離婚後共同親権であったら事件は回避されたのだろうか

この件。
2児殺害のタイ人母、信じ続けた家族の「良好」崩れ犯行か 東京・吉祥寺(3/24(火) 12:54配信 産経新聞)

親権をめぐるトラブルの末の犯行だったということで、日本が離婚後共同親権を認めていれば避けられたのではないか、という主張が見られますが、この事件についてはそう単純には言えないと思います。
結論から言うと、離婚後共同親権という制度だけではなく、離婚後の親子関係を当事者任せにせず国と社会が積極的に保護し、当事者もその制度と社会を信じられるレベルに達していなければ避けられなかった事件だと考えます。

実は離婚後共同親権を認めているオーストラリアでも今回の事件と似たような事件がありました。
Gabriela Garcia・Oliver Garcia 母子の無理心中事件です。

Government to be sued over West Gate suicide barriers (By Chris Vedelago December 20, 2014 — 5.36pm)
Deadly bridge leap to 'save son from a bad life' (Milanda Rout AUGUST 17, 2009 1:23AM)

生後22か月の息子の親権を失うことを恐れた母親Gabriela Garciaが2008年6月、メルボルンのウエストゲートブリッジから母子ともに飛び降りて無理心中した事件です。吉祥寺の事件とは心中である点が異なりますが、子どもの親権を失うことを恐れたための犯行である点では同じです。
ちなみに、この Oliver Garcia事件の半年後、同じウエストゲートブリッジで Darcey Freeman事件が起こります。Darcey Freeman事件は別居親である父親が5歳の娘を端から転落死させた事件ですが、日本では共同親権反対派の千田有紀氏らが利用*1したことでよく知られています。それに対して、監護親であった母親が息子を無理心中という形で殺害したOliver Garcia事件は知られていません*2
Oliver Garcia事件もDarcey Freeman事件も事件経緯を見ると殺害を実行した親は精神的に病んでいた様子がうかがわれます*3

子どもを失うということは親にとっては心を病むのに十分な恐怖だということであって、今回の吉祥寺事件もそれをうかがわせます。

 埼玉の支店で働く夫とは5年ほど前から別居状態に陥り、家族4人で顔を合わせて食事するのは月に1回程度。夫が吉祥寺の自宅に帰るのは年に1、2回ほどだったという。それでもフルカワ容疑者は、家族関係は「良好だ」と信じて疑わなかったという。
 ●「子供取られるくらいなら…」
 だが、その様子を見かねた義母からは、昨年くらいから「別れてタイに帰りなさい」と言われ始めていたとされる。それでも、家族にこだわっていたフルカワ容疑者だったが、今月21日に決定的なひと言を義母から投げかけられた。
 「ぐずぐずしないでさっさと帰りなさい」
 八方ふさがりになったフルカワ容疑者は、わが子にもすがったが、2人の希望も「日本に残りたい」だったという。「訴訟しても勝てない」。そう思いつめて週明けの月曜日に凶行に及んだという。

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20200324-00000528-san-soci

このような経緯を見ると仮に日本が離婚後共同親権を認めていたとしても、外国人親が離婚後も日本に滞在し自由に子どもと会える環境が整備されていない限り、子どもと会えなくなることを恐れた親によって同様の事件が起きたでしょうね。オーストラリアのOliver Garcia事件と同様に。

いずれにせよ、日本が離婚後単独親権に固執し続けるのであれば、離婚によって子どもを失うことを恐れた同居親や別居親によって同様の事件は起こるでしょうね。



*1:https://news.yahoo.co.jp/byline/sendayuki/20161212-00065383/

*2:オーストラリアでも、Darcey Freeman事件は政治利用されたが、Oliver Garcia事件は無視されたという声があります。

*3:以前も少し言及しています