1997年の安倍晋三

1997年5月27日第140回国会衆議院決算委員会第二分科会

○安倍(晋)分科員 先ほど申し上げましたように、特にことし、中学の教科書、七社の教科書すべてにいわゆる従軍慰安婦の記述が載るわけであります。この問題に絞って幾つか質問させていただきたいと思うわけであります。
 私も従来から我が国の歴史教科書の記述については問題点が多いな、こう思っておりました。しかし、この従軍慰安婦の記述については余りにも大きな問題をはらんでいるのではないかと私は思います。これは私だけではなくて、そういう問題意識を持っている議員はたくさんいるのですね。ことしになって、特にこの記述に疑問を持つ若い議員が集まって、日本の前途と歴史教育を考える若手議員の会というのを発足いたしました。当選五回以下に絞っているにもかかわらず、自民党だけで六十名近い議員が集まって、勉強会を既に八回、文部省からも説明要員として御出席をいただいたわけでございますが、勉強会を重ねてきました。それぐらいたくさんの議員が問題意識を持っているということであります。
 それはなぜかといえば、この記述そのもの、いわゆる従軍慰安婦というもの、この強制という側面がなければ特記する必要はないわけでありますが、この強制性については全くそれを検証する文書が出てきていないというのは、既に予算委員会、先ほど私が申し上げました小山議員、片山議員の質問の中で、外政審議室長の答弁等々から明らかであります。唯一のよりどころは、十六名の元慰安婦の人たちの証言ということでありますが、これはやはり私どもの勉強会におきまして、石原元副長官に講師としてお越しをいただきまして証言をしていただいたわけでございますが、もう既に、これは十六名の人たちから聴取をするというときに強制性を認めるということで大体方針が決まっていた。それを否定するというのは、とてもそういう雰囲気ではなかった。これは実際の話としてお話があったわけであります。明らかにこれは外交的配慮から強制性があったということになってこの官房長官談話につながったのだ、私はこういうふうに思います。
 そもそも、この従軍慰安婦につきましては、吉田清治なる詐欺師に近い人物が本を出した。この内容がもう既にめちゃくちゃであるということは、従軍慰安婦の記述をすべきだという中央大学の吉見教授すら、その内容は全く根拠がないということを認めております。しかし、この彼の本あるいは証言、テレビでも彼は証言しました。テレビ朝日あるいはTBSにおいてたびたび登場してきて証言をいたしました。また、朝日新聞は大々的に彼の証言を取り上げて、勇気ある発言だということを新聞紙上で扱って、その訂正はいまだかつて一回もしていない。テレビ局も新聞もそうであります。
 しかし、今は全くそれがうそであったということがはっきりとしているわけであります。この彼の証言によって、クマラスワミは国連人権委員会に報告書を出した。ほとんどの根拠は、この吉田清治なる人物の本あるいは証言によっているということであります。その根拠が既に崩れているにもかかわらず、官房長官談話は生き、そしてさらに教科書に記述が載ってしまった。これは大変大きな問題である、こういうふうに思っております。
 ただ、それならたくさん教科書があるのだからそういう教科書ばかりにはならないだろうと思っていたら、すべての教科書にこの記述が載ったということであります。当然、中等段階でありますから教科書は無償でありまして、国の予算も教科書全体として四百三十五億円ついております。歴史の部分については十億円がついているということであります。
 七社それぞれ記述が若干違うわけであります。慰安婦と書いてあったり、従軍慰安婦と書いてあったり、あるいは慰安施設をつくったということでありますが、実態は、最も多く売れている、十億円のうち四億円は東京書籍株式会社であります。この東京書籍に至っては四億円、十分の四ですね。「従軍慰安婦として強制的に戦場に送りだされた若い女性も多数いた。」強制性を堂々と書いております。
 そしてまた、次は大阪書籍、一・九億円であります。「慰安婦として戦場に連行しています。」という形で書いてありますが、これは強制性をかなり疑っている、強く示唆しているということではないかと思います。
 そしてさらに教育出版社、これは一億八千万円でありますが、「従軍慰安婦として戦地に送り出された。」と書いてあります。
 一社だけ、慰安施設をつくったということでありますが、これは清水書院であります。強制性については余り言及をしていないわけでありますが、これは結局三千万円だけであります。十億円のうち三千万円でしかないということであります。
 ということは、予算的には多くの、ほとんどの教科書が強制性を疑わせる記述になっているのだ、こういうふうに思います。
 問題は、私はこれは採択の現場にもあるのではないかと思うわけであります。我々は、この東京書籍の社長も含めて、教科書会社の人たちを呼んで話を伺いました。彼らが言うには、本音ベースで言えば、こういう教科書をつくらないと教科書を採択してもらえないということでありました。
 そのときに、大阪の現場の先生、大阪府の桜丘中学校教諭の長谷川先生にもお越しをいただいたわけであります。彼の証言でありますが、「採択権は現場の教師に実質的には握られている。枚方市では教師が投票し、その投票の上位となった教科書が教育委員会に報告され、それが採択される。」「教科書会社は教育委員会よりも現場教員、その思想傾向におもねるようになる。」ということであります。
 日教組の組織率は、今極めて低下をしているわけでありますが、残った先生方は大変先鋭化をしております。そして、思想的な傾向も強まっているわけでありまして、教科書会社は営利を上げるためにみずから内容を社会主義化することによって利益を上げているという大変皮肉な結果になっているということであります。
 さらに、この教科書の採択に大きな影響を持っているのが、労働組合出版労連であります。共産党系の労働組合出版労連というグループ、これは教科書執筆者がつくっている労働組合でありますが、それが極めて大きな影響力を持っております。そしてもう一つ、大阪の場合は大同協、つまり同和教育研究協議会という部落解放同盟系の組織であります。これらがいわゆる事前チェックを行いながら、こういう傾向でなければ採択はさせないという大きな圧力をかけているというお話
が現場の先生から、そういう生々しい証言があったわけであります。
 この現場の採択の状況について、文部省は問題点を把握しておられるのでしょうか。

○辻村政府委員 まず、採択についてでございますけれども、若干採択の基本的なルールを申し上げさせていただきたいと思うのでございます。
 現在の我が国の教科書の採択制度は、市、郡単位のいわゆる共同採択制度をとっております。これは各県が決めるわけでございますけれども、全国で四百七十八カ所ございます。責任はそれぞれの市、郡の教育委員会にございます。
 その採択に当たりまして、教育委員会がただ一方的に決めるということではなくて、その中での指導主事さんでありますとか、現場の先生でありますとか、さらにケースによりましては保護者なども加えているケースもあるわけでございますけれども、そういう採択地区協議会というものを設けて、そこでそれぞれの地域の教科書としてどれが一番ふさわしいかということを検討する仕組みになってございます。さらに、専門的な立場から、各教科ごとに専門員、これは現場の先生でございますけれども、置いて、共同の調査研究を実施するというような仕組みになっているわけでございます。
 その際に、学校現場の意向等を聴取しつつ、全体として自由に意見を交換し合いながら、最終的には、先ほど申し上げましたように市、郡単位の教育委員会が責任を持って行うというようになっておるわけでございます。
 そこで、ただいまの御指摘でございますけれども、私どもといたしましては、そのルールは、それぞれの地域地域に合った教科書が、真に教育的な観点に立ってどれが一番ふさわしいかという形で決定されるということが大切なわけでございまして、そのやり方の逐一につきましては私ども承知していないわけでございますけれども、ただいま申し上げましたような共同採択の趣旨が十分生かされるように、これからも教育委員会に指導をしてまいりたいというふうに思っております。

○安倍(晋)分科員 結果として、この従軍慰安婦の記述につきましても、強制性をにおわせ、日本の残虐性を強くにおわしている東京書籍が一番多く採択をされる、慰安所というような緩やかな表現を使ったところは三千万円しか売れないというのが結果であります。結果が実態を証明しているのではないか、私はこのように思うわけであります。
 出版労連は、教科書レポートというのを出すわけでありますが、その中に「最新日本史」採択校一覧表というのを載せるわけであります。その中で、自分たちの思想的傾向に合わない教科書を採用した学校には、これはもうみんなで押しかけるわけでありまして、こんな教科書を使う学校には生徒を送らないぞという圧力をかけているということであります。特に、私立学校等は、こういう圧力をかけられますと大変弱いわけでありますから、次々と採択する教科書を変えているというのが現状だと思うわけであります。しっかりその点を文部省もよく認識をしておいていただきたい、こういうふうに思うわけであります。
 私どもの勉強会におきまして、何回か文部省の方に来ていただきまして、お話を伺ったわけでありますが、こうした記述が載るという根拠になったのは、先ほど申し上げました宮澤官房長官の談話と、そして河野官房長官の談話であります。しかし、先ほども申し上げましたように、河野官房長官の談話の前提がかなり崩れてきているという大きな問題点があると思うんですね。ですから、その中で、もし官房長官談話が強制性はなかったというように修正をされたら、これは果たして検定の中身も変わってくるのかどうか、このことについてお伺いをしたいと思います。

○辻村政府委員 仮定の御質問でございますけれども、私どもが教科書の検定を行う際は、恣意的にこれを行うわけではもちろんございませんで、検定の時点におきます客観的な学問的成果あるいは適切な資料に照らしてこれを行っているわけでございます。ただいま先生がお取り上げになっておられます慰安婦の記述に関連いたしましても、これは平成五年八月の政府調査を適切な資料として採択して、検定を行っているところでございます。
 ただいまこの根拠が云々という御指摘があったわけでございますけれども、この政府調査、これ自体は何ら変更をされていないわけでございます。予算委員会でたびたび取り上げられておりますけれども、その際の政府答弁におきましても、強制性は認められているということで、この政府答弁も一貫をしているわけでございます。
 そういう状況でございますけれども、ただいま申し上げましたように、この検定の基礎になりますのは、あくまで客観的な学問的成果や適切な資料ということでございます。仮に、もしその資料にそごがあるというようなことでありますれば、これは改めて私どもとしては審議会の御判断にゆだねるというようなことになろうかと思うわけでございますが、万々が一の仮の御質問でございますけれども、あえて申し上げますれば、そのような段取りになろうかというふうに思います。

○安倍(晋)分科員 河野官房長官談話の中で、「官憲等が直接これに加担したこともあったことが明らかになった。」というこの文章、この文言なんですね。しかしながら、これは実際、資料においては全くそのことが証明されなかったということは、もう既に国会の審議の中でも明らかになっております。これは民間団体等も、何とかそういう資料が出てこないかといってウの目タカの目で探した結果でも出てこなかったということで、十六人の元慰安婦の人たちの証言に頼らざるを得なかった。
 しかも、この人たちはもちろん名前も公表していない、それはやむを得ないことでありましょうが、裏は全くとっていない。なぜ裏をとらなかったのですかと、これは副長官に私ども質問をいたしましたが、これはもうそういうことだった、とてもそういう裏をとるというようなことができる状況ではなかったということであります。
 しかも、ある人が調べたところによりますと、この十六人の中には、恐らく、韓国側が調べた、韓国側が補償を行っていますから、その中でこの人はいいかげんだと決めた人も何人か入っているんですね。韓国側ですらこの人の発言はちょっとおかしいじゃないかと言って落とした中にも入っているということであります。もちろん、実際にその人たち本人は、場合によっては中間に入った業者等にだまされたということによって強制されたのではないかと信じている人たちもいて、必ずしもうそを言っているとは限らないわけでありますが、しかし、そうした検証をすることは絶対に必要なんですね。
 インドネシアにおいて、例のアジアのための基金に対して、元慰安婦だった人たちを募ったところ、何と二万人も出てきたということであります。我が軍は一万人ちょっとぐらいしかインドネシアにいなかったにもかかわらず、二万人も出てくるというのは、これはほとんどの人が実態と違う、うそをついているということでありますから、常に、こういう歴史においては私は検証が必要になってくる、こういうふうに思うわけであります。
 そしてさらに、もう時間がなくなりましたので、最後の質問でございますが、どちらにしろこれは私は事実ではない。まだ今のところ問題点を含んでいるわけでありますから、歴史教科書に載せるというのは、これはもう全く大きな問題があると思うわけでありますが、そもそも歴史教科書、特に中学生段階ではどういう記述にするべきかということについてお話を伺いたいと思うわけであります。

15年以上前の話ですが、この頃から安倍氏は同じことを繰り返しています。いわく、「強制性はない」、「河野談話は問題だ」、「聞き取りをした16人の慰安婦証言は信用できない」。ネトウヨ安倍氏を偏愛する理由がよくわかります*1

今回、安倍首相は16人の慰安婦証言の裏とりと称して、河野談話を否定したかったことでしょうね。「実際にその人たち本人は、場合によっては中間に入った業者等にだまされたということによって強制されたのではないかと信じている人たちもいて、必ずしもうそを言っているとは限らないわけでありますが、しかし、そうした検証をすることは絶対に必要なんですね。」と言ってるくらいですから。

ああ、ちなみに「我が軍は一万人ちょっとぐらいしかインドネシアにいなかったにもかかわらず」とか言ってる点はもちろんデタラメです。インドネシアでの日本軍戦没者だけでも1万人越えてますから。もし、安倍首相が社会党共産党に属していたら、死ぬまで軍オタから嘲笑のネタとして使われたでしょうね。自民党だから、政治的に偏向している軍オタに注目されずに済んでますけど。

*1:同時に産経新聞慰安婦証言を「スクープ」したという話が、15年前から流布されている新奇性のないプロパガンダであることもわかりますね。