否定派による吉見教授発言に対するトリミングと改ざん

Wikipediaまでしか確認できませんが、1997年1月3日の「朝まで生テレビ」で吉見義明教授が「植民地での奴隷狩り的強制連行は確認されていない」「挺身隊が慰安婦にさせられた例も確認されていない」と発言したとのこと*1

奴隷狩り的な強制連行は中国や東南アジアの占領した地域で行なわれ、台湾や朝鮮などの日本の植民地では官憲の圧力や御用業者の騙しなどの勧誘・人買いによるものが多かったのは1995年の「従軍慰安婦」にも記載されていたと思うし、挺身隊が直接慰安婦にさせられたというのも吉見氏は主張していなかったはず*2なので、まるで、それまで嘘をついていて番組で嘘を認めたかのようなWikipediaの記述は悪質。

発言内容についても「植民地での奴隷狩り的強制連行」に限定しているのに、ネット上での伝言ゲームでいつの間にか「いろいろ調べましたが、吉見教授自身も『証拠は見つからなかった』と公言している事が分かりました。」*3という話にすりかわっています。

東南アジアでは、日本軍が現地女性を強制連行して売春させて戦後戦犯裁判で裁かれた事例もありますし、朝鮮や中国での強制売春に日本軍政府が関与していたことについて「従軍慰安婦」にも書かれているのに、読みもせずに「いろいろ調べましたが、吉見教授自身も『証拠は見つからなかった』と公言している事が分かりました。証拠もないのに、吉見義明教授の「従軍慰安婦」を読む事にどのような意味があるのでしょうか?」とか言う始末ですからね・・・。

「証拠がない」と言い続けるために証拠を見たくないだけなのでは?と思わざるを得ません。

ちなみに1995年の「従軍慰安婦」には、以下のように記述されています(P92-111)。

日本の植民地における徴集

2 朝鮮からの場合
 だまされた事例
 朝鮮からの徴集でもっとも多いのは、だまされて連れて行かれたケースだった。(略)途中で、おかしいと気づいても逃げるすべは無く、故郷に帰ってもいいことはないとあきらめ、待っている仕事はそんなひどいこともないだろうと思い直し、なんとか前途に希望を見いだそうとしながら、最後に軍慰安所でつらい現実に直面させられたのであった。

 身売りされて
(略)
 売られて慰安婦にされた女性も、多くの場合、前渡し金による経済的拘束と詐欺がからみあっていたことがわかる。(略)
 
 暴力的連行のケース
 (略)
 彼女は、中国東北の軍慰安所に入れられる。拉致した日本人は、軍人か、巡査か、カーキ色の国民服を着た民間人か、断定できない。しかし、夕暮れ時であること、連れがいないこと、民間人らしき人物に引き渡されていることなどから、民間人による誘拐の可能性が高いのではないだろうか。もちろん、警察がこのような犯行を見落すか見逃すということは、軍から慰安婦送出への強い要求があるのだから、ありえたことであろう。

3 台湾からの場合
 (略)44名の徴集のされ方をみると、だまされた者は22名で、半数に達している。(略)
 つぎに多いのは、強制的に集められたケースで、10名いる。5名は役場から割り当てられたという。3名は看護婦の名義で強制的に行かされたが、強制したのは、周旋人と叔父だったり、周旋人や病院の看護士長だったりした。養父と周旋人が強制したケースもあった。これとは別に、看護婦として戦地に行き、しばらく看護婦をしていたが、途中でむりやり慰安婦されたという人が2名いた。

軍が前面に出て強制連行したケースは中国や東南アジアなどの占領地で行われ、日本の植民地である朝鮮や台湾では既存の統治機構による圧力や周旋人の活動を容認することで慰安婦を集めることができたわけです。
したがって、「植民地での奴隷狩り的強制連行は確認されていない」というのは、従軍慰安婦問題が大きく取り上げられた1990年代には既に常識的な話で、1997年1月3日の「朝まで生テレビ」以前に1995年の「従軍慰安婦」のなかで吉見教授自身、ちゃんと言及している内容です。

あたかも、”それまで植民地でも軍による直接的な強制連行が横行していたと主張していて「朝まで生テレビ」でそれを捏造と認めたかのようなWikipediaの記述”やそれをさらに悪用して「いろいろ調べましたが、吉見教授自身も『証拠は見つからなかった』と公言している事が分かりました。」などというネット上でよく見られるコメントは、否定派による悪質なトリミング、改ざんであると言えます。

*1:http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%85%B0%E5%AE%89%E5%A9%A6

*2:挺身隊が出来た頃には、既に朝鮮から連れて行かれた女性が売春を強要されている実態が伝わっていたため、挺身隊で連れて行かれた者も同様に売春を強要されると現地では解されていたと言う話だったと記憶しているが

*3:コメント欄 http://d.hatena.ne.jp/scopedog/20120521/1337621423