全国消費実態調査の相対的貧困率の低下について

安倍首相が2016年12月8日にこんなことを言ったようで。

「先般、相対的貧困率が発表されました。15年前に、この数値をとり始めたわけでありますが、15年間、5年ごとに出ているわけでありますが、初めて相対的貧困率が改善したわけであります。
随分、私も国会において、安倍政権で相対的貧困率が悪くなっているのではないか、とこういう批判を受けてきたわけですが、安倍政権の間はまだどうなっているのかという指標がこれ、出なかったんですね。出ないにも関わらず、どういうわけか安倍政権は批判をされていた状況が続いていたわけですが、幸い私たちが進めている政策によって改善した。
特に、子供の相対的貧困率が、大きく改善をしました。(指標を)とり始めた15年前は、9.2。そして次が、9.7。そしてその次の5年後が、9.9。ずっと上げてきて、いよいよ2桁に入るかとこう思われたんですね。7.9に下がった。安倍政権で下がった。これは拍手をする場所ですから、さっそく世耕経済産業大臣が大きく拍手をしていただきました。
これはですね。私たちの政策によってしっかりと賃金が上がっていることの証左であろうと。一部の、ここにいる皆さんのような、収入の高い人たちの収入が上がるというだけではなく、ボーダーでいた世帯の収入が上がったことによって、子供の相対的貧困率が大きく改善をした。我々が進めている政策の方向性は間違っていないと、このように思いますが、まだまだ道半ばでありますので、さらに力を入れていきたいと、このように思っております」

http://www.huffingtonpost.jp/2016/12/08/shinzo-abe_n_13523450.html

全国消費実態調査は5年ごとに約5.6万世帯を対象に実施される標本調査です。前回の調査が2009年に実施され、安倍首相が「安倍政権で下がった」と主張した調査は2014年の実施結果です。
相対的貧困率を導出するのに必要な年間収入の情報が集められるのは11月末ですから、前回は2009年11月末、今回は2014年11月末となります。
民主党が政権を取ったのは2009年9月ですから、2009年の相対的貧困率自民党麻生政権下での状態を示していると言えます。第二次安倍政権が成立したのは2012年12月ですから、2009年から2014年までの変化は、3年間の民主党政権と2年間の安倍政権による効果と言えます。

表II−2 子どもの相対的貧困率の推移(総世帯)

  1999年 2004年 2009年 2014年
子どもの相対的貧困率 9.2% 9.7% 9.9% 7.9%

(注)特別集計による結果

http://www.stat.go.jp/data/zensho/2014/pdf/gaiyo5.pdf

安倍首相は「子供の相対的貧困率が、大きく改善をしました」とまるで自分の手柄のように語っていますが、2009年から2014年までの相対的貧困率の改善がどのような要因によるのかについてはわかってませんので、全国消費実態調査の結果だけでこのように言うのは適切とは言えません。
自民党自身も2016年の参院選時に「道半ば」と言っているにもかかわらず、都合のいい数字に飛びついているのは節操が無いように思えます。

国民生活基礎調査

表12 貧困率の年次推移

        昭和60年 63年 平成3年 6年 9年 12年 15年 18年 21年 24年
相対的貧困率  12.0% 13.2% 13.5% 13.7% 14.6% 15.3% 14.9% 15.7% 16.0% 16.1%
子どもの貧困率 10.9% 12.9% 12.8% 12.1% 13.4% 14.5% 13.7% 14.2% 15.7% 16.3%
子どもがいる現役世帯 10.3% 11.9% 11.7% 11.2% 12.2% 13.1% 12.5% 12.2% 14.6% 15.1%
 大人が一人   54.5% 51.4% 50.1% 53.2% 63.1% 58.2% 58.7% 54.3% 50.8% 54.6%
 大人が二人以上 9.6% 11.1% 10.8% 10.2% 10.8% 11.5% 10.5% 10.2% 12.7% 12.4%
名目中央値(a) 216万円 227万円 270万円 289万円 297万円 274万円 260万円 254万円 250万円 244万円
名目貧困線(a/2) 108万円 114万円 135万円 144万円 149万円 137万円 130万円 127万円 125万円 122万円
実質中央値(b) 216万円 226万円 246万円 255万円 259万円 240万円 233万円 228万円 224万円 221万円
実質貧困線(b/2) 108万円 113万円 123万円 127万円 130万円 120万円 116万円 114万円 112万円 111万円
http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa13/dl/03.pdf

まあ、国民生活基礎調査の傾向(2003年〜2012年で上昇傾向)と合わせて2012年以降に相対的貧困率が低下したと主張したいのかもしれませんが、国民生活基礎調査相対的貧困率と全国消費実態調査の相対的貧困率は数値が大きく異なっており、また傾向も必ずしも一致するとは限らないため、そういう解釈も少なくとも現時点では言い過ぎとしか思えません。


実際、今回の全国消費実態調査での子どもの相対的貧困率はこれまでと違った傾向が見られます。過去3回(1999年、2004年、2009年)の調査では、子どもの相対的貧困率は全体の相対的貧困率と近い値を取って来たにもかかわらず、今回の調査では大きく乖離しており、その解釈は慎重に行われるべきです。

そこで、2009年と2014年の全国消費実態調査での相対的貧困率について、少し詳しく見てみます。

相対的貧困率の変化

2009年 2014年
世帯員数(人) 115559691 115196894
相対的貧困基準額(万円) 135.2 131.6
相対的貧困世帯員数(人) 11665751 11364174
相対的貧困率(%) 10.095 9.865

相対的貧困率は2009年から0.2%程度低下しています。

子供の相対的貧困率

表II−2 子どもの相対的貧困率の推移(総世帯)

  1999年 2004年 2009年 2014年
子どもの相対的貧困率 9.2% 9.7% 9.9% 7.9%

注)特別集計による結果

http://www.stat.go.jp/data/zensho/2014/pdf/gaiyo5.pdf

子どもの相対的貧困率は2.0%低下しています。子どもの相対的貧困率については、子どもの相対的貧困世帯員数や子どもの世帯員数がわからないため、代わりに世帯類型別の結果を参照します。

世帯類型別相対的貧困率(%)

世帯類型別に見てみた結果がこれです。

2009年 2014年
単身世帯 21.559 20.951
単身世帯(無業) 31.554 29.631
単身世帯(有業) 10.609 10.144
大人1人と子供 61.981 47.730
大人1人と子供(無業) 92.989 75.055
大人1人と子供(有業) 56.173 43.848
2人以上の大人のみ 8.339 8.898
2人以上の大人のみ(有業者なし) 14.291 14.590
2人以上の大人のみ(有業者1人) 6.772 7.020
2人以上の大人のみ(有業者2人以上) 4.557 4.571
大人2人以上と子供 7.548 6.584
大人2人以上と子供(有業者なし) 55.519 58.642
大人2人以上と子供(有業者1人) 8.489 7.876
大人2人以上と子供(有業者2人以上) 5.662 4.872

単身世帯と2人以上の大人のみの世帯と大人2人以上と子供の世帯では大きな変化はありませんが、大人1人と子供の世帯では相対的貧困率が62%から48%に改善しています。
子どもの相対的貧困率の代わりに子供のいる世帯の相対的貧困率を「大人1人と子供」と「大人2人以上と子供」から算出してみるとこうなります。

子どものいる世帯の相対的貧困率

2009年 2014年 差分
世帯員数(人) 48371778 45358627 -3013151
相対的貧困世帯員数(人) 4336955 3392549 -944407
相対的貧困率(%) 8.966 7.479 -1.486

子どもの相対的貧困率より低めの値となり、変化も若干減っていますが、と概ね似たような傾向を示しています。

子供のいる世帯の相対的貧困世帯員数(人)

2009年 2014年 差分 変化率
大人1人と子供 781184 471155 -310028 -39.69%
大人1人と子供(無業) 184896 92158 -92738 -50.16%
大人1人と子供(有業) 596288 378998 -217290 -36.44%
大人2人以上と子供 3555772 2921393 -634378 -17.84%
大人2人以上と子供(有業者なし) 355924 298360 -57564 -16.17%
大人2人以上と子供(有業者1人) 1707972 1274078 -433895 -25.40%
大人2人以上と子供(有業者2人以上) 1491876 1348956 -142920 -9.58%

相対的貧困世帯員数はいずれも減っています。

子供のいる世帯の世帯員数(人)

2009年 2014年 差分 変化率
大人1人と子供 1260364 987133 -273231 -21.68%
大人1人と子供(無業) 198835 122787 -76048 -38.25%
大人1人と子供(有業) 1061529 864346 -197183 -18.58%
大人2人以上と子供 47111414 44371494 -2739920 -5.82%
大人2人以上と子供(有業者なし) 641081 508782 -132299 -20.64%
大人2人以上と子供(有業者1人) 20120409 16176985 -3943424 -19.60%
大人2人以上と子供(有業者2人以上) 26349924 27685727 +1335803 +5.07%

相対的貧困率の分母となる世帯員数そのものが大人2人以上と子供(有業者2人以上)の世帯以外で減っています。
大人2人以上と子供(有業者2人以上)の世帯は相対的貧困率が4.9〜5.7%程度で低いため、この世帯の構成比率が増えると子供のいる世帯の相対的貧困率を下げる方向に作用します。
相対的貧困率の高い大人1人と子供(無業)の世帯(相対的貧困率:75〜93%)、大人1人と子供(有業)の世帯(44〜56%)、大人2人以上と子供(有業者なし)の世帯(56〜59%)については世帯員数が大きく減り、こちらも子供のいる世帯の相対的貧困率を減らす方向に作用しています。

世帯の構成比率の変化が、実際に変化していることを反映したものか、それとも調査世帯のサンプリングによるものかはよくわかりません。