「親に会えない」悪影響

この問題の基本を押さえていない人が多いので、紹介。
2011年12月21日の山形新聞朝刊掲載の記事です。

山形新聞「提言」
「親に会えない」悪影響 : 離婚後も子供の福祉が第一、分離の現状 早急に是正
東北公益文科大 講師 益子行弘

菅内閣が今年5月、国際結婚が破綻(はたん)した夫婦の子どもの処遇を定めたハーグ条約に加盟する基本方針などを閣議了解して以降、政府内に、親子に関する法律、特に離婚後の親子関係に関する法律を整備する動きがある。背景には、日本の国内法において離婚後、片方の親にのみ親権を定め、親権を持たない親(別居親)と子どもが会う権利が保障されていないことが挙げられる。
家庭裁判所も別居親には子どもとの面会をなかなか認めない傾向にあり、そのやりようから、家庭裁判所は「親子分離機関」とやゆされることもある。父親、母親を問わず、離婚時に子どもを連れ去られてしまうと、以降は会うことすら許されず、一生生き別れになってしまうことも日本では珍しいことではない。
別居親が子どもに会いたい場合、まずは監護親に面会を求めるが、監護親が拒んだ場合は、家庭裁判所に調停(面会交流調停)を申し立てることができる。面会交流調停では、客観、中立の立場から、調停委員や調査官が両者の言い分を聞きながら解決を図ることになっている。
しかし、実情は違い、たとえ別居親にDV(家庭内暴力行為)や虐待がなく、監護親側に離婚の原因があったとしても、監護親が「会わせない」とすれば、それが尊重される傾向にある。別居親が子どもに会う権利、子どもが別居親に会う権利を明記した法律がないためではあるが、子どもの福祉よりも、監護親をいかに説得するか、いかに許可してもらえるようにするかといった視点で調停は進められるのである。
調停でまとまらず、審判(裁判所が終局判断を行う)に移行したとしても、月に1、2度、1〜2時間程度の面会が認められる程度であり、写真数枚を別居親に送りさえすればいいと判断されるケースもある。すなわち、家庭裁判所においては、別居親の役割はその程度で十分であるとの認識なのである。
一方、監護親が子どもに対し、別居親と引き離す態度を取ることで、子どもの精神的不安定を引き起こす事例が多々報告されている。これはPAS(片親引き離し症候群)と呼ばれ、監護親が子どもに対して別居親の誹謗(ひぼう)中傷を吹き込み、別居親の悪いイメージを持たせ、別居親から引き離すよう仕向けている状況を指す。PASは子どもに、さまざまな情緒的問題や対人関係上の問題を長期にわたり引き起こすことが明らかにされており、心理専門家からは虐待行為であるとの指摘もある。
われわれが山形県内で行った調査でも、別居親と引き離されている子どもは、別居親との関係が良好な子どもに比べて、自己評価や自己肯定感が低く、対人不安感が高いことが示され、欧米や日本の他地域での調査と同様の結果が得られている。
理由はどうであれ、離婚によって一番被害を受けるのは子どもである。根本的な解決には親権制度の改正が必要かもしれないが、子どもの福祉を第一に考えるのであれば、親権以前に、まずは子どもへの悪影響を最小限にとどめるにはどうすれば良いかという視点で議論し、実の親との分離を行っている現状を早急に是正する必要があるのではないだろうか。

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ここに書かれている通り、家庭裁判所では「監護親が「会わせない」とすれば、それが尊重され」ますし、仮に家庭裁判所が審判で面会交流を認める判断を下したとしても、監護親がそれに従わねばならないとする義務はありません
正確に言えば、監護親に面会交流をさせる義務は課されますが、義務を履行しなくても何の罰則もありませんので、守らない監護親が多数いるわけです。要はNHK料金の支払い義務みたいなものです。NHK料金の場合よりも監護親に有利なのは、料金を払ってくれるまで家の前で待つのと同じことを別居親がやると、NHK集金人と違ってストーカー規制法やDV防止法などの適用がされうる点です。

「子どもの福祉よりも、監護親をいかに説得するか、いかに許可してもらえるようにするかといった視点」とあるように、守られているのは子どもというより、むしろ監護親の意向です。現行の法律では、ほとんどの場合、親権者が未成年者の利益の代弁者となり、それが別居親と子どもとの面会に対しても適用されてしまいます。

そのため実際の運用では、監護親が面会を望まない=子どもが面会を望まない→面会は子どもの福祉に反する、と捻じ曲げられ、子ども不在のまま面会の禁止が決められることが多いのです。
子どもと引き離された別居親の当事者団体のサイトなどで見れば、調停や判決で決められる面会交流の約束は、養育費の約束に比べて著しく軽い扱いを受けていることがわかります。確定判決後の養育費に関しては、支払いが滞ると容易に給料差し押さえが可能で、その手続は女権団体の活動により簡略化されつつあります*1。これに対して面会交流に関しては、同居親が転居して養育費の振込先以外の行方をくらませば、お手上げ状態です。転居先がわかっていたとしても判決合意済みの面会交流を妨害された場合、基本的に高額の弁護料と1年ほどの期間をかけて面会交流の調停・審判を起こす以外にありません。しかもこの審判で、それまでの面会交流の合意が覆されることもあり訴え出る別居親にとっては多額の金銭と子どもとのつながりを賭けた賭けになります。しかもかなりの分の悪い賭けで、担当した審判官、調査官によっては、家庭裁判所として子どもの様子・意向など一切聞かずに面会交流を禁止することも少なくありません。

面会交流と養育費は車の両輪とも言われますが、面会交流という片輪だけはちょっとした凹凸で壊れるほどもろい状態のまま放置されています。

*1:うろ覚えですが、現在は転職した場合は再度差し押さえの手続が必要なので、手続なしで転職先の会社に給料差し押さえ処置を自動的に引き継がせるような改革を求めていたはず。