河野談話発表までに「強制連行を直接示す資料」は見つけられなかった、しかし、その後見つかった、という話

メディア自体が安倍政権の歴史修正主義の軍門に降っている有様ですので、安倍自民党の初歩的なレトリックを追及すらできていませんが、事実はタイトルどおりです。

1993年8月の河野談話までに日本政府がどれほど真剣に資料を探したかというと疑問の余地もあるでしょうが、官僚的に熱心ではないが意図的に資料の取捨選択することはなかったでしょうから、「強制連行を直接示す」文書資料というハードルの高いものは実際に見つからなかったのでしょう。
しかし、河野談話直後にオランダ政府からインドネシアにおける日本軍による慰安婦強制連行・売春強要の文書資料が提供されています。

オランダ政府は1993年に「日本占領下オランダ領東インドにおけるオランダ人女性に対する強制売春に関するオランダ政府所蔵文書調査報告」を出しています。

http://www.awf.or.jp/1/netherlands.html

その後1999年度に法務省に埋もれていた中国等における日本軍による慰安婦強制連行・売春強要を示す文書資料が国立公文書館に移管されています。

政府は内閣官房外政審議室長から関係機関に対し、一九九六年七月二十四日、「いわゆる従軍慰安婦問題に関連する資料等について(依頼)」を通知し、河野官房長官談話発表後も資料収集を行っているが、歴史研究者や「強制動員真相究明ネットワーク」などの市民団体も国立公文書館等の資料調査に継続的に取り組んでいる。
 その中で、一九九九年度に法務省から国立公文書館に移管された東京裁判極東国際軍事裁判)関係文書「A級極東国際軍事裁判記録(和文)(NO.一六)、(NO.五三)、(NO.五四)」の文書綴りに、軍や官憲が「慰安婦」被害女性を強制的に連行した証拠書類が残されていることが判明している。書証番号三五三の「桂林市民控訴 其ノ一」、書証番号一七二五の「訊問調書」、書証番号一七九四の「日本陸軍中尉ノ陳述書」である。
 ・ 書証番号三五三の文書には、中国桂林での事案として、「工場ノ設立ヲ宣伝シ四方ヨリ女工ヲ招致シ、麗澤門外ニ連レ行キ強迫シテ妓女トシテ獣ノ如キ軍隊ノ淫楽ニ供シタ。」との記述がある。
 ・ 書証番号一七二五の文書には、被害女性の証言として「私ヲ他ノ六人ノ婦人ヤ少女等ト一緒ニ連レテ収容所ノ外側ニアッタ警察署ヘ連レテ行ッタ。(中略)私等ヲ日本軍俘虜収容所事務所ヘ連レテ行キマシタ。此処デ私等ハ三人ノ日本人ニ引渡サレテ三台ノ私有自動車デ「マゲラン」ヘ輸送サレ、(中略)私達ハ再ビ日本人医師ニ依ッテ健康診断ヲ受ケマシタ。此囘ハ少女等モ含ンデ居マシタ。其処デ私達ハ日本人向キ娼楼ニ向ケラレルモノデアルト聞カサレマシタ。(中略)私ハ一憲兵将校ガ入ッテ来ルマデ反抗シマシタ。其憲兵ハ私達ハ日本人ヲ接待シナケレバナラナイ。何故カト云ヘバ若シ吾々ガ進ンデ応ジナイナラバ、居所ガ判ッテヰル吾々ノ夫ガ責任ヲ問ハレルト私ニ語リマシタ。」と記録されている。
 ・ 書証番号一七九四は日本陸軍中尉の宣誓陳述書であるが、次の一問一答が記録されている。
 問「或ル証人ハ貴方ガ婦女達ヲ強姦シソノ婦人達ハ兵営ヘ連レテ行カレ日本人達ノ用ニ供セラレタト言ヒマシタガソレハ本当デスカ」
 答「私ハ兵隊達ノ為ニ娼家ヲ一軒設ケ私自身モ之ヲ利用シマシタ」
 問「婦女達ハソノ娼家ニ行クコトヲ快諾シマシタカ」
 答「或者ハ快諾シ或ル者ハ快諾シマセンデシタ」
 問「幾人女ガソコニ居リマシタカ」
 答「六人デス」
 問「ソノ女達ノ中幾人ガ娼家ニ入ル様ニ強ヒラレマシタカ」
 答「五人デス」
 (中略)
 問「如何程ノ期間ソノ女達ハ娼家ニ入レラレテヰマシタカ」
 答「八ヶ月間デス」
 これらの文書には、軍の直接関与、「慰安婦」被害女性に対する強制、脅迫が具体的に記述されている。

http://www.sangiin.go.jp/japanese/joho1/kousei/syuisyo/183/syuh/s183083.htm


要するに1993年8月の河野談話発表までに「強制連行を直接示す文書資料」は見つからなかったものの、その後「強制連行を直接示す文書資料」は見つかっています。安倍首相ら、従軍慰安婦問題を否認する歴史修正主義者や二次強姦魔たちは「1993年8月の河野談話発表までに」と言う条件を省略して「強制連行を直接示す文書資料」が見つからなかった、と声高に叫び、あたかも今現在も「強制連行を直接示す文書資料」は存在しないかのように日本国民と世界を騙し続けています。

その事実を追及されても、例えば以下のようにごまかし、それを安倍政権により威圧されているメディアも追及しません。

(回答:http://www.sangiin.go.jp/japanese/joho1/kousei/syuisyo/183/touh/t183083.htm
質問
1 政府は、これらの文書*1の存在を河野官房長官談話発表までに承知していたか。

回答
 御指摘の文書つづりについては、法務省において保管されていたものであるが、当該文書つづりにつづられた個々の文書を取得した時期等が不明であるため、お尋ねにお答えすることは困難である。

http://www.sangiin.go.jp/japanese/joho1/kousei/syuisyo/183/syuh/s183083.htm

この日本軍による慰安婦強制連行を示す資料は法務省に保管されていた文書ですから、当然に河野談話以前の調査で見つけていないのか、と聞いています。しかし、安倍政権は文書の取得時期がわからないと答えを逸らしています。


(回答:http://www.sangiin.go.jp/japanese/joho1/kousei/syuisyo/183/touh/t183083.htm
質問
3 これらの文書は、安倍首相の答弁内容である「軍や官憲の強制連行」「人さらいのように、人の家に入っていってさらってきて、いわば慰安婦にしてしまったということ」を示す文書とみなせるのではないか。

回答
 お尋ねについては、一の2についてで述べた平成五年八月四日の調査結果の発表までに政府が発見した資料の中には、軍や官憲によるいわゆる強制連行を直接示すような記述は見当たらなかったものである。

http://www.sangiin.go.jp/japanese/joho1/kousei/syuisyo/183/syuh/s183083.htm


「中国等における日本軍による慰安婦強制連行・売春強要を示す文書資料」に対し政府見解を問うていますが、安倍政権はやはり話を逸らし、河野談話までに見つかった文書資料はないと回答にならない回答を行っています。


まあ、何といっても最大の問題は、メディアがこれらのことを真面目に報道しない点ですけどね。

いかに産経新聞により煽られたネトウヨの誹謗中傷や、安倍晋三議員らの政治圧力があるとは言え、それに屈するのではメディアの存在意義が問われるでしょう。