日本メディアは韓国の政治状況をちゃんと把握できているのだろうかというちょっとした懸念
「文氏の対日批判 「慰安婦」解決に資さぬ（03/03 05:00）」とか「文氏、世論にらみ対日批判加速 日本政府内に失望感（ソウル＝武田肇、牧野愛博2018年3月2日07時06分）」とか読んでちょっと唖然とした感じ。
日本メディア*1についてこういう指摘があったのですが、それに実感をもたらすような展開。
朝日新聞を含む日本のメディアの韓国報道がおかしいのは、歴史が長いだけで過去の過ちを省みない韓国の保守系新聞と仲が良いのが一因だろうと思っている。中の人もそう言ってたよ。https://t.co/AMl5fqwtqB
— ゆーすけ (@yoox5135) 2018年1月20日
まあ、韓国での教科書問題の時も日本メディアの理解がおかしな状況でしたし、さもありなん、というところでもあります。
日本メディアが偏向して伝える韓国歴史教科書問題
似た者同士の日韓首脳
韓国の「親日」教科書採択抗議運動を非難している日本の嫌韓バカは、韓国の教科書には韓国政府による虐殺事件について記載されなければいいと思っているのかな？
それはさておき。
朝日は文大統領の三・一記念演説について「６月にある統一地方選挙に向け、環境を整えるねらいがある」と指摘していますが、もちろん選挙に向けた狙いがあるのは確かでしょう。問題は“対日批判が支持率アップや選挙対策になる”という日本メディアの理解のレベルです。
はっきり言って、対日批判をしようがすまいが韓国での支持率に影響なんてほとんどありませんよ。自意識過剰という他ありません。
文大統領は、2018年2月28日、3月1日と二日続けて演説をしています。
二・二八民主運動58周年大統領祝辞（제58주년 2․28 민주운동 기념식 기념사 2018-02-28）
三・一独立運動99周年大統領記念演説（제99주년 3.1절 기념사 2018-03-01）
二・二八民主運動は1960年に起きた独立後最初の学生による民主化運動であり、大邱で始まったものです。その後、1960年3月15日に慶尚南道馬山で不正選挙に対する抗議デモが起り（三・一五馬山義挙）、4月19日の革命（四・一九革命）で李承晩政権を崩壊させるに至ります。
三・一独立運動は、朝鮮半島が日本の植民地支配下にあった1919年に起きた独立運動で、その後4月に大韓民国臨時政府を立ち上げ、現在の大韓民国はこの法統を引き継いでいるという立場をとっています（大韓民国憲法前文*2）*3。
「６月にある統一地方選挙に向け、環境を整えるねらい」というのなら、この二つの演説はセットで考えるべきです。
三・一独立運動に参加した民衆や臨時政府、そして独立後の民主化運動に参加した民衆、これらに対置されるのは植民地時代に日本に協力して不正利益を得て独立後もその利益を以て支配者の側に立った軍事政権や財閥など特権階級、いわゆる“親日派”です。ちなみに韓国語の“親日派”の意味するものは「売国奴」であって、日本に親しみを覚えている人についていう“知日派”とは意味合いが異なります。
この“親日派”はこの場合、具体的には野党自由韓国党などの極右政党や朴槿恵前大統領を示していると言えるでしょう。
言うまでも無い話ですが、韓国国内の選挙における文政権や民主党にとっての相手は、野党・自由韓国党や正しい未来党等であって日本じゃありません。現在、韓国の第一野党である自由韓国党の前身はセヌリ党（새누리당）であり、そのさらに前身はハンナラ党（한나라당）でした。李明博政権、朴槿恵政権時の与党です。特に朴槿恵大統領に言えることですが、独立後の独裁を布いた朴正煕大統領を父に持ち、朴正煕自身植民地支配下で日本の傀儡軍に所属*4していたこともあることから、“植民地時代に日本に協力して不正利益を得て独立後もその利益を以て支配者の側に立った軍事政権や財閥など特権階級”というイメージがあります。
自由韓国党は既に朴槿恵氏を除名しているとは言え、その印象を払拭できているわけではないでしょう。
その辺を踏まえると、文大統領の2月28日、3月1日の演説が自由韓国党などの極右勢力を相手にしたものであることが明らかです。“植民地支配に抵抗し独立後は民主化を進めた国民”と“植民地支配に協力し独立後は軍事政権に協力した親日派”を分けてみせることで、文政権に対する支持を訴える演説と評するのが適切でしょう。
おそらく統一地方選挙を視野に入れて、3月15日（三一五馬山義挙）や4月19日（四一九革命）、5月18日（光州民主化運動）にも同様の演説を行うと思います。
そういうわけで、個人的には3月1日の文大統領演説に対する日本の反応は過剰反応としか思えないんですよね。
もちろん、日本は独島（竹島）の領有権について韓国との間に領土問題を抱えているわけですから、その点について形式的な抗議を行うのは当然だとは思いますが、せいぜいその程度が妥当な範囲であって、それを超えた現状の反応は呆れる他ありません。
その独島（竹島）に関する演説での言及にしても、日本政府が島根県の竹島の日の行事にこれ見よがしに政務官を派遣するなどしてるわけですから、韓国側としても当然の反応として演説で言及したに過ぎませんしね。
慰安婦問題に関する言及も、日本政府が“慰安婦問題は解決した。韓国は今後一切慰安婦に言及するな。慰安婦は性奴隷ではない”などと国際社会に向けて喚き散らしているんですから、そりゃ演説で言及されて当然でしょうよ。
日本社会はもう少し、自国政府がやらかしていることをちゃんと把握すべきですよ。
あと、言うまでも無いんですが、演説が選挙を視野に入れたものであるのは確かだというのと同じ程度に、自由韓国党の言動も選挙を視野に入れたネガキャンに溢れていることくらいは理解すべきですね。
「平壌オリンピック」というネガキャンもそうですが、北朝鮮の金英哲来韓に対する批判などもその流れです。
文政権が成果として誇る五輪への北朝鮮参加は、閉会式にあわせて韓国入りした北朝鮮の金英哲（キムヨンチョル）朝鮮労働党副委員長が、２０１０年に起きた哨戒艦沈没事件などを主導したとして、保守層から強い反発を受けた。
https://digital.asahi.com/articles/ASL312DBML31UHBI007.html
朝日記事の「歴史問題を巡る対日批判は「文氏を支持する進歩（革新）系も、支持しない保守系も共感できる数少ない題材」（韓国の日韓関係専門家）」という認識も、どの専門家から仕入れたんだかひどいもので、3月1日演説がなぜ保守系から共感されないのか考察すれば対日批判の是非の問題じゃないことくらいわかりそうなもんですけどね。
ところが、文氏の対日姿勢に保守派からは批判が集まった。ソウルで１日あった保守派の集会には、警察発表で約１万人が参加。主催した金錫友（キムソクウ）元統一省次官は「文政権は南北問題などを巡る国内対立を抑えるため、対日問題を政治利用している」と語った。野党第１党の自由韓国党の外交族議員は１日、文氏の演説について「統一選で勝つため、世論の支持を得やすい対日問題を繰り返し持ち出している」と語った。
https://digital.asahi.com/articles/ASL312DBML31UHBI007.html
自由韓国党のような極右勢力は、植民地支配に抵抗したか協力したか、独立後は軍事政権に協力したか民主化運動に協力したかを論点にされると不利ですから、話をすり替え外圧を利用する傾向があります。植民地支配への抵抗の歴史を語ることを「対日批判」だとすりかえるわけですね。「対日問題を政治利用している」とか「世論の支持を得やすい対日問題を繰り返し持ち出している」とか主張し、日本との関係が悪化するぞと脅すわけですね。
実際、日本の安倍政権は植民地支配を正当化し戦争犯罪などは無かったことにしたいわけですから、その意味では自民党が自由韓国党と仲良しなのは当然で、今回も自由韓国党の思惑通り抗議してくれたわけですが。
問題は日本のメディアがその辺を全然踏まえていない点ですが、上で引用したツイートにある通り「歴史が長いだけで過去の過ちを省みない韓国の保守系新聞と仲が良いのが一因」と言えそうですね。
