容疑否認している容疑者の実名顔写真をバンバン公開するやり方を歓迎する日本社会

そのくせ、後に冤罪だとわかるとマスゴミ」扱いして報道機関を批判し始めたりするわけで。

靖国事件報道、日本に抗議=容疑者顔公表など―韓国

時事通信 12月10日(木)15時40分配信
 【ソウル時事】韓国政府は10日、靖国神社で爆発音がした事件で、逮捕された韓国籍の(引用者削除)容疑者の顔などが日本で報じられていることについて日本政府に抗議した。
 韓国外務省当局者が明らかにした。
 韓国のマスコミは、政治家ら公人、有名人を除き、人権上の配慮から容疑者の顔や実名を報じない場合が多い。ただ、事件の重大性などを鑑みて報じるケースもある。
 当局者は「容疑者の写真を無分別に公開するなど日本メディアの報道ぶりについて10日午前、外交ルートを通じ公式に抗議した」と述べた。各日本メディアに直接接触するのは難しいため、日本政府に抗議したと説明した。
 一方、外務省報道官は10日の記者会見で、日本再入国前の容疑者と韓国当局の接触の有無について「全く知らない。聞いていない」と否定した。容疑者が自らの意思で日本に再入国したのかに関しても「捜査を通じ自然に分かると思う。知っていることは全くない」と強調した。
 事件が日韓関係に与える影響についても「捜査結果がまだ出ていない状況で、予断できない」と述べている。 

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20151210-00000093-jij-kr

日本には、容疑者の段階で犯人扱いして被疑者のプライバシーを報道しまくって構わないという国民情緒法が存在しますから、韓国政府の抗議が妥当なものであっても日本社会で受け入れられることはないでしょうね。
ちなみに15年以上前の1999年10月15日に既に日弁連が以下のような要望を出していますが、一向に改善されていません。

報道のあり方と報道被害の防止・救済に関する決議

2 新聞・雑誌・週刊誌・テレビなどのマスメディアは、犯罪に関する取材においては、捜査機関の情報・視点に偏ることなく、被疑者・被告人・弁護人などの言い分も取材した上で報道するように努め、また、原則匿名の実現に向けて匿名の範囲をより拡げるとともに、被害者とその家族の名誉・プライバシーなどの人権を侵害しないように配慮をすること。

http://www.nichibenren.or.jp/activity/document/civil_liberties/year/1999/1999_3.html

韓国政府の抗議は人権問題としては当然の対応だと思いますが、“韓国に言われたら聞きたくない”という差別感情が蔓延している現在の日本では反発されるだけでしょうね。実際こんなネトウヨもいます。

the_sun_also_rises 韓国政府ってツンデレなのかい?(笑)またもわかりやすい「報道の自由を抑圧する悪役」をやってくれているので「韓国を突き放せ」と主張する僕ら右派の側面支援になっているよね。ほくそ笑みつつ韓国を非難する!w2015/12/10

http://b.hatena.ne.jp/entry/273279657/comment/the_sun_also_rises

ちなみに日本新聞協会が「新聞・通信各社の人権問題への対応の事例」として以下のようなものをあげています。

(別紙)新聞・通信各社の人権問題への対応の事例

 ここ10年前後で各社にほぼ共通した取り組み、改革の動きは以下の通りだが、さらに独自の取り組みを進めている加盟社がある。

自主基準、報道姿勢

事件被疑者の呼び捨てをやめ、「容疑者」呼称を採用
事件被疑者の連行写真や事件関係者の顔写真の掲載を抑制
(略)
事件被疑者の「言い分報道」の増加
事件報道の実名主義を原則としながらも、事件の態様や事件関係者のプライバシーなどに配慮し、ケースによって「匿名報道」を実施
捜査段階の記事は、捜査当局の発表部分を明示すると同時に、捜査当局・記者の見方の部分と区別した上で、全体に断定的な表現は使わない

http://www.pressnet.or.jp/statement/privacy/010111_78.html

引用した内では「「容疑者」呼称」と「事件報道の実名主義を原則」以外、ほぼ掛け声倒れな気がしますね。実際問題として、容疑者が逮捕拘留されてしまうと、捜査当局(今回の場合は公安)からリーク以外に情報源がほぼ皆無ですから、「言い分報道」は不可能でしょうし、「捜査当局・記者の見方の部分と区別」なんてのも実際には捜査当局の発表やリークの垂れ流しばかりですからね。「事件被疑者の連行写真や事件関係者の顔写真の掲載を抑制」に至っては、どの辺のことを言っているのかさっぱりです。

国民情緒法による制裁

日本の犯罪報道に関しては、以下のような批判が長くされてきていますが、報道機関はほぼ無視しています。

1――不当な社会的制裁

 報道被害をめぐる議論の中には、事件被害者や地域住民の報道被害は気の毒だが、「加害者」の場合は仕方がない、といった主張がある。少年や精神疾患患者が被疑者となった事件では、「被害者に比べ、加害者の人権ばかりが守られている」として、「実名報道」で制裁する動きも強まっている。ここで問われるのが、報道による制裁の是非だ。
 マスメディアにいったん報道されると、それがいかに誤った情報でも、読者・視聴者はそれを「事実」「真実」と受けとめる。被疑者の場合、その影響は重大だ。大事件では、警察に逮捕されると、名前、住所、年齢、職業から、生い立ち、学歴、家族構成、さらには性格や暮らしぶりまで、プライバシーが根こそぎ報道される。それらの情報は、事件と結び付けて報じられ、「犯人像」として描かれる。
 容疑が無実であっても、報道で形成された「犯人イメージ」は、裁判の証人、裁判官、時には弁護人にまで「犯人」の予断を与え、冤罪を晴らすうえで大きな障害になる。
 また、「有実」の場合も、被告に不利な心証が裁判官に形成されることがある。報道内容が細部で事実に反していたり、証拠として法廷に提出されなかったりしたものまで「犯人の印象」として残り、「悪質な犯行」として情状判断、量刑に影響を及ぼすからだ。
 無実・有実にかかわらず、「容疑者」として名前を報道されると、本人だけでなく、家族までも大きな被害を受ける。「犯人の家族」として見る「世間の目」にいたたまれず、転居・転職・転校を余儀なくされたり、子どもがいじめにあったり、中には本人、親が自殺に追い込まれるケース(★15)もある。
 無実の場合、長い裁判の果てにようやく無罪が確定し、冤罪を晴らしても、なお世間から「疑惑」の眼差しを向けられる例は少なくない。有実の場合、刑期を終えて社会復帰しようとしても、なかなか職を得られず、事件を知る人々の冷たい視線にさらされる。
 こうした報道被害はすべて、裁判が始まる前にマスメディアが下す「有罪判決」による不当な社会的制裁だ。無実の場合はもちろん、有実の場合も、証拠に基づかず、裁判での反証にさらされない報道の一方的な断罪は、一種の私刑=リンチにほかならない。報道する側が「制裁」を否定しても、大量に発信された「犯人視」「悪人視」情報は、結果的に重大な社会的制裁の機能をもってしまう。それは時には報道された人の社会的生命を奪う「死刑」となり、いつまでも続く「無期懲役」刑となっている。

http://www.jca.apc.org/~jimporen/lec02.html

国民情緒法って怖いですね。
これに犯人が外国籍だという事実が加わると、犯罪報道に対する全うな批判でさえ、差別感情により「政治バイアス」に見えてしまうという救いがたいおまけ付ですし。

「この事件はテロ事件」?

この事件はテロ事件なので韓国の基準に従っても「自国民の関心が高い重大事件」に該当し実名報道は問題ないと思うが?韓国政府はこの事件の重大性をまだわかっていないのだろう。韓国の反日無罪な感覚は通用しない。
the_sun_also_risesのコメント2015/12/11 08:42

http://b.hatena.ne.jp/entry/273296006/comment/the_sun_also_rises

このコメントの時点での逮捕容疑は、建造物侵入ですから形式的には「テロ事件」とは言いがたいでしょうね。もちろん、建造物侵入容疑での逮捕は拘留期間を延長できるようする日本の捜査当局の常套手段であって、本命が爆発物関連なのは言うまでもありません。
警察は逮捕から48時間以内に検察に送致しなければ釈放しなければなりません(刑事訴訟法203条)。検察は送致されてから24時間以内(逮捕から72時間以内)に裁判官に勾留の請求をしなければなりません(刑事訴訟法205条)。勾留が認められても請求から10日以内に公訴しなければなりませんが、請求によってさらに10日間の延長をすることができます(刑事訴訟法208条)。つまり、警察に逮捕されてから合計23日間が、法律によって裁判前の身柄拘束が認められる最大限の期間となっています*1。しかし、これには裏技があります。
仮に裁判に耐える証拠がそろわず、23日後(2016年1月1日)に建造物侵入容疑での拘留期間が切れ釈放になったとします。すると釈放されて警察署から出てきたところで、元容疑者は別の容疑で再逮捕されるわけです。形式上は一度釈放されていますから、23日間の拘留期限がまた0からカウントされ始めます。犯罪報道に注意していると、最初の逮捕から約3週間後に別の容疑で再逮捕される事例に気づくと思います。
これに加えて問題なのは、23日間の拘留が刑事施設ではなく警察管理下の留置施設でなされる点です。警察署内で留置されているために釈放から再逮捕までがシームレスに行われ、刑事訴訟法の意図する拘留期間の制限が無効化されているわけですし、取調べを行う警察の管理下に隔離されることで、家族や弁護士との面会すら困難にされると言う問題があり、「国連拷問禁止委員会が日本に勧告」といったことにもなるわけです。

まあ、アメリカがテロ容疑者をグアンタナモで拷問しているくらいですから、日本が代用監獄を利用して自白強要したところで問題ないとか考えている人は大勢いそうですが。まして「テロ事件」容疑者で、しかも韓国人であれば、人権など認めなくても構わない、と考える人は今の日本には、いくらでもいるでしょう。

本来「これはコワクないの?」と考える方がまともなのですが、異常な社会にあってはまともな考えの方が排除されてしまいます。これもまたコワイ話です。

*1:刑法での内乱、国交、騒乱の罪の場合はあらに5日間の延長が認められています(刑事訴訟法208条の2)。