「国会事故調 報告書」における福島第一原発1号機海水注入の経緯に関する記述と安倍晋三氏によるデマとの比較

国会事故調報告書に以下の記載があります。

(P248)
 1号機への海水注入が開始されてから約20分がたったころ、武黒フェローは吉田所長からの電話で海水注入が始まったことを知ったが、官邸で海水注入のリスクについて検討が進められていたため、吉田所長に対して海水注入をいったん待つよう指示した。これは、菅総理や官邸内からの指示ではなく、武黒フェローが、リスクについて検討中であった官邸との関係をおもんばかり、「最高責任者である総理の御理解を得て進めるということは重要だ」*1と考えて、独断で指示したものである。
 約3時間前の15時20分にはファクスで官邸を含む関係各所に海水注入の意向が伝えられ、17時55分には海江田経産大臣から海水注入命令が官邸で行われていたわけであるから、吉田所長から海水注入開始の報告を受けた武黒フェローは、その事実をそのまま官邸へ伝えるべきであった。武黒フェローの指示は合理性がなく、結果として、その後の指揮命令系統の混乱を招いた。
 この時、官邸では、菅総理が淡水から海水に切り替えると「再臨界」の恐れがあるのではないかとの疑問を抱いていたため、斑目委員長が中心となってその解消に腐心していた。菅総理は、既に海水注入が始まっていたことを知らなかったために時間があると思って慎重に確認したものと考えられるが、技術的には無駄な議論であった。
 吉田所長は、せっかく開始した海水注入を中止するわけにはいかないと考え、テレビ会議上は中断したかに見せかけながら、自らの判断で海水注入を継続した。この点で、政府の意思決定の混乱とそれを受けた武黒フェローの指示は、海水注入になんら影響を与えなかった。

2011年3月12日19時4分に福島第一原発1号機への海水注入が開始されていますが、それに関連する以下の事実が指摘されてます。

  • 17時55分の時点で官邸から海水注入の支持が出ている。
  • 19時20分ごろ、武黒フェローが海水注入開始を知ったが、菅総理に報告せずに、海水注入中止を指示
  • 吉田所長は、武黒フェローの指示を無視してが海水注入を継続した

菅総理の責任と思われる問題はここにはありません。

これに対して、安倍現首相が震災当時に流したデマがこれです。

菅総理の海水注入指示はでっち上げ』
最終変更日時 2011年5月20日
福島第一原発問題で菅首相の唯一の英断と言われている「3月12日の海水注入の指示。」が、実は全くのでっち上げである事が明らかになりました。
複数の関係者の証言によると、事実は次の通りです。
12日19時04分に海水注入を開始。
同時に官邸に報告したところ、菅総理が「俺は聞いていない!」と激怒。
官邸から東電への電話で、19時25分海水注入を中断。
実務者、識者の説得で20時20分注入再会。
実際は、東電はマニュアル通り淡水が切れた後、海水を注入しようと考えており、実行した。
しかし、 やっと始まった海水注入を止めたのは、何と菅総理その人だったのです。
この事実を糊塗する為最初の注入を『試験注入』として、止めてしまった事をごまかし、そしてなんと海水注入を菅総理の英断とのウソを側近は新聞・テレビにばらまいたのです。
これが真実です。
菅総理は間違った判断と嘘について国民に謝罪し直ちに辞任すべきです。

http://www.s-abe.or.jp/topics/mailmagazine/2291

「同時に官邸に報告したところ、菅総理が「俺は聞いていない!」と激怒。」という箇所などは、明らかに事実に反しますし、「海水注入を止めたのは、何と菅総理その人だった」というのももちろんデマです。

安倍首相が2011年5月当時、政局に利用できる噂レベルの怪しい情報に軽率にも踊らされたのならば、こういったデマも安倍氏の無能の証明ではあっても悪意の証明とは言えません。

しかし、2年以上経過し、さまざまな調査がなされ事実が明らかになっている2013年の現在もなお、このデマをインターネット上に掲示し続け、菅元首相から再三に渡って削除と訂正を求められているにも関わらず、一切応じないことを踏まえると、安倍首相は無能なだけではなく、悪意をもって意図的にデマ情報を流し続けていると言えるでしょう。

デマを流し、開き直る。

そういう「美しい国」が明日誕生します。

*1:武黒一郎東電フェロー 第8回委員会