへの疑問に加え、韓国で竹島を管轄する慶尚北道の知事が25日に竹島に上陸。政府関係者は「韓国政府は『地方のやることだ』と言い訳している」と語った。【小田中大】

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20170130-00000093-mai-pol

「少女像設置を容認した地元自治体を中央政府が阻止できなかったことへの疑問」というのがわかりません。
もともと日韓合意では新規設置を禁止しているわけでもなく、地方自治体が中央政府間の合意に縛られなければならないわけでもありません。日本でも、中央政府が米軍基地建設に合意しても、地方自治体が反対するようなこともありますからね。
慶尚北道の知事による独島(竹島)上陸について『地方のやることだ』という韓国政府の言い分も、日本政府が島根県による“竹島の日”制定に対し同様の態度をとってますからね。

安倍政権日本では、ダブスタが横行していてホントうんざりですね。

*1:「(2)韓国政府は,日本政府が在韓国日本大使館前の少女像に対し,公館の安寧・威厳の維持の観点から懸念していることを認知し,韓国政府としても,可能な対応方向について関連団体との協議を行う等を通じて,適切に解決されるよう努力する。」http://www.mofa.go.jp/mofaj/a_o/na/kr/page4_001664.html

韓国政府が落とし所を探っている感じ

この件。
韓国外交部当局者「日本、10億円で慰安婦合意の義務を果たしたわけではない(中央日報日本語版 1/26(木) 8:58配信 )
ポイントは、(1)“10億円払ったことで日本政府の義務が完了したわけではない”、(2)“財団の事業は元慰安婦らの意向を尊重して行っている”、(3)“外交公館前に造形物を設置するのは礼譲上・慣行上望ましくない”、(4)“少女像の設立そのものには反対すべきでない”、(5)“10億円は少女像移転の対価ではない”の5点です。

(1)は日韓政府間合意の文言をそのまま解釈しただけの内容ですが、改めて日本政府に釘を刺し、韓国国内向けにも合意の価値を訴える内容です。
(2)は韓国国内向けに合意に基づく財団の事業の元慰安婦らの意向に沿ったものであると主張する内容です*1
(3)は日本側に対する配慮で、韓国政府として日本側に譲歩できる限界の表現です。日本大使館・領事館に限定せず、慰安婦像に限定せずの一般論として、それも礼譲上・慣行上の問題としていますので、ウィーン条約違反だという日本側の主張を受け入れたわけでもありません*2。当然、公権力による強制撤去もできません。
(4)は少女像の設置そのものには韓国政府として反対しないという立場を韓国国内向けに表明した内容です。日韓政府間合意は、過去の人権問題を歴史の闇に葬るための合意ではありませんし、韓国政府は当然その立場を維持しています。日本政府と日本社会にとっては過去の人権蹂躙行為を抹殺するための合意という理解になってますが。
(5)は10億円と少女像はリンクしないという韓国国内向けの説明であると同時に、日本側に対する指摘でもあります。まあ、強姦しても後で金払えば無罪という風潮の日本社会では受け入れられないとは思いますが。

政治的にはこれ以外の落とし所は考えにくく、仮に合意破棄を主張する候補者が次期大統領となってもこれ以外の対応は難しいと思います。
慰安婦像撤去が10億円の対価ならば10億円を日本に返す”といった潘基文*3が大統領になった場合は、おそらく現在の韓国政府の方針をそのまま踏襲するでしょうね。慰安婦像撤去が10億円の対価でないのなら返還の必要はありませんので、形式を整えた上で韓国国内関係者同意の下での移転を時間をかけて行うという方針を採るのではないかと思います。
したたかに対応するのなら日本国内で妄言が続く限り、「被害者の名誉と尊厳を回復し、心の傷を治癒する」という事業が完了していないとして、慰安婦像を移転できないと主張することだってありえますね。

そもそも韓国政府が慰安婦問題を「最終的かつ不可逆的に解決されることを確認する」には前提条件があります。

(1)韓国政府は,日本政府の表明と今回の発表に至るまでの取組を評価し,日本政府が上記1.(2)で表明した措置が着実に実施されるとの前提で,今回の発表により,日本政府と共に,この問題が最終的かつ不可逆的に解決されることを確認する。韓国政府は,日本政府の実施する措置に協力する。

http://www.mofa.go.jp/mofaj/a_o/na/kr/page4_001664.html

「日本政府が上記1.(2)で表明した措置が着実に実施されるとの前提」でそれは以下の内容です。

(2)日本政府は,これまでも本問題に真摯に取り組んできたところ,その経験に立って,今般,日本政府の予算により,全ての元慰安婦の方々の心の傷を癒やす措置を講じる。具体的には,韓国政府が,元慰安婦の方々の支援を目的とした財団を設立し,これに日本政府の予算で資金を一括で拠出し,日韓両政府が協力し,全ての元慰安婦の方々の名誉と尊厳の回復,心の傷の癒やしのための事業を行うこととする。

http://www.mofa.go.jp/mofaj/a_o/na/kr/page4_001664.html

日本政府は「全ての元慰安婦の方々の心の傷を癒やす措置を講じる」必要があり、「全ての元慰安婦の方々の名誉と尊厳の回復,心の傷の癒やしのための事業を行うこと」が合意上、義務付けられています。日本国内で元慰安婦らを侮辱する妄言が続く限り、「名誉と尊厳」は回復しませんし「心の傷の癒やし」にもなりません。
それらが「着実に実施」されてはじめて韓国政府としては「この問題が最終的かつ不可逆的に解決されることを確認」できます。

*1:事実関係について双方の主張が異なっているのは、元慰安婦側の翻意の可能性、韓国政府側の欺瞞の可能性、コミュニケーションでの齟齬の可能性があり、今のところ断定は難しいと思います。個人的には齟齬の可能性が高いと思いますが。(官僚用語で人権問題の調整をする場合によくある話だと思うので)

*2:この発言を日本側が“韓国政府がウィーン条約違反であることを認めた証拠”にすりかえるのは容易に想像できますが。

*3:http://d.hatena.ne.jp/scopedog/20170114/1484407113

続きを読む

基地村慰安婦問題訴訟についての雑感

2014年6月に米軍慰安婦、基地村慰安婦であった女性たち約120人が韓国政府を相手取って訴訟を起こしました。
この時、日本軍慰安婦問題を否認したいと望んでいる日本の歴史修正主義者らは大喜びで、韓国に対するヘイトスピーチをばら撒き、日本軍慰安婦問題を否認するような論調を展開しました*1

日本軍慰安婦問題を訴えている元慰安婦や支援団体は、上記のような基地村慰安婦(米軍慰安婦)も支援して連帯しています*2

この日の出会いは‘基地村女性たちと共にする女性連帯’(以下 女性連帯)が主軸になり準備された。女性連帯には韓国挺身隊問題対策協議会,日差し社会福祉会,結い部屋などの女性団体と研究者などが参加している。ウ・スンドク日差し社会福祉会代表は「慰安婦ハルモニたちの力をもらって、平沢基地村ハルモニたちも堂々と頑張って生きてゆかれればうれしい」と話した。イ・ナヨン中央大教授(社会学)は「慰安婦女性はこの間日帝収奪の象徴として照明を受けた反面、基地村女性は非難ばかりを受けてきた」として「今回の出会いは当事者たちが社会的偏見を破って自ら立ち上がった歴史の一場面」と話した。

http://japan.hani.co.kr/arti/politics/1629.html

基地村慰安婦らによる韓国政府相手の提訴は、元日本軍慰安婦や挺対協にとって基本的に賛同できる内容でしょう。
それを知らない歴史修正主義者や韓国政府と挺対協などの団体との区別もできない嫌韓バカは、この件を“ブーメラン”だと大はしゃぎするわけですね。

私はこの件に関して、結構記事を書いています。
J-CASTがデマを流すのは今に始まったことではないけど
「米軍慰安婦に関する海外の報道と反応」というニセ科学に騙されないために
基地村慰安婦と日本軍慰安婦の違い、及び基地村慰安婦訴訟の行方について
BBCが韓国基地村慰安婦による提訴を報じた件
BBCが韓国基地村慰安婦による提訴を報じた件・2

で、この訴訟の地裁判決が2017年1月20日に出ました。
韓国裁判所「米軍基地村『慰安婦』に国家が賠償すべき」(登録 : 2017.01.21 04:56)
原告である基地村慰安婦らの一部勝訴でしたが、いくつかの主張は認められませんでした。

一部勝訴ではあるものの、それは「隔離収容の対象となる伝染病を明示した施行規則が制定された1977年8月以前に隔離し収容された「慰安婦」被害者57人に対する国家の賠償責任が認められた」だけに過ぎません。韓国政府が主張した消滅時効は認められなかったものの、法整備以前の収容を違法とした賠償責任だけというのは、冷徹に法律上の判断を下すのであれば分からなくはないのですが、道義的には納得しがたいところです。

また、本質的に最も重要な主張部分については認めれておらず、個人的には実質的な敗訴ではないかと思います。

 ただし裁判所は、「国が売買春が容易に行われるよう基地村を作ったのは違法」という被害者たちの主張は受け入れなかった。裁判所は「被害者たちが基地村内での売春を強いられたり、やめられないほどの状態にあったと見ることはできない」として、このように判断した。また、「政府が『浄化運動』などを展開して基地村の売買春を管理したのは違法行為」という主張に対しても、「このような指針は売買春関係者に対する性病検診・治療などの公益的目的を達成するためのものとみられる」との見解を示した。

http://japan.hani.co.kr/arti/politics/26312.html

まあ、韓国政府が基地村を「売買春関係者に対する性病検診・治療などの公益的目的を達成するためのもの」と反論してくることは予測できる範囲ではあり、私自身も提訴直後に以下のように書いています。

裁判で予測される韓国政府側の反論

国家により運営された性売買強制システムという点で日本軍慰安婦も基地村慰安婦も同じ人権問題であるわけですが、上で述べたような違いがあり、韓国政府が裁判で反論するとすれば、基地村は売春婦救済という名目を掲げていた点を必ず主張するでしょう。基地村の待遇改善(水道設備など)や教育なども“彼女らのためだった”と主張するでしょう。それが名目に過ぎず、実態が国家による強制売春であることは、日本軍慰安婦問題が国家による強制売春であることを理解している人には容易に理解できるでしょう。

http://d.hatena.ne.jp/scopedog/20140704/1404534816

当たってもちっとも嬉しくはありませんけどね。

*1:例えば、J-CAST「「米軍慰安婦」が存在?122人が韓国政府を訴える 日本では「韓国に大ブーメラン」と大盛り上がり」(2014年6月26日(木)18時19分配信 )など

*2:ちなみに、ベトナム戦争における韓国軍による性暴力の被害者らにも支援金を送ったりしています。「日本軍慰安婦被害者のハルモニが、ベトナム戦争性暴行被害者のために支援基金を出した。」http://japan.hani.co.kr/arti/politics/14996.html

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従軍慰安婦を公娼だと主張するなら、それこそ日本政府が名簿を持っていなければおかしいのですけどね

アゴラ芸人。

松本徹三‏@matsumotot68
@jupiterthunder_ おそらく公娼でしょう。戦場に臨時に施設された吉原の様なもの。但し、軍属ではないので「従軍」という文字を付け加えるのは不適切です。
5:50 - 2017年1月19日

https://twitter.com/matsumotot68/status/822078805422403584

松本氏は従軍慰安婦を「公娼」だと言っているわけですが、公娼であれば娼妓取締規則に基づき政府が登録情報などを管理しているはずです。

(抜粋)
第二条 娼妓名簿に登録せられざる者は娼妓稼を為すことを得ず
娼妓名簿は娼妓所在地所轄警察官署に備ふるものとす
娼妓名簿に登録せられざる者は取締上警察官署の監督を受くるものとす
第三条 娼妓名簿に登録は娼妓たらんとする者自ら警察官署に出頭し左の事項を具したる書面を以て之を申請すべし
一 娼妓と為る事由
二 生年月
三 同一戸内に在る最近尊族親尊族親なき時は戸主の承諾を得たる事若し承諾を与ふべき者なき時は其事実
四 未成年者に在ては前号の外実父、実父なき時は実母、実父母なき時は実祖父、実父母実祖父なき時は実祖母の承諾を得たる事

http://ianhu.g.hatena.ne.jp/kmiura/20070601/1180654578

植民地朝鮮でもほぼ同様の規則がありましたから、上記の情報、特に「娼妓と為る事由」や「同一戸内に在る最近尊族親尊族親なき時は戸主の承諾を得たる事若し承諾を与ふべき者なき時は其事実」「未成年者に在ては前号の外実父、実父なき時は実母、実父母なき時は実祖父、実父母実祖父なき時は実祖母の承諾を得たる事」などは、人身売買や強制売春でないことを(形式的にせよ)公的機関が確認した記録という点で極めて重要ですが、それが整備されていないというのはどういうことかと。

レゴはヘイトスピーチをばらまくデイリー・メールを拒絶したが、日本にヘイトスピーチをばら撒くアパホテルを拒絶する企業は出てくるだろうか

レゴが「ヘイトスピーチ阻止」に立ちあがった「憎しみの拡大」に異を唱えた一通の手紙(伏見 香名子、2016年11月15日(火))

 デイリー・メールはレゴとのタイアップで、新聞のおまけに同社の玩具をつけるキャンペーンを展開していた。レゴが今後デイリー・メールとのキャンペーンを停止するに至った理由は、ある消費者からの手紙であったと言う。
 手紙を書いたのはボブ・ジョーンズさんという男性。11月4日、フェースブックのレゴの公式ページに、自分は6歳の男児父親であり、自分も息子もレゴのファンであること。そして、この数年、デイリー・メールについていたレゴのおまけを目当てに、嫌々ながらも同紙を購入してきたことを綴り、続けてこう記した。
 「このところの(デイリー・メール紙の)見出しは、右派の意見という域を超えている。外国人に不信を抱かせ、すべてを移民のせいにし、昨日(11月3日)の見出しでは、法的な決断を下したイギリスの高裁判事について、彼がゲイであることまで攻撃した。記事は行き過ぎだ。(略)貴社のような革新的な企業がこの『新聞』を支援し、購買数の増加に貢献していることを、心の底から不快に思う」
 「レゴは私にとって、常に多様性を重んじる商品だった。(略)あなた方とデイリー・メールとのつながりは誤りだ。貴社のような企業は、彼らを支援すべきではない。息子に、今年は(略)レゴのおまけをあげられないことを告げるのはひどい気分だったが、『この新聞は、君が学校で出会う友達のような人々のことで嘘をつくのだよ』と説明した。6歳の息子でさえ、彼らが印刷することが間違っていると理解している」

http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/16/100500021/111400002/?rt=nocnt

アパホテルが客室においてばら撒いている南京事件否定論ですが、全く論と呼ぶに値しないものであることは既にいく度も論証されています。南京事件否定論にせよ、慰安婦問題否認論にせよ、その根底には中国人や韓国人・朝鮮人に対する蔑視が明確に存在してますからねぇ。
アパの言い訳として紹介している南京事件否定論についても、“虐殺加害者は中国人だけ、日本人は虐殺行為をしていない”とかという内容で、中国人に対するヘイトを煽ってますからねぇ。

中国側ではこういう動きもあるようで。

アパホテル」中国のSNSで“炎上” 「南京大虐殺を否定するCEOの著書が客室に」 告発動画「微博」で6800万再生

ITmedia ニュース 1/17(火) 12:11配信
 中国共産党の機関誌「人民日報」国際版の「GlobalTimes」もこの問題を報道。記事によると、中国の旅行会社・黄光グループは、この問題を受けてアパホテルの予約受け付けを停止したという。アパホテルの公式サイトは17日午前10時現在、つながりづらい状態になっている。

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20170117-00000040-zdn_n-sci

まあ、中国や韓国ではアパホテルの予約受付を停止する動きが拡大するかも知れませんね。

しかし、アパ社長がテレビで引っ張りだこ状態になるような日本で、まともにアパを拒絶するような気概のある企業があるかと言えば、まずないでしょうね。

個人的にはアパ懸賞論文の頃から泊まりたくはありませんが、たぶんネトウヨには居心地がいいでしょうから、アパホテルには是非、『本当の日本の歴史 理論近現代史学』だけでなく、『マンガ嫌韓流』や『ゴーマニズム宣言』や『「南京虐殺」の徹底検証 』や『美しい国へ』等の逝っちゃってるラインナップを揃えてほしいものです。