アメリカの報道官(だけではないですが)の発表はアメリカ政府のサイトにアップされるのも早く、下手すると日本人記者の下手な(しかも偏向されがちな)翻訳を通じた記事よりも公開が早いので、こっちを見た方がいいかも知れません。
MS. NULAND: Well, with regard to the incident, we were briefed by our Japanese allies on the incident and we’ve satisfied ourselves that it does appear to have happened. As you know, I said at the time that we have been quite clear about our concern with regard to this with our Chinese interlocutors.
http://www.state.gov/r/pa/prs/dpb/2013/02/204000.htm
直訳すると、(レーダー照射が)起きたように見えるということでアメリカ側が納得(確信)できた、とでもなるでしょうか。ポイントは「does appear to have happened」で、起きたかどうかよりも起きたように“見えた”という点で、レーダー照射されたように日本側から見えたことに納得したのか、日本側の説明を聞く限りではレーダー照射が起きたようにアメリカから見えたのか、いずれにしても、単純に事実認定した表現ではなさそうです。
その意味で産経の犬塚記者は割と正確に訳しています。
米報道官「発生は事実と納得」 日本に同調し中国を牽制 レーダー照射
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20130212-00000527-san-n_ame
産経新聞 2月12日(火)10時6分配信
【ワシントン=犬塚陽介】米国務省のヌランド報道官は11日の記者会見で、中国海軍艦艇の射撃管制用レーダー照射について、日本政府から説明を受け、照射が実際に「起きたように見えるということで納得している」と述べ、当初から中国に対して「懸念を明確にしている」と強調した。
一方、読売の中島記者の訳はいただけません。
米、中国のレーダー照射は「実際に起きたもの」
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20130212-00000087-yom-pol
読売新聞 2月12日(火)9時23分配信
【ワシントン=中島健太郎】米国務省のヌーランド報道官は11日の記者会見で、中国海軍による海上自衛隊護衛艦への射撃用火器管制レーダー照射について、「実際に起きたものだと納得している。この問題での中国政府への我々の懸念は、きわめて明確だ」と述べ、日本の立場を支持すると同時に、中国に対する憂慮を改めて示した。
「does appear to 」にあたる部分が抜け落ちており、まるでアメリカが積極的に事実認定したかのような訳になっています。
時事通信はもっとひどいですね。
中国のレーダー照射「確信」=日本側説明を支持―米
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20130212-00000012-jij-n_ame
時事通信 2月12日(火)6時42分配信
【ワシントン時事】米国務省のヌーランド報道官は11日の記者会見で、中国艦船による海上自衛隊護衛艦に対する射撃用レーダー照射があったことを「確信している」と表明し、日本の立場を支持する姿勢を鮮明にした。さらに、米政府の「懸念」を中国側に伝えたことを明らかにした。
報道官は、日本からレーダー照射事件に関する説明を受けたと指摘。その上で「それが起きたことを確信している」と明言し、日本政府の発表を「完全な捏造(ねつぞう)」とする中国の主張を退けた。
まるでアメリカが積極的に事実認定して、日本支持の立場を明確にしたかのような訳です。「does appear to 」にあたる部分を無視しているのはもちろん、「satisfy」を確信と訳しています。まあ、「satisfy」には確信という意味もありますけど、ここでそういう意味で使うのは違うように思えます。
そして、毎日の白戸記者も時事通信同様。
<レーダー照射>米国務省報道官が「事実と確信」
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20130212-00000006-mai-int
毎日新聞 2月12日(火)10時30分配信
【ワシントン白戸圭一】米国務省のヌーランド報道官は11日の記者会見で、中国艦船が射撃用の火器管制レーダーを海上自衛隊の護衛艦などに照射したことについて「(照射が)行われたことを確信している」と述べ、レーダー照射の事実を否定している中国政府を間接的に批判した。
ヌーランド報道官は「我々は日本から(照射)事件についての説明を受けた」と述べ、レーダー照射について日米間で緊密に連携していることを認めた。その上で、米政府として照射の事実を「懸念」していることを中国側に伝えたことを明らかにした。
we’ve satisfied ourselves that it does appear to have happened.
“appear to”は「〜のように見える」「〜と思える」と言った意味で、さらに“appear”の前に“does”をつけ強調しています。にも関わらず、“ does appear to”をまったく無視して訳すというのは、なんと言うか・・・。
We urge all parties to avoid actions that could raise tensions or result in miscalculation
QUESTION: Well, earlier, if I can follow up, earlier, Secretary Clinton issued a kind of a warning, saying that the Chinese side should do nothing to hamper or to undermine the Japanese administration of the Senkakus. Does this warning carry over now to the Secretary Kerry’s time in office?
MS. NULAND: It does indeed, and let me say it again: We urge all parties to avoid actions that could raise tensions or result in miscalculation that would undermine peace, security, and economic growth of this vital part of the world.
http://www.state.gov/r/pa/prs/dpb/2013/02/204000.htm
クリントン前国務長官の発言をケリー国務長官も引き継ぐのか、という記者の質問に対して、ヌーランド報道官は短く「It does indeed」と答えています。これはアメリカ政府としては当然の対応ですが、これに付け加えて、日中両国に自制を求める発言を行っています。
毎日
沖縄県・尖閣諸島を巡る日中間の争いについては、クリントン前米国務長官が在任中の先月、「日本の施政権を侵すあらゆる一方的な行動に反対する」と述べ、日本の立場を支持した。ヌーランド報道官は会見で、今月1日に就任したケリー国務長官も、この点に関して同様の立場であることを強調した。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20130212-00000006-mai-int
その上で「地域の平和、安全、経済成長を阻害する誤解を生み、緊張を高める行為をやめるよう、すべての関係国に求める」と述べ、沖縄県・尖閣諸島を巡って関係が悪化している日中両国に、事態沈静化に向けた努力を求めた。
産経
ヌランド報道官は記者会見で、新任のケリー国務長官も「日本の施政権を害そうとするいかなる一方的な行為にも反対する」と発言したクリントン長官の考えを引き継いでいると指摘した。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20130212-00000527-san-n_ame
一方で、日中関係の緊張がアジア地域の安定や経済成長を阻害しかねないことに懸念を示し、全ての関係国に「緊張や誤算が生じる可能性を高める行動」を慎むよう求めた。
中国の反論に対して・・・
毎日「中国政府を間接的に批判」
産経「中国側の対応を強く牽制」
中国外務省はレーダー照射を日本政府の「完全な捏造(ねつぞう)」としており、米国が同盟国の日本と歩調を合わせ、中国側の対応を強く牽制(けんせい)した形だ。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20130212-00000527-san-n_ame
読売「---」
中国政府は、「日本の言い分は全くの捏造(ねつぞう)」(華春瑩(フアチュンイン)・外務省副報道局長)などと火器管制レーダーの使用を否定している。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20130212-00000087-yom-pol
時事「中国の主張を退けた」
報道官は、日本からレーダー照射事件に関する説明を受けたと指摘。その上で「それが起きたことを確信している」と明言し、日本政府の発表を「完全な捏造(ねつぞう)」とする中国の主張を退けた。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20130212-00000012-jij-n_ame
アメリカは中国側の反論に対して明示的に否定も批判もしていません。その意味では読売の書き方が適切だと思いますが、毎日の「間接的に批判」、産経の「強く牽制」もそれほど間違いとは言えないでしょう。時事通信の「主張を退けた」は明らかに言い過ぎです。
毎日・産経・読売・時事
以上を比較すると、産経の記事が一番まともという予想外の結果で、以下、毎日、読売と続き、一番ひどいのは時事通信という結果になります。
メディアが、あったこと(“ does appear to”)を無視して、なかったことをあったかのように(「主張を退けた」)書くようでは困りますね。
今見たら、テレビの方がもっとひどかった
中国のレーダー照射は「事実」 米国務省
日本テレビ系(NNN) 2月12日(火)11時7分配信中国政府が自衛隊の護衛艦へのレーダー照射を「ねつ造だ」と主張していることに関連し、アメリカ政府は11日、照射は「事実」であるとの認識を示した。
http://headlines.yahoo.co.jp/videonews/nnn?a=20130212-00000011-nnn-int
アメリカ国務省・ヌーランド報道官はレーダー照射について、「同盟国である日本政府から説明を受け、これ(レーダー照射)は実際に起きたと理解している」と述べ、日本政府の主張を支持する姿勢を明確にした。
アメリカ政府は、レーダー照射が明らかになって以降、「不測の事態を招きかねない行為だ」として、中国側に繰り返し自制を求めている。
また、ヌーランド報道官は沖縄・尖閣諸島をめぐり、クリントン前長官が示した「日本の施政権を害する行為は一切認めない」との方針は、ケリー長官にも引き継がれていると強調した。
時事通信の内容よりひどい。
*1:「強調」「指摘」と言った表現についても、「It does indeed」ですので特に問題ありません。