とある事件
「JACAR(アジア歴史資料センター)Ref.C12120748600、軍紀風紀上等要注意事例集 昭和18年陸密第255号 別冊第7〜9号 昭和19年6月〜9月印刷(防衛省防衛研究所)」
八、陸軍病院長ノ看護婦強姦事件
○事件ノ概要
一、南方陸軍病院長某軍医大佐ハ予テヨリ卑猥ナル言動多ク殊ニ同病院長トナリテヨリハ看護婦ニ対シ屡々猥褻ナル行動ニ出テクルコトアリ且部下ニ対シテハ専恣横暴ヲ極メ部下ノ意見具申ヲ喜ハス自己ノ意ヲ抑ヘサル者ハ之ヲ斥クル等部下ヨリ甚シク怖レラレ居リタルカ昭和十八年八月頃ヨリ病院附陸軍看護婦某ヲ識リ同女ノ温順ナル性質ニ着目シテ自己ノ病院長タルノ威力ヲ借リテ同女ヲ脅迫遂ニ之ヲ姦淫シタリ
二、右病院衛生兵長某ハ郷里ノ村助役及大政翼賛会県練成部長等ヲ奉職中召集セラレ右病院ニ在リテ勤務中病院長ノ前記言動ヲ聞知シ生来正義感強ク痛ク之ヲ憂慮シアリタルカ強姦シタルコトヲ聞キ憤激シ病院長ニ諌言センコトヲ企図シ関係上官ニ面会セシメラレ度旨要求シ同人等ノ慰撫ヲ肯セス止ムナク同行セル者ト共ニ宿舎ニ病院長ヲ訪問シ諌言遂ニ切腹ヲ強要シタルモノナリ
○処分
○所見
陸軍病院長ノ処分ハ軽キニ失セサルヤ病院長ノ職権ヲ乱用シテ其ノ部下タル看護婦ヲ強姦スルカ如キハ厳重処分ヲナスヘキナリ之ニ反シ衛生兵長ノ行為ハ情状ニ於テ諒トスヘキモノアリ
http://www.jacar.go.jp/DAS/meta/image_C12120748600
この事件については、山田盟子氏の「従軍慰安婦 「兵備機密」にされた女たちの秘史」*1にも載っています。
場所はスマトラに展開した第二十五軍所属のパレンバン第九陸軍病院で、衛生兵長は山梨県北巨摩郡菅原村の助役だった古屋五郎*2です。病院長の軍医大佐については山田氏の著作では「A大佐」ですが、古屋氏本人の書では、北沢義章と記載されています*3。
42人の看護婦を強姦した北沢軍医大佐の事例はかなり例外的と思われます*4が、古屋衛生兵長が捨て身で告発しなければ事件はうやむやにされていたでしょう。実際、強姦した42人のうち、軍法会議で強姦の事実が認定されたのはたった1人についてでした。そして、古屋衛生兵長自身も1年半の禁固刑を受けています。
軍隊という組織が、上級者に対して、そして戦時には特に自浄能力を著しく損なう事例と言えます。