過去に何度か取り上げたことのあるアメリカの人身売買実態報告です。
これは自爆なのか?|誰かの妄想
人身売買実態報告2009年版(米国国務省作成)雑感 - 誰かの妄想・はてな版
ネット上では何だか6月頃の風物詩とも言えるネタです。
外国人研修制度の対応批判=人身売買報告書―米国務省
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20110628-00000014-jij-int
時事通信 6月28日(火)3時5分配信
【ワシントン時事】米国務省は27日、世界約180カ国・地域の人身売買の実態をまとめ、各国政府の取り組み状況を4段階に格付けした2011年版人身売買報告書を公表した。報告書は日本について、外国人研修生制度に絡む虐待問題に適切に対処していないなどと批判、7年連続で上から2番目のグループに位置付けた。
報告書は、中国人研修生らに対する保証金を通じた身柄拘束や行動制限、無報酬労働などの虐待の事実が報じられているにもかかわらず、日本政府は強制労働の存在を認めていないと指摘。「日本政府は人身売買撲滅に向けた最低限の基準を順守していない」と結論付けた。
日本は「人身売買根絶の最低基準満たさない国」
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20110628-00000320-yom-int
読売新聞 6月28日(火)10時43分配信
【ワシントン=中島健太郎】米国務省は27日、世界各国の人身売買の実態をまとめた年次報告書を発表、この中で日本について、外国人研修生制度に人身売買に近い実態が見られるなどとし、11年連続で「人身売買根絶の最低基準を満たさない国」(4段階中の上から2番目)に分類した。
報告書は、中国や東南アジアなどの出身者が日本企業で技術を身につけることを目的とする「外国人研修・技能実習制度」について、賃金不払いや長時間労働、旅券を預かって移動を制限するなどの問題点があると指摘。
暴力団組織が性風俗産業で外国人女性を働かせる例も取り上げ、日本政府による被害者保護の取り組みが不足していると指摘した。
結論としては、例年通りの批判で、外国人研修制度や暴力団がらみの性風俗関連の指摘です。
ただ、この報告書を報道している記事としての出来がよろしくない。
日本は「人身売買根絶の最低基準満たさない国」?
報告書で分類されている4段階の基準は、アメリカ国内の法律である人身売買被害者保護法(TVPA)です。「人身売買根絶の最低基準満たさない」というのは何か人身売買対策の普遍的な基準を満たしていないかのようで、少し煽情的すぎる書き方に思えます。
ちなみに、4段階の分類基準は以下の通りです。
TIER 1 | Countries whose governments fully comply with the Trafficking Victims Protection Act’s (TVPA) minimum standards |
(訳) | 政府が、人身売買被害者保護法(TVPA)の求める最低基準を完全に順守している国。 |
TIER 2 | Countries whose governments do not fully comply with the TVPA’s minimum standards, but are making significant efforts to bring themselves into compliance with those standards |
(訳) | 政府が、TVPAの求める最低基準を完全に順守していないが、順守に向け大きな努力をしている国。 |
TIER 2 WATCH LIST | Countries whose governments do not fully comply with the TVPA’s minimum standards, but are making significant efforts to bring themselves into compliance with those standards AND: |
(訳) | 政府が、TVPAが求める最低基準を完全には順守していないが、順守に向け大きな努力し、かつ以下の条件に該当する国。 |
a) The absolute number of victims of severe forms of trafficking is very significant or is significantly increasing; or | |
(訳) | a. 過酷な形態の人身売買の被害者の絶対数がかなり多いか、またはかなり増加している。 |
b) There is a failure to provide evidence of increasing efforts to combat severe forms of trafficking in persons from the previous year; or | |
(訳) | b. 前年からの過酷な形態の人身売買対策強化を示す証明を提示していない。 |
c) The determination that a country is making significant efforts to bring themselves into compliance with minimum standards was based on commitments by the country to take additional future steps over the next year | |
(訳) | c. 翌年にかけさらなる措置を講じていくという国のコミットメントに基づいて、その国が最低基準順守に向けて大きな努力をしていると判定した場合。 |
TIER 3 | Countries whose governments do not fully comply with the minimum standards and are not making significant efforts to do so |
(訳) | 政府が、最低基準を完全に順守せず、順守に向け大きな努力をしていない国。 |
で、本来マスコミがやるべきことって、アメリカの報告書の表面的な部分だけを適当に要約して報道するだけじゃなく、「the Trafficking Victims Protection Act’s (TVPA) minimum standards 人身売買被害者保護法(TVPA)の求める最低基準」とはどういう内容なのか、日本はどういう点で基準に達していないのか、そういった考察も行うべきではないでしょうか。
アメリカのこの種の法律に詳しい法律家や学者に取材するとか。
毎年騒ぐ人たち
例によって「アメリカに言われたくない」的に騒いでいる人もいますが、アメリカが自国の国内法の基準に照らして他国の状況を調べた報告書で、その中の日本に関する部分を日本のメディアが報道しているわけなので、そういった指摘はかなり的外れ。
「アメリカ自身はその基準を満たしているのか」的な意見もありましたが、アメリカの国内法が基準なのでちょっと論外。
わけのわからない主張としては、「アメリカと中国には言われたくない」ってのもありました。報告書を見れば、中国は第2階層監視リストなのがわかるはずなんですけどね・・・