雑感

例の赤十字のポスターの件。
公的広報のガイドライン内閣府の「男女共同参画の視点からの公的広報の手引き」(PDF))に抵触するというのは確かだと思う。ただ、ガイドライン抵触に対する抗議としては行き過ぎな観が否めず、過度な抗議ではなかったかとも思う。
期間限定のコラボ企画であるので一定期間で終了することが予定されており、抗議や批判は“今後の企画ではガイドラインを考慮すべき”だとか“赤十字としてのガイドラインを設けるべき”だとかそういう方向性であるべきだったと思う。
不快に思う人がいるのは確かだろうが、今すぐ撤去しなければならないほどのものではないとも思う。
少なくともヘイト煽動のように特定の属性を持つ層に恐怖やリスクを強いるようなレベルとは言えないので、反応もレベルに応じたものであるべきだと思う。

表現の自由案件ではないとも言えない。「表現の不自由」展との違いを即座に明確に言語化して一般に説明でき納得させられるほど理解している人が多いとは言えず、むしろ同様に考える人の方が多いと思う。なので「表現の不自由」展との違いを丁寧に説明することを省いて抗議すれば、“不快に思う人がいるなら制限もやむをえない”と素朴に理解する人たちに誤解を与えるおそれは十分にある。

誰もが「表現の不自由」展との違いを正確に理解できることを前提として、例のポスターに対する抗議を当然視するのは危険だと思う。

例えば「津田大介と「宇崎ちゃん」と「あいちトリエンナーレ」ダブスタ騒動 (山本一郎 2019/11/07 23:32 )」みたいな記事は、そういう「表現の不自由」展との違いをよく理解できない層に向けて“ダブスタ”だという印象を煽ってる。
こういう連中に対して“違いがわからないはずがない”だけでは、反論としても不十分だと思う。


また、公的広報のガイドライン内閣府の「男女共同参画の視点からの公的広報の手引き」)にしても、これを遵守していないものは少なくないが、ガイドライン抵触でここまでの騒ぎになる話題が偏っている観も否めないのは確か。
例えば、痴漢やDV、ストーカーというのは男性も被害者となりうるし決して少なくもないが、それらの啓発ポスターで被害者として描写されるのはほとんどが女性*1。しかしガイドラインではこう述べられている。

3-2 被害者はいつも女性でしょうか?

常に強者を男性、弱者を女性で描いたり、常に加害者を男性、被害者を女性で表したりするのでなく、性別と結びつけない様々な表現で描くよう心がけましょう。

https://www.city.utsunomiya.tochigi.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/012/720/kouhoutebiki.pdf

他にも女性アイドルグループのバストショットを使っている消防庁のポスターとかガイドラインに抵触するであろう公共広報自体は少なくない。
しかし、これらが同様の騒ぎになるかというとまず考えられない。

“問題のあるあらゆる物事を同様に批判することは出来ない”と言えばその通りではあるが、同じような騒動が何度か繰り返され、そのたびに騒動の対象が同じようなものであれば騒動の志向性に批判の目が向けられてもやむをえないところであろう。
今回までの一連の騒動で言えば、太田弁護士あたりは“萌え絵”に対して集中的に狙い撃ちにしているのは確かであろうし、標的となっている領域が表現の自由とは全く無関係とは言えないグレーな部分でもある以上、表現の自由が侵害される可能性を考慮して今後も続くであろうそういった騒動を注視しておく必要もあろう。

少なくとも、表現の自由のキワで“萌え絵”を狙い撃ちにする勢力とそれが表現の自由を侵害しないかと注視する勢力によるせめぎあいは、民主主義を維持する上でも、表現の自由を維持する上でも有効であろうし、健全さを維持する上で両者とも必要であろうとも思う。逆にいずれか一方が消滅した時が表現の自由にとって最大の危機ではなかろうか。



*1:そもそも公的機関自体が「女性に対する暴力をなくす運動」と銘打って被害者を女性に限定しているかのような名称を使っているのもどうかと思う。男性に対する暴力は許容されているかのような印象を与えかねない。