これは日本の現状を直接批判できないから、韓国批判の体で間接的に日本を批判している記事なのだろうか?

木村幹氏による以下の記事。
韓国は、日本の対韓感情が大きく悪化したことをわかっていない(2019年10月16日(水)18時00分)

前半は韓国の進歩派に批判的な木村氏らしい内容ですが、最後の方でこういう部分が出てきます。

そして、同じ事は日本国内の議論についても言うことができる。例えば、文在寅政権が倒れ、保守派が政権をとれば日韓関係は改善する、と言う人がいる。しかし、その主張にはいったいどれくらいの根拠があるのだろうか。野党に転落し、次期大統領選挙での巻き返しを期する保守派にとって、反日意識が高まる中で、日本との関係改善を呼びかけることに、どれだけの政治的合理性があるというのだろうか。
ステレオタイプで安易な期待をばらまき、世論の歓心を買う事は容易である。しかし、「耳心地の良い」事は「正確に事実を反映している」事を意味しておらず、不正確な認識に基づく議論では目指す目的を達成することは不可能だ。いっそ韓国との関係は一旦置いて、「今の我々の立ち位置」を真剣に考えていく事が必要なのではないだろうか。

https://www.newsweekjapan.jp/kankimura/2019/10/post-6.php

沙鴎 一歩氏の「「反日の元凶」文在寅を見捨てはじめた韓国世論(10/17(木) 18:15配信 プレジデントオンライン)
とか
飯田浩司氏の「韓国内で文政権に“お手上げ”の声 「韓国を共産化しようとしている」 ソウル取材で分かった内情…日本は韓国を“利用する”手も?(10/17(木) 16:56配信 夕刊フジ)
とか異常に文在寅政権を敵視し、“文在寅政権が倒れるまで日韓関係は改善できない”的な論調は日本政府のみならず、論壇のあちこちで見ることができますよね。

こういう論者が持ってくる「韓国の識者」(飯田記事)とやらが、野党・自由韓国党に近い人物ばかりという偏向が日本でも当然のようにまかり通ってますしね。

ちなみに飯田氏が「韓国の識者」として紹介している「韓国陸軍出身の国民大学政治大学院の朴輝洛(パク・フィラク)教授」というのは、日本で言えば田母神氏に近いような右派で、自由韓国党の安全保障議員総会に出席したりする反進歩派というべき人物です。
「「文政権は韓国を共産化しようとしている」と明言」する時点で、著しく偏向していると言う他無く、こういう取材記事自体が木村幹氏のいう「一方の陣営が自らに近い人々を国内外から集めて国際会議やシンポジウムを行うこと」の同類でしょう。

木村幹氏は韓国の状況を以下のように批判的に記載しています。

明らかなのはその場に集った人々が、こと日本に関しては、全ての問題の原因は日本側、とりわけ安倍政権にある、という話を「聞きたがっている」という事だった。冒頭に引用した発言は、筆者が参加したセッションにおいてとある聴衆が述べた台詞であり、ここに今の韓国における日本に対する言説の重要な部分が集約されている。ここで筆者が述べたいのは、今日の日韓関係悪化の原因が、果たして日本側にあるのか或いは韓国側にあるのか、という問題ではない。問題は、今日の韓国において、日本という外国の政権に対する打倒運動が、恰も当然の様に展開されており、またそれが「市民の力を集め」れば実現できる、という議論が、現在の与党に連なる「長老」政治家によって公然と行われても、疑問にすら感じられていない、という事である。そしてその理解が彼らの中で繰り返し確認され、恰も当然の現実であるかのような議論がなされている、事である。

https://www.newsweekjapan.jp/kankimura/2019/10/post-6.php

しかし、日本の言論状況を見てれば、“全ての問題の原因は韓国側、とりわけ文政権にある、という話を「聞きたがっている」”日本社会の姿が否応無く飛び込んできます。
与党の有力政治家が「丁寧な無視」を主張し、嫌韓感情を公然と煽ってもいます。
そもそも安倍政権が仕掛けた貿易戦争自体、文政権打倒を意図したものとすら言えます。

木村氏はこうも言います。

だからこそ彼らにとって重要なのは、自らの見解に好都合なミクロな情報を搔き集める事ではなく、相手国の社会が全体としてどの様なマクロな方向へと向かっているかを真剣に見極める事であり、そしてその上で困難であっても現実味のある対応を考えることである。しかし、今の韓国での日本に関わる議論にはこのような真剣さは見られない。「安倍政権さえ倒れれば問題は解決する」という安易な期待に安住して手をこまねている間に、日韓両国の世論は互いにますます険悪なものとなっている。

https://www.newsweekjapan.jp/kankimura/2019/10/post-6.php

日本が「相手国の社会が全体としてどの様なマクロな方向へと向かっているかを真剣に見極め」ようとしているかと言えば、答えはNOでしょう。
「韓国を共産化しようとしている」とか「「反日の元凶」文在寅を見捨てはじめた韓国世論」とか、あるいは“クーデターの懸念がある”とか、このような馬鹿げた理屈、韓国社会について真剣に見極めようとしていれば、出てくるはずがありません。
そしてそのような現実に基づかない韓国像を描いて叩いているうちに「日韓両国の世論は互いにますます険悪なものとなって」きたわけですよ。


木村氏は最後にこう述べています。

ステレオタイプで安易な期待をばらまき、世論の歓心を買う事は容易である。しかし、「耳心地の良い」事は「正確に事実を反映している」事を意味しておらず、不正確な認識に基づく議論では目指す目的を達成することは不可能だ。いっそ韓国との関係は一旦置いて、「今の我々の立ち位置」を真剣に考えていく事が必要なのではないだろうか。

https://www.newsweekjapan.jp/kankimura/2019/10/post-6.php

一見して正論ではあるんですが、「今日の日韓関係悪化の原因が、果たして日本側にあるのか或いは韓国側にあるのか、という問題」に向き合わずにそんなこと可能ですかね、という当然の疑問も尽きません。
木村氏のいう「今の我々の立ち位置」とは一体何なんですかね?