まあ、政治的には間違ってない人選だと思うよ

この件。

本紙の慰安婦報道、第三者委員会7氏で検証 9日初会合

2014年10月2日17時06分
 朝日新聞社慰安婦報道について検証する第三者委員会の委員の方々が決まりました。弁護士や研究者、ジャーナリストら有識者7人で構成します。初会合は9日午後、東京都内で開きます。
 委員長には、元名古屋高裁長官で弁護士の中込秀樹氏(73)に就任をお願いしました。委員は、外交評論家の岡本行夫氏(68)、国際大学学長の北岡伸一氏(66)、ジャーナリストの田原総一朗氏(80)、筑波大学名誉教授の波多野澄雄氏(67)、東京大学大学院情報学環教授の林香里氏(51)、ノンフィクション作家の保阪正康氏(74)の6人です。
 また、朝日新聞が8月5、6日付朝刊に掲載した特集「慰安婦問題を考える」でもコメントを寄せていただいた現代史家の秦郁彦氏(81)のほか、神戸大学教授の木村幹氏(48)ら慰安婦問題に詳しい有識者をはじめ、委員会が必要と認めるテーマについて専門家をお招きし、ご意見やご提言をいただきます。
 委員会では、これまでの朝日新聞慰安婦報道をめぐる記事作成の背景や今回の記事取り消しにいたる経緯のほか、特集「慰安婦問題を考える」の妥当性、日韓関係はじめ国際社会への報道の影響などについて検証し、2カ月程度をめどに具体的な提言を盛り込んだ報告をまとめていただきます。

http://www.asahi.com/articles/ASGB24TH3GB2UHBI01T.html

普通に見れば、明らかに右に寄ってる人選ですけど、まともな歴史学者とか入れれば「自虐」とか「反日」とかの非難が右側から大合唱されるのは眼に見えていますから、安倍政権寄りの人物を入れておくのは“政治的に”正しい判断だと思いますよ。極右から見れば、これでも左過ぎるとかの主張になるようですが、それはさすがに現在の世論でも一般的な認識ではないでしょう。
よくわかってない一般人から見て、妥当に見える人選とは思います。
個人的には、何で池上彰氏を入れなかったんだろうとは思いますが。

どうせ、大した結論には至らない

と思います。明らかなトンデモ主張を公言して回るほど羞恥心に欠けた人物はまあいないようですので、卑怯な言い回しはするかも知れませんが常道から大きく外れた主張を自らの責任で発するような可能性はまず低いと見ていいと思います。例えば、“当時は売春が完全に禁止されていたわけではない”とは言えても、“韓国人が勝手に売春婦としてやってきた”とまでは言わないでしょう、という予測。

予想される結論として考えられるのは、人権問題としての慰安婦問題から徹底的に視線を反らして瑣末な揚げ足取りに終始するか、歴史学的・人権問題的にぎりぎり常識的な範囲の結論に収まるか、のいずれかでしょうね。全力で安倍政権や排外差別団体に媚を売る結論にはならないと思います。
ただまあ、当然のように委員会内での話しは外部、特に産経のような右翼メディアや安倍政権のような右翼政治団体に逐一漏洩されるでしょうから、検証上の婉曲的な言い回しを右翼的に拡大解釈・曲解した情報が朝日以外のところから出てくるでしょうけどね。
産経新聞が得意とする意図的なトリミングで主題を改変させる手法は最近ではNHKでも多用されていますから、第三者委員会が“どんな結論を出そうとも”周辺の報道が、朝日叩きや慰安婦否定に誘導するでしょうね。

人選という問題:歴史問題を検証するのか、報道問題を検証するのか

“政治的”ではない、検証を目的とした人選としてまともかどうかを評価してみると、さすがに問題あるとは思います。そもそも、この委員会は何を検証するのが主目的なんでしょうか。波多野氏、保坂氏、秦氏と言った面々を見ると、歴史としての慰安婦とはどうであったかを踏まえて朝日報道の是非を検証するようにも感じますが、岡本氏、木村氏などの面々を見ると朝日報道が外交的・他国世論にどう影響したかを検証したいようにも見えます。田原氏を見ると、取材・検証から公表へと至る一連の報道過程について検証するようにも見えます。

朝日記事では「委員会では、これまでの朝日新聞慰安婦報道をめぐる記事作成の背景や今回の記事取り消しにいたる経緯のほか、特集「慰安婦問題を考える」の妥当性、日韓関係はじめ国際社会への報道の影響などについて検証」と書かれており、直接慰安婦問題の史実について検証するわけではなさそうです。しかしながら、慰安婦問題に対する社会の認識、外交関係への影響、報道の際の瑕疵などを検証するにしても、史実としての慰安婦問題を踏まえる必要はあるでしょうから、その理解の怪しい人物を委員会に入れる人選は本来的には適切ではないと言わざるを得ません。

本当に従軍慰安婦問題についての知見を求めるならば、吉見義明教授や永井和教授や林博史教授を呼ぶべきだろう。

http://d.hatena.ne.jp/hokke-ookami/20141002/1412355759

という法華狼さんの指摘があたっていると言えます。
しかしまあ、“政治的”な意味では、この人選が適切だと思います。日本軍強制下で売春を強要された少女ら戦時性暴力被害者を、自発的売春婦呼ばわりする自民党を延々と政権につけ続け、それを問題視した朝日などのメディアを侮辱・リンチする行為に参加・黙認した日本社会には、史実としての慰安婦問題は刺激が強すぎるでしょうから。
強制売春や二次強姦の加害者としての認識どころか、むしろ自分たちを戦災被害者であり冤罪被害者であるという甘い幻想に浸り続けた脆弱な精神性では、事実を受け入れることはできないでしょう。幼児に社会のルールを教えるように、段階を踏む必要があるのかもしれませんね。

朝日の取材に対して嘘をついた秦氏の前科

さて、朝日の人選が“政治的”に妥当だとは思いますが、それを許容しても気になる人物はいます。秦郁彦氏です。
秦氏慰安婦問題否認論者だから、という理由ではありません。
理由は、検証委員会としての信頼を損なうレベルの虚言癖を持っているからです。

2014年8月6日の朝日記事で秦氏のコメントが掲載されましたが、その1週間後の8月12日に秦氏は産経で以下のようなことを言っています。

 朝日新聞から検証記事への見解を求められ、同紙6日付朝刊に寄稿した。「自己検証したことをまず、評価したい」と書いたのは、過去にコメントをボツにされたことが度々あったからだ。原稿が掲載されなかったら、朝日読者に批判が届かない。朝日と付き合う際は作戦が必要。朝日の人たちは「評価」されて喜んでいたらしいけどね。

http://www.zakzak.co.jp/society/domestic/news/20140812/dms1408121140003-n1.htm

要するに、秦氏は朝日に掲載される為に心にもない“評価”をしてみせ、他紙で“あれは作戦だった”と得意げに語っているわけです。こういう人物が第三者委員会として適切かというのが一番の問題だと思います。第三者委員会で何を発言しても、「あれは作戦でした。」と後からヘラヘラ笑いながらひっくり返すことを平気でやりかねないわけですから。秦氏の思想信条以上に、公の場での自身の発言に何の責任を負わないという一点において、秦氏は適切ではないと思いますね。第三者委員会がどのような結論を出そうとも、その信憑性を毀損する可能性が高いといわざるを得ません。