台湾関係雑感、あるいは台湾立法院占拠支持者中の反中無罪の見分け方

3月18日から立法院を占拠し抗議している台湾の学生たちですが、当初はサービス貿易協定の“審議過程が不透明”だという理由が挙げられていました。

現地からのレポートでは、国会占拠直後から、多くの市民が台北へ向かっているという。無料のバスも絶えず出続け、各地の大学の先生たちも、「立法院へ抗議に向かうなら授業を欠席しても欠席扱いにしない」、と言っているという。現地スタッフは、「みんな、民意を無視して勝手に交渉が進められていることに怒っているんです。私の友人も立法院に突入して中で籠城しています。学生たちは馬英九総統が出てきて話し合いをするまで引き下がらない、立て籠もりを続けると言っています」と語った。

http://iwj.co.jp/wj/open/archives/130664

台灣中部大学の邱教授 「大陸との経済交流に反対しているわけではありません。大陸からの学生はみんなとても優秀ですし、いい生徒ばかりです。腹が立つのは、無能な政府が民意を無視し推し進めたことです。いま、民主主義が脅かされています。今からでも間に合います、僕の授業を履修している生徒は、立法院に行ってください。これは全国民問題であり、一人一人の未来と生活に確実に影響します」。
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http://iwj.co.jp/wj/open/archives/130664

どうも立法院占拠を支持する民衆の多くは、反中的ではなさそうな感じで、むしろTPPに類する包括的な経済協定に対する不満と不安が根底にあるように思えます。
多くの貿易品目に関して経済協定を審議する場合、お互いに譲歩したり利益を得たりして、結果として双方に“総合的な利益”が生じるように調整するのが普通です。この場合、個々の品目に着目しても全体としての利益は見えません。今回の場合、台湾が譲歩した品目だけを取り上げれば、当然台湾が損をしているかのように論理を組み立てることができます。サービス貿易協定に関して断片的に流れている情報を鵜呑みにできないと考える理由です。
もっとも全品目を総合的に見て台湾に利益があったとしても、損をする品目に従事する業者にとっては困るわけですから、そういった業界にどう補償するかと課題は台湾政府に圧し掛かることは当然ですが。
デモ当初の発端は3月17日の委員会審査での強行採決民進党が強く反発したことからと見られます。18日に学生らがガラス戸を破って議場に乱入し占拠し現在に至っていますが、200〜300人程度の学生の立法院への侵入を容易に許したという状況に若干の違和感が残りますし、そもそも突入した学生らの中には「民進党系や李登輝派の元運動家の子弟が含まれ、すでに社会運動経験をかなり積んでいるつわもの揃い」*2とも言います。突入に際して民進党系や李登輝派の議員らの共謀も可能性としては否定できません。

強行採決に対する不満だとすれば

問題の構図としては、秘密保護法を強行採決した安倍政権と馬政権がだぶることになります。もっとも経済協定と異なり基本的人権を直接的に侵害する秘密保護法の方がよほど重大な事案ですが、まあ日本人は大人しかったですね。国会周辺で穏当にデモしてただけで、騒音扱いしてた安倍シンパも少なからずいましたが、そういう連中が今回の台湾の事案では立法院占拠という不法かつ強硬な実力行使を容認・歓迎しているわけですから意味不明です。
いや、秘密保護法強行採決に反対していた人たちが、台湾の立法院占拠も支持するのであれば、論理として一貫しています。朝日新聞などが台湾立法院占拠にも寛容な態度をとる*3のは、その意味で一貫した態度と言え、まあ当然でしょう。逆に安倍政権の強行採決を容認・正当化していた自称保守やネトウヨらが、今回の馬政権の強行採決に対する反対表明としての立法院占拠という不法行為を容認するというのは論理的な矛盾であり、一言で言えばダブスタです。

経済協定に対する不満だとすれば

台湾のデモに集まった群衆の中には審議過程とかよりもとにかく経済協定に不満・不安・反対という人たちも大勢いるようです。と言うより、デモを大規模化する上で、審議過程といったわかりにくいイシューよりも経済協定によって台湾産業に損害が出る、という経済不安を利用したと言った方がよいでしょう。この構図はTPPと同じです。個々の業界については得する所も損する所もあるでしょうが協定全体として見た場合、国家全体の得失はどうかというと、評価の難しいところです。TPP推進派は、TPPは日本経済にプラスだと言い、反対派は負の面を強調します。中台協定も同じ状況です。

 サービス貿易協定は、中国側は80の分野、台湾側は64の分野について、相手側の資本進出などを認めるという、中国大陸と台湾の経済関係をかつてないほど大胆に「親密化」させる内容を盛り込んでいた。
 中国はこれまで上海自由貿易試験区などの例外を除き、外資系企業に対して電子商取引、娯楽、医療サービス分野にける進出を認めてこなかった。台湾側はサービス貿易協定で同分野の進出を認めさせるなど、「大きな譲歩」を引き出すことに成功したとされる。馬英九総統にとってかなりの「自信作」だったことは、想像するに難くない。

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20140331-00000102-scn-cn

日本と同じく、台湾にも協定に賛成の人もいれば反対の人もいるわけです。馬政権以外は反対だけで団結しているわけじゃありません。
しかしながら、日本国内でもTPPに批判的な勢力からすれば、台湾での同様の協定に対しても批判的になるのは筋が通っています。その意味では日本のリベラル勢力が、台湾のデモ側に親和的な態度を取るのは一貫していると言えます。しかしながら、経済のためとTPPに賛同している人たちが、台湾のデモを支持するのは矛盾と言う他ありません。日本の自由貿易には賛成し、台湾の自由貿易には反対するわけですから、普通に考えておかしな話です。

秘密保護法強行採決及びTPP推進政策支持する一方で、台湾のデモを支持する矛盾

もっとも自称保守・ネトウヨらの脳内では、矛盾ではなく一貫しているのかもしれません。要するに中国が得することは全て反対、中国が損することは全て賛成、という反中無罪の思考回路です。
彼らの思考は、対中戦略を強化する秘密保護法は支持、中国外しのTPPは支持、中国と台湾の関係強化には反対、という意味で一貫していますが、個々の政策によって影響を受ける民衆の姿は彼らの目には映っていません。彼らの脳内は、中国を敵とした脳内大戦略にすぎず、その単純な思考回路内では台湾は、多くの人が生活する空間ではなく、対中戦争時における日本の盾に過ぎません。少なくとも今デモを行っている台湾人のことなど、脳内大戦略のコマ程度にしか認識していないでしょう。

台湾立法院占拠を支持する日本人のうちから自称保守・ネトウヨらを見分ける方法

一番簡単な見分け方は、安倍政権での秘密保護法強行採決を支持しているか、TPPを支持しているか、です。無条件で秘密保護法強行採決やTPPを支持しているような連中が、台湾立法院占拠を無条件で支持していれば、そいつは自称保守かネトウヨの反中無罪と見て間違いありません。