吉元玉氏の場合

長文だと読まない人が多いでしょうから、要点を先に書いておきます。

要点

吉元玉氏は1940年から満州の軍慰安所での売春を強制されました。当時の吉元玉氏は12〜13歳でした。
これは娼妓の最低年齢を17歳とする貸座敷娼妓取締規則*1に照らしても違法です。
わずか12〜13歳の朝鮮人少女が満州の軍慰安所にいる時点で、人身売買、娼妓取締規則などの各法令違反が素人目でも疑われるレベルの状況です。しかしながら、吉元玉氏を買春に来た日本兵らも健診を行った軍医も慰安所を管理した主計将校らも、調べようとも救出しようともせず、見逃し、黙認して売春行為を強要したわけです。目の前で行われていた少女に対する売春強要という違法行為に目をつぶるという国家組織による極めて悪質な不作為です。
苦界に落とされた12〜13歳の少女が自身の法律的な権利や契約の瑕疵など理解できるはずもありません。国家レベルの組織による保護が必要なのは明らかでした。しかし、日本軍は保護するどころか、性売買の商品として軍自らが消費したわけです。

以下、本文

さて、どうせ要点を書いても理解を拒絶して二次強姦するウヨが湧くとは思いますが、ここから本文です。
今週末、5月24日に元従軍慰安婦の吉元玉氏が橋下市長を訪ねる予定です。橋下市長も今回は前回のように逃げ出したりせずに面会に応じざるを得ないでしょうが、それだけに芸人出身の政治家らしくメディア工作はするでしょう。

「悔しい、早く死にたい」 元慰安婦が証言
TBS系(JNN) 5月19日(日)18時23分配信
 広島市では、来日中の元従軍慰安婦・吉元玉(キル・ウォノク)さんがおよそ200人の市民を前に証言しました。
 「いつも心の中には悔しい、さみしい思いがある。日本政府をどうしても憎んでしまう。仕方なく1日1日こういう風に生きているが、今はもう、早く死にたいという思いしかない」(元従軍慰安婦 吉元玉さん)
 吉さんは、自分と同じような慰安婦が二度と生まれないよう、日本が戦争のない平和な国になってほしいと訴えました。
 「衝撃的。今、国が、橋下さんがいろいろ言われている中で、何が真実か知りたくてきた」(広島市民)
 2人の元慰安婦は24日にも橋下大阪市長を訪れる予定です。(19日17:30)
最終更新:5月20日(月)5時20分

http://headlines.yahoo.co.jp/videonews/jnn?a=20130519-00000015-jnn-soci

橋下市長が狙うのは、「“売春婦”として苦労したことには気の毒に思うがそれは日本軍・政府の責任ではない」という否認論の一種で、せいぜい「戦争中という異常な状況下で不当に売春婦にされたあなたを適切に政府が救出できなかったことには責任がある」くらいでしょう。
もちろん、この主張はすり替えに過ぎませんが“慰安婦問題は募集時の強制連行の有無だけが問題”だと虚構の論点を主張している否認論者一般にとっては歓迎でしょうし、吉元玉氏の被害体験自体、その否認論者によるセカンドレイプの標的にされやすいものではあります。

吉元玉氏の事例

吉元玉氏の事例は騙されて募集された事例とされ、暴力的に連行された事例ではありませんが、河野談話で言うところの「本人たちの意思に反して集められた事例」*2に他なりません。当時、12〜13歳の少女が軍慰安所での過酷な状況を理解した上で自らの意思で慰安婦になったとか考える人は病院にでも行った方がいいでしょう。実際、吉元玉氏は工場で働くと言われたのに、いつの間にか慰安所に入れられていたわけです。韓国政府のサイトでも吉元玉(Wonok Gil)氏が集められた事例は、騙し(Deceptive)によると書かれています。

(抜粋)
Q.How were the comfort women taken into sex slavery for the military?

A.Girls and women were deceptively recruited, often with the involvement by the police and governmental officials, sometimes tricked or kidnapped and deployed to “comfort stations”in battlefields. The victims are revealing how they were taken and forced to become sex slaves for the Japanese military.

I.Deceptive recruitment
Wonok Gil can not remember how old she was when she was taken as a sex slave because she was too young. When she turned 12(in 1940), she went to Manchuria to earn money and became a sex slave in a “comfort station”in Haerbin. (Note 3.I.)

http://www.hermuseum.go.kr/eng/

では、軍慰安所での吉元玉(Wonok Gil)氏の生活はどうだったかと言うと、これも河野談話にあるとおり「慰安所における生活は、強制的な状況の下での痛ましいものであった」と言えます。

(抜粋)
Q.How were the lives of military sex slaves in comfort stations?

A.Girls and women were deceptively recruited, often with the involvement by the police and governmental officials, sometimes tricked or kidnapped and deployed to “comfort stations”in battlefields. The victims are revealing how they were taken and forced to become sex slaves for the Japanese military.

I.Violence
Wonok Gil was hit in the head by a Japanese sword for resisting and still has the scars. She claims that if one ran away, the rest was subject to punishment.
IV.Diseases
Wonok Gil also had a surgery for a venereal disease. Her trumpet was blocked, so she had ovary-cystoma. She had the tumor removed when she came back to Korea.
VI.Payment
Wonok Gil says she did receive military payment certificates but not actual money.

http://www.hermuseum.go.kr/eng/

軍刀で殴り付けられたり、一人が逃げたら残りの者が罰を受けたり、など牢獄同然と言えます。また報酬は軍票で実際の通貨ではありませんでした。子宮に腫瘍を患ったのが慰安所での生活が原因かどうか断言はできませんが、因果関係なしとは言えません。

証言者である吉元玉さんは84歳、平壌に近いところでそだった。13歳のとき父親が監獄に入れられ、10円の罰金を払えば釈放されると聞かされた。そのときあるひとがいい働き場所がある、そこなら10円をすぐ返されると言われ、したがったところ行った先は日本軍慰安所だった。慰安所では日本の将校に暴行を受けた。いっそのこと日本刀で切られて死ねばよいと思ったが将校は刀を鞘に収めたままで頭をぶん殴ったのでおびただしい血が流れた。

http://tarari1036.hatenablog.com/entry/2013/05/19/202123

吉元玉氏による橋下大阪市長訪問について

口先だけでその場を煙に巻くことに長けた橋下市長と対談することを考えると、高齢の吉元玉氏には結構負担になるはずです。芸人時代にカメラ慣れしている橋下市長はカメラ前での演出も当然心得ているでしょうから、老人を勢いだけでやり込めるようなやり方は避けるでしょう。
おそらく、吉元玉氏の話の本筋を反らした上で自分はあなたのことを気の毒と思っている姿をカメラにアピールするでしょうね。カメラを撮るメディアも多くは慰安婦問題否認しているか、当たらず触らずに徹するかのいずれかでしょうから、橋下市長の演出にまんまと、あるいは自ら乗るでしょう。
ネット上の二次強姦魔たちは、当然吉元玉氏をあげつらうだけが目的ですから、もろもろ踏まえると吉元玉氏にとって極めて辛い訪問になるでしょうね。

私としては訪問の場に多少でもまともなメディアが来ることを期待して、最低限でも吉元玉氏の受けた被害経験を知り、吉元玉氏の事例においては何が問題とされているか、吉元玉氏の事例における日本軍・政府の責任とは何かを知った上で、橋下市長のレトリックに騙されないようにしてほしいと思い、これを書きました。

騙されて慰安所に送られ、12〜13歳の幼い時期に日本兵相手に売春強要された被害者を、今また言葉巧みに騙そうとする試みにメディアが協力しないこと切に願います。