性交同意年齢に関する基本的な話

日本の刑法上の性交同意年齢は13歳未満となっていて、諸外国に比べて低すぎると主張している人たちがいるんですけどね。
日本の法律上、未成年者との性交等については刑法だけで規制されてるわけじゃないので議論として非常に不適切だと思っています。

性交同意年齢の引き上げを主張している人たちは、13歳以上の未成年者に対する性交等があっても暴行脅迫や抗拒不能が立証できなければ処罰されないかのように誘導していますが、当然そんなことはありません。

例えば、金銭等を対価とした性交等については児童買春禁止法という特別法があり、18歳未満の未成年を相手とした買春行為は5年以下の懲役または300万円以下の罰金という処罰が規定されています。売春防止法では買春者に対する処罰は規定されていないので、18歳未満の未成年者を守るための法律となっています。
当然、18歳未満の未成年者が売春に同意したとしても、その同意は違法性阻却理由にはなりません。考え方としては、未成年者による契約行為は無効というものに近いと言えます。

児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律

(平成十一年法律第五十二号)

第二条 この法律において「児童」とは、十八歳に満たない者をいう。
2 この法律において「児童買春」とは、次の各号に掲げる者に対し、対償を供与し、又はその供与の約束をして、当該児童に対し、性交等(性交若しくは性交類似行為をし、又は自己の性的好奇心を満たす目的で、児童の性器等(性器、肛門又は乳首をいう。以下同じ。)を触り、若しくは児童に自己の性器等を触らせることをいう。以下同じ。)をすることをいう。
一 児童
二 児童に対する性交等の周旋をした者
三 児童の保護者(親権を行う者、未成年後見人その他の者で、児童を現に監護するものをいう。以下同じ。)又は児童をその支配下に置いている者

第四条 児童買春をした者は、五年以下の懲役又は三百万円以下の罰金に処する。

https://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=411AC1000000052


では、18歳未満の未成年者が売買春ではなく騙されて性交等に応じた場合は相手方が罰せられないのか、というとそんなこともありません。
児童福祉法では18歳未満の未成年者に淫行させる行為が禁止されており、罰則は10年以下の懲役または罰金です。

児童福祉法

(昭和二十二年法律第百六十四号)
第四条 この法律で、児童とは、満十八歳に満たない者をいい、児童を左のように分ける。

第三十四条 何人も、次に掲げる行為をしてはならない。
六 児童に淫行をさせる行為

第六十条 第三十四条第一項第六号の規定に違反した者は、十年以下の懲役若しくは三百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。

https://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=322AC0000000164_20180402_429AC0000000069&openerCode=1


条例レベルですが、全国に淫行条例があり、例えば東京都の場合だと、何人であっても青少年に対して「みだらな性交又は性交類似行為」をしてはならない、とあり、違反すると2年以下の懲役または100万円以下の罰金が科されます。

東京都青少年の健全な育成に関する条例

第二条 この条例において、次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。
一 青少年 十八歳未満の者をいう。

(青少年に対する反倫理的な性交等の禁止)
第十八条の六 何人も、青少年とみだらな性交又は性交類似行為を行つてはならない。

第二十四条の三 第十八条の六の規定に違反した者は、二年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。

http://www.reiki.metro.tokyo.jp/reiki_honbun/g1012150001.html

これらの特別法や条例で13歳以上18歳未満の未成年者に対する性行為等は規制の対象となっており、暴行脅迫や抗拒不能が立証できなければ処罰されないわけではありません。この規制は13歳以上18歳未満の未成年者に対するあらゆる性行為等を禁止しているわけではなく「淫行」「みだらな性交又は性交類似行為」に相当するものを禁止しています。したがって、結婚を前提とした真摯な合意に基づく行為が禁止されないことはもちろん、社会通念上「淫行」とは言えない行為も禁止されてはいません。
児童福祉法や淫行条例が「心身の健やかな成長」や「健全な育成」を目的としている以上、当然、児童の健全な育成を阻害しない範囲での性行為等については、自己決定権を認めているわけです。

性交同意年齢の引き上げという主張は要するに、13歳以上18歳未満の未成年者に対して上記のような自己決定権を認める必要はないという主張に他なりません。
つまり“児童の健全な育成を阻害しない範囲での性行為など存在しない”という認識です。
宗教保守の主張との区別も曖昧と言う他ありません。

ところで、18歳未満の青少年の性行為等のうち何が「淫行」にあたるのか、という点については法律上の明言がありません。
しかし、その判断基準は最高裁判例(昭和57年(あ)第621号)で示されています。
「「淫行」とは、広く青少年に対する性行為一般をいうものと解すべきではなく、青少年を誘惑し、威迫し、欺罔し又は困惑させる等その心身の未成熟に乗じた不当な手段により行う性交又は性交類似行為のほか、青少年を単に自己の性的欲望を満足させるための対象として扱つているとしか認められないような性交又は性交類似行為をいうものと解するのが相当」というのが、最高裁の判断です。

「広く青少年に対する性行為一般を指すもの」と解釈すべきではないし、「単に反倫理的あるいは不純な性行為と解するのでは、犯罪の構成要件として不明確であるとの批判を免れない」という判断から、前述の要件以外の性行為等は「淫行」から除外されています。

「淫行」の要件としては以下の二つのいずれかと言うことになります。
・青少年を誘惑し、威迫し、欺罔し又は困惑させる等その心身の未成熟に乗じた不当な手段により行う性交又は性交類似行為
・青少年を単に自己の性的欲望を満足させるための対象として扱つているとしか認められないような性交又は性交類似行為

つまり、13歳以上18歳未満の未成年者に対する監護者以外による性行為等は、暴行脅迫や抗拒不能が立証できなかったとしても、上記要件を満たすことを立証すれば刑罰をもって裁くことが現行法下で可能なわけです。
ちなみにこの最高裁判例の事件ですが、被告と被害者の間には相当期間の付き合いがあったものの「当時における両者のそれぞれの年齢、性交渉に至る経緯、その他両者間の付合いの態様等の諸事情に照らすと、本件は、被告人において当該少女を単に自己の性的欲望を満足させるための対象として扱つているとしか認められないような性行為をした場合に該当するものというほかない」と判断が下され有罪となっています。

私自身、現行の性犯罪法制が完璧なものだとは思っていません。ですが、刑法以外にも様々な特別法や条例などで規制の網が張られてきた経緯があるわけで、それらの特性や限界を十分に検討した上で、網の目が広い部分について補修・補完していくという努力こそが重要だと思いますね。淫行条例が全ての都道府県で成立したのはごく最近のことで、それまで地道な努力をずっと行ってきたわけですから、それらの法令を生かして補修し、適切に運用するための努力が必要でしょう。

何でもかんでも“抜本的に見直”せばいいというものではないと思いますね。

まして、特別法も条例もまるで存在していないかのような何十年も前の法認識でもって性犯罪が野放しにされているかのように宣伝するのは悪質と言う他ありません。



昭和57(あ)621  福岡県青少年保護育成条例違反
昭和60年10月23日  最高裁判所大法廷  判決  棄却  福岡高等裁判所

判決

(略)本条例一〇条一項、一六条一項の規定(以下、両者を併せて「本件各規定」という。)の趣旨は、一般に青少年が、その心身の未成熟や発育程度の不均衡から、精神的に未だ十分に安定していないため、性行為等によつて精神的な痛手を受け易く、また、その痛手からの回復が困難となりがちである等の事情にかんがみ、青少年の健全な育成を図るため、青少年を対象としてなされる性行為等のうち、その育成を阻害するおそれのあるものとして社会通念上非難を受けるべき性質のものを禁止することとしたものであることが明らかであつて、右のような本件各規定の趣旨及びその文理等に徴すると、本条例一〇条一項の規定にいう「淫行」とは、広く青少年に対する性行為一般をいうものと解すべきではなく、青少年を誘惑し、威迫し、欺罔し又は困惑させる等その心身の未成熟に乗じた不当な手段により行う性交又は性交類似行為のほか、青少年を単に自己の性的欲望を満足させるための対象として扱つているとしか認められないような性交又は性交類似行為をいうものと解するのが相当である。けだし、右の「淫行」を広く青少年に対する性行為一般を指すものと解するときは、「淫らな」性行為を指す「淫行」の用語自体の意義に添わないばかりでなく、例えば婚約中の青少年又はこれに準ずる真摯な交際関係にある青少年との間で行われる性行為等、社会通念上およそ処罰の対象として考え難いものをも含むこととなつて、その解釈は広きに失することが明らかであり、また、前記「淫行」を目して単に反倫理的あるいは不純な性行為と解するのでは、犯罪の構成要件として不明確であるとの批判を免れないのであつて、前記の規定の文理から合理的に導き出され得る解釈の範囲内で、前叙のように限定して解するのを相当とする。このような解訳は通常の判断能力を有する一般人の理解にも適うものであり、「淫行」の意義を右のように解釈するときは、同規定につき処罰の範囲が不当に広過ぎるとも不明確であるともいえないから、本件各規定が憲法三一条の規定に違反するものとはいえず、憲法一一条、一三条、一九条、二一条違反をいう所論も前提を欠くに帰し、すべて採用することができない。
 なお、本件につき原判決認定の事実関係に基づいて検討するのに、被告人と少女との間には本件行為までに相当期間にわたつて一応付合いと見られるような関係があつたようであるが、当時における両者のそれぞれの年齢、性交渉に至る経緯、その他両者間の付合いの態様等の諸事情に照らすと、本件は、被告人において当該少女を単に自己の性的欲望を満足させるための対象として扱つているとしか認められないような性行為をした場合に該当するものというほかないから、本件行為が本条例一〇条一項にいう「淫行」に当たるとした原判断は正当である。

http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/269/050269_hanrei.pdf

離婚後単独親権者が死亡した場合、子どもの監護を誰に委ねるのか定めた法律の日韓の違い

この件に関連して。
「面会交流」立法不作為訴訟 原告の請求棄却 東京地裁(毎日新聞2019年11月22日 19時42分(最終更新 11月22日 19時42分))

基本的事項

日本は離婚後単独親権制度を採っており、父母が離婚したら子どもの親権者はどちらか一方に定めなければなりません。
韓国は離婚後共同親権を認めていますが、実際に離婚後共同親権となるケースは少なく、多くは一方のみが親権者となっています。

日本の場合

離婚後単独親権者となった者が死亡したとき、離婚で親権を喪失したもう一方の親が生存していたとしても、自動的にその生存している方の親が親権者になるわけではありません。
法律上は、親権者が存在しなくなったものと扱われ、民法第838条に基づき、未成年者後見人による後見が開始されます。
未成年者後見人の指定は親権者のみができる(民839)ので、親権を失った方の親には関与できません。単独親権者が未成年者後見人を定めないまま死亡した場合は、家庭裁判所が選任します(民840)。
生存しているもう一方の親が親権者となりたい場合は、親権者の変更を申し立てる必要があります。しかし(未成年後見人と競合した場合は特に)家裁がどういう判断を下すかによるため、離婚後に子どもとの交流を妨害されていたような場合ではかなり難しいと思われます。

韓国の場合

韓国の場合、かつては離婚後単独親権者となった者が死亡すると、当然に生存するもう一方の親が親権者になると解釈されていました。離婚による親権喪失は「親権そのものを失うわけではなく、その行使が停止されていたからという解釈に基づく」*1ものとされています。
しかし、その場合、生存するもう一方の親が親権者として適格かが確認できないという批判があり、2011年の民法改正により、第909条の2が新設されました。韓国民法909条の2は、単独親権者が死亡した場合、他方の親がその事実を知ってから1ヵ月以内、死亡の日から6ヶ月以内に、他方の親を親権者とすることを家庭法院に請求できるという規定です。
その請求に受けて家庭法院は親権者として適格かをチェックするわけです。請求期限を過ぎて未成年後見人が選任された後であっても、他方の親は親権者指定を請求することができますが、その際には未成年者の福利のために必要であればという条件がつくようです。
(参考:https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/000487640.pdf

日韓の違い

日本の場合、離婚で親権を喪失した方は子どもの関わりから排除されて当たり前のような運用となっており、単独親権者の善意によってのみ子どもの関わりを維持できるにすぎない印象が強いですね。単独親権者の善意が期待できない場合は、非親権親は子どもとの関わりから排除されてしまい、単独親権者が死亡したとしてもその事実を知る保障もありません。実際問題として、単独親権者が再婚して再婚相手を養親とする養子縁組をする場合でも、実親である非親権親の同意は不要でそれどころか知らせる必要もないくらいです。
ちなみに、単独親権者の再婚相手が子どもを養子とした場合、離婚で親権を失った実親が親権者変更をすることは非常に困難とされます*2
面会交流が親の権利として認められていない日本では、いかに子煩悩な親であったとして親権喪失後も実子とかかわり続けられる保障がなく、それは単独親権者が死亡してもそれを知る保障がないことにつながります。死亡の事実を知らなければ、実子が未成年後見人の手に委ねられようが再婚相手の養親が単独親権者となっていようがどうすることも出来ません。

韓国の場合、現在は請求を必要とするものの、生存しているもう一方の親には親権者としての適格性のチェックのみで親権者となることができるようになっています。未成年後見人を選任するにあたっては、生存しているもう一方の親に意見陳述の機会を与えなければならないとも規定されており、所在不明とかでない限り、生存しているもう一方の親は単独親権者の死亡の事実を知ることが保障されています。
また、韓国では面会交流を親の権利であり、子の権利であると民法で明確に規定しており、非親権親であっても単独親権者により容易に排除されることはありません。


日本は離婚後共同親権を認めず、面会交流の権利性も認めず、非親権親は単独親権者に排除されたが最後、単独親権者が死亡した後も排除されっぱなしを容認する法体系になっており、それでありながら、養育費支払いの義務だけは課され続けるという人道的とは到底いえない極めて歪な構造になっているといえますね。



政府がこの言葉を使えと言ったら、“はい、仰せに従います”という日本のメディアの方が異常だとは思わんのかな?

辺真一氏がこんなことを言っていてですね。

 今、日本で「反日」と称されている文在寅大統領もまた、今年4月に上皇陛下への書簡で謝意を表明したが、やはり「日王」ではなく「天皇」と表記していた。これには新天皇即位を機に、日韓関係の改善を模索しようとの思いが込められていたとの見方もある。ところが、韓国のメディアは今なお、不可解なことに「日王」の呼称に執拗にこだわっている。国民が直接選んだ国家元首である大統領が「天皇」と呼称しているのにそれを「日王」と表記するのは実に不可解極まりない。
 かつて金大中政権も、盧武鉉政権も良くも悪くも「第4の権力」と称される言論の改革を断行しようとしたことがあったが、猛烈な抵抗にあい、いずれも失敗に終わっている。
 保守勢力の抵抗の中、現在、検察の改革を推し進めている文在寅政権もまた、言論改革の必要性を強調しているが、上からの強制、押し付けではなく、韓国メディアが自ら改革することが何よりも求められるのではないだろうか。

https://news.yahoo.co.jp/byline/pyonjiniru/20191111-00150433/

実際、韓国政府は公式には「천황(天皇)」表現を使ってます。「일왕(日王)」と聞かれているのに回答では「천황(天皇)」と返しているんですよね。

(質問) 알겠습니다. 외교•안보 분야에서 질의를 드리고 싶었는데 못한 게 한일 관계 문제입니다. 아무래도 과거사 문제는 우리가 어떻게 현재에서 과거를 지울 수도 없는 문제이고 이 과거사 문제가 한일 관계에 족쇄가 된 게 너무 오랜 시간입니다. 실질 협력 문제가 클 텐데 전혀 진도를 나가지 못하고 있는데요. 하나 계기가 생긴 게 일왕(日王)이 바뀐 계기가 있는데 이 때문일까요? 일본에서는 일왕 방한 추진 이야기도 언론에서 나온 것으로 알고 있습니다. 검토해 보신 사안이실까요?

(文大統領の回答)" 아닙니다. 어쨌든 일본 새 천황(天皇)의 즉위를 계기로 한일 관계가 더 발전했으면 좋겠다는 희망을 가지고 있습니다. 저는 한일 관계가 굉장히 중요하다고 생각하고 앞으로 더 미래지향적으로 발전되어 나가야 한다고 생각합니다. 다만 어려움을 겪고 있는 것은 과거사 문제가 한 번씩 양국 관계 발전에 발목을 잡고 있는데 그것은 결코 한국 정부가 만들어내고 있는 문제가 아닙니다. 과거에 엄연히 존재했던 불행했던 과거 때문에 비록 한일기본협정이 체결되기는 했지만, 인권 의식들이 높아지고 또 국제규범이 더 높아지고 하면서 여전히 조금씩 상처들이 불거져 나오는 것인데 이 문제들로 인해서 미래지향적인 협력 관계가 손상되지 않도록 양국 정부가 잘 지혜를 모을 필요가 있는 것이죠. 그런데 일본 정치 지도자들이 자꾸 그 문제를 국내 정치적인 문제로 자꾸 다루기 때문에 과거사 문제가 미래지향적인 발전에 발목을 잡는 일이 거듭되고 있다고 생각합니다. 저는 양국이 함께 지혜를 모아나가기를 바랍니다."

https://www1.president.go.kr/articles/6267

ただ、別に政府が公式にこう表現しているからといってメディアがそれに倣わなければならない理由もありません。
韓国政府が「天皇」表現を使っているからといって、メディアにも「天皇」表現を使うよう圧力がかかるのであれば、そちらの方が異常です。辺真一氏は日本に住んでるから麻痺して、それが異常だということがわからなくなっているようですねぇ。


政府が“輸出規制ではない、輸出管理だ”と言ったら、“ははー、仰るとおり輸出管理でございます”とばかりにその用語しか使わないようなジャーナリストなんて、ジャーナリストの価値無いでしょ。
そういえば、辺真一氏がジャーナリストを自称しているんでしたっけ?



「中国浙江省の歴史研究家の著書」ではなく「イギリスの歴史研究者」ではないのかなぁ。

【外信コラム】戦争スペクタクル映画「ミッドウェー」に中国の影(2019.11.15 11:42)」の件。

産経の黒瀬悦成記者は、ミッドウェイ海戦の映画が「1942年4月の米軍による日本本土初空襲「ドゥーリットル空襲」で、中国本土に不時着した米軍爆撃機搭乗員を中国民衆が救出したことの報復として、日本軍が25万人の中国人を殺害した」ことに言及したのは、「中国の制作会社が資金提供したことから、中国政府の意に沿った内容が盛り込まれ」たからだと決めつけているようです。

Midway (2019 Movie) Teaser Trailer — Ed Skrein, Patrick Wilson, Nick Jonas


で「「25万人殺害説」は、中国浙江省の歴史研究家の著書に基づいているようだ。」と言っています。

調べてみると、「浙江党史和文献網」にこういう記載があります。

侵华日军罪行研究
金延锋
时间:2015-08-31
(抜粋)
据英国学者约翰科斯特罗写的《太平洋战争》一书记载,在浙赣战役时,“几个星期中,约有25万中国农民被屠杀,10万日本兵在乡村烧、杀、奸、掳,野蛮和凶残不亚于南京大屠杀。”日军屠杀平民时,手段极其残忍,除了枪杀、刺杀外,还有活埋、活烧、抛海、“三缚一”(三人捆一起,押到悬崖边,刺倒一个,另外两人也连带跌下悬崖)、“一弹打数人”(把人排成纵队,用一颗子弹从背后打过去,可直穿5人),等等。

http://www.zjds.org.cn/dsyj/zhyj/201508/t20150831_6290.shtml

このサイトが拠っているのは、「英国学者约翰科斯特罗」の「《太平洋战争》」ですが、これはイギリスの歴史研究者ジョン・コステロ(John Edward Costello (1943-1995) )のことで、コステロは1981年に“The Pacific War”という書を著しています。
というわけで、「中国浙江省の歴史研究家の著書」ではなく「イギリスの歴史研究者」ではないのかなと思うんですよね。


ちなみに、浙贛作戦(浙赣战役)がドゥーリットル空襲に起因して発動されたのは有名な話ですし、浙贛作戦で日本軍731部隊等がペスト菌などの生物兵器を使用し中国人住民に多くの感染被害者を出したのも有名な話です。
日本軍の作戦目的であった飛行場の破壊では、捕虜や苦力を使役していますし、破壊にあたって氾濫を起こさせてもいます。

例えば衢州飛行場の破壊では、日本側資料にこう書かれています。

(戦史叢書 第055巻 昭和十七・八年の支那派遣軍 P252-253 ウェブ上では140枚目)
衢州飛行場 衢州飛行場は第百十六師団の実施した破壊作業並びに軍工兵隊の実施した氾濫により、満二ヵ月を費やし八月二十五日覆滅を完成した。
 その破壊程度は徹底的で、広範囲にわたる交通網の破壊並びに地上及び空中からのわが進攻脅威と相俟ち、その復旧は至難なるものと認められた。
 その細部は次のとおりである。
 (略)
 四 作業延人員
 工兵四、七二三名、歩兵等三四、四六一名、苦力一七、〇七二名、俘虜三九、九九三名
 五 氾濫は軍工兵隊が構成し、飛行場から八粁離隔せる烏渓江から河水を導入した。敵が氾濫を完全に排水しようとしても、地雷の敷設、排水施設の破壊及び場外貯水と相俟ち相当の困難を伴うものと思われた。

http://www.nids.mod.go.jp/military_history_search/SoshoView?kanno=055#

4万人の捕虜、1.7万人の苦力を使って、河川を氾濫させ飛行場を水没させたわけですが、当然周辺の村々にも甚大な被害を与えたでしょうね。
また、衢州飛行場破壊作業では延4万人の捕虜を使役したとありますが、第13軍の浙贛作戦中の総合戦果に記載された俘虜の数は8,564人に過ぎません。第11軍の俘虜も2,283人に過ぎず、飛行場破壊に使役した捕虜はどこから集められたのか、いぶかしまざるを得ない点もあります。



千田有紀氏による養育費関連の怪しい情報について

養育費、12月に増額の方向 ひとり親世帯の貧困に対応(11/13(水) 6:00配信 )」というYahoo記事に武蔵大学千田有紀氏がコメントをつけていました。

千田有紀 武蔵大学社会学部教授(社会学

裁判所の算定表は、今年もっと早期に新基準が発表されると聞いていたが、やっと年の瀬に公表されることに一応はホッとしている。
裁判所の養育費の算定表は、物価の上昇にも関わらず改定されず、計算額の算定方式にも問題があると指摘されてきた。
その欠点を埋めるべく日弁連の算定表が別途作られたが、裁判所で採用されたという話は、ほぼ聞かない。裁判所の算定表の改定は必須である。
調停などをすれば、「算定額通りでは払われないでしょうから、あえて低くして支払ってもらったら?」などと調停委員にいわれたという話もよく聞く。しかしそれでも、養育費を受け取っているひとは2割ちょっとである。月に1回以上の面会交流をしている人たちでも、7割弱は養育費を支払わずに面会交流を行っている(不思議なことに少ない面会回数のほうが支払われている)。
裁判所は個別の事情は斟酌しない算定表主義の問題点もある。改定は必須である。

https://news.yahoo.co.jp/profile/author/sendayuki/comments/posts/15736127774248.223e.23671/

怪しい情報1「養育費を受け取っているひとは2割ちょっと」

千田氏はこの発言の根拠を明らかにしていませんが、2008年のNPO法人Winkによる母子家庭の子ども40人に対するアンケートで、養育費ありと答えたのが9人(22.5%)という結果は存在しますので、これかも知れません。
しかし、このアンケートには養育費について「あり」「なし」以外に「滞り」「知らない」という選択肢がありますので、それらが無視されています。
また、同じアンケート調査では子どもにではなく母親に聞いたアンケート調査(標本数:328人)もあり、その結果では養育費を「受け取っている」と答えたのは153人(46.6%)に上ります。
別居親からの養育費を管理するのが同居親であることを考慮すれば、母親の回答の方が子供の回答よりも信頼性が高いと思われますが、千田氏は子どもの回答のみを採用していることになります。

国の調査としては平成28年度全国ひとり親世帯等調査があります。これだと標本数1817世帯に対して養育費を「現在も受けている」と回答したのは442世帯(24.3%)で、あるいは千田氏の発言の根拠はこれかも知れません。
しかし、千田氏の「調停などをすれば、「算定額通りでは払われないでしょうから、あえて低くして支払ってもらったら?」などと調停委員にいわれたという話もよく聞く。しかしそれでも、養育費を受け取っているひとは2割ちょっとである。」という文脈を見ると、調停などを行っても「養育費を受け取っているひとは2割ちょっと」とも読めます。
平成28年度全国ひとり親世帯等調査は養育費の取り決めをしている世帯に限定した統計結果も示しており、そこでは標本780世帯中416世帯(53.3%)で養育費を「現在も受けている」となっていて、千田氏の文脈とは違った結果となっています。

また、平成28年度全国ひとり親世帯等調査も養育費の受給状況について「現在も受けている」「過去に受けたことがある」「受けたことがない」「不詳」というカテゴリに分かれていて、それを考慮しなければ不適切でしょう。
ちなみに「現在も受けている」「過去に受けたことがある」をまとめると、調査対象1817世帯中723世帯(39.8%)、養育費の取り決めをしている世帯780世帯中597世帯(79.0%)となっています。
要するに養育費の取り決めをしている場合は、結構高い割合で養育費が受給できているわけです。

怪しい情報2「月に1回以上の面会交流をしている人たちでも、7割弱は養育費を支払わずに面会交流を行っている」

この発言の根拠も不明です。
平成28年度全国ひとり親世帯等調査では、面会交流状況別の養育費支払い状況の統計が示されていません。
2008年のNPO法人Winkによる子どもに対するアンケート調査では、面会交流ありの16人中養育費ありが5人(31.3%)とあり、これが根拠とも思えますが、やはり子どもにではなく母親に聞いたアンケート調査では、面会交流を定期的におこなっている40人中養育費を受け取っているのは32人(80.0%)にも上っています。

Winkの母親に対するアンケート調査結果と上記の千田発言には大きな乖離があります。

また、平成28年度全国ひとり親世帯等調査には「表18-(2)-9 母子世帯の母の面会交流の取り決めをしていない理由(最も大きな理由)」という調査結果もあり、1278世帯中81世帯(6.3%)で「相手が養育費を支払わない又は支払えない」という理由が挙げられていますし、「表18-(3)-11-1 母子世帯の母の現在面会交流を実施していない理由(最も大きな理由)」でも1189世帯中72世帯(6.1%)で「相手が養育費を支払わない」という理由が挙げられています。

本来、養育費と面会交流は別個の問題であり家庭裁判所が“養育費を払わないからという理由で面会交流を認めない”などという判断を下すことはありませんが、実態としては、そのような理由で面会交流を拒む同居親がいるわけで、そのような同居親の存在を考慮すると、面会交流の有無に関わりなく養育費を支払わない別居親が「7割弱」~8割近くいるというのは考えにくいところです。

千田氏は離婚後面会交流や共同親権について極めて否定的な思想を持っているようですので、養育費受給率と面会交流実施率が強い相関を持つ事実を認めたくないように思われますね。

平成28年度全国ひとり親世帯等調査に基づくと

「養育費を受け取っているひとは2割ちょっと」というのは巷間に流布された言説ですが、上でも示したように養育費の取り決めをしている場合は、5割以上で養育費を「現在も受けて」おり、「過去に受けたことがある」も含めると8割近くに達します。
これに対して、養育費の取り決めをしていない場合は、養育費を「過去に受けたことがある」も含めても1割程度に過ぎず、「現在も受けている」世帯に至ってはわずか2.5%に過ぎません。算定表の見直しも重要ですが、取り決め率の向上を図る方がより重要でしょうね。

ところで養育費の取り決め率は母親の最終学歴と強く相関しており、最終学歴が中学校の場合は21.9%、高校の場合で37.8%と低く、短大(54.4%)や大学・大学院(63.8%)は高くなっています。その結果、養育費の受給率も母親の最終学歴と強く相関し、最終学歴中学校(10.7%)、高校(21.4%)に対して、短大(30.0%)、大学・大学院(40.6%)となっています。

母子家庭の貧困問題を考える場合、低学歴の世帯でより深刻だと推定できますが、その場合は元配偶者も同等の学歴である可能性が高く、結果として算定表通りの養育費が支払われても貧困が解消しない可能性もあります。

また、養育費受給率と面会交流実施率の関係については、平成28年度全国ひとり親世帯等調査で公表されている統計表には明記ありませんが、2008年のNPO法人Winkによる母子家庭お母親に対するアンケート調査を踏まえれば、面会交流を実施している世帯で養育費受給率が圧倒的に高い傾向が見られます。

さらに、平成28年度全国ひとり親世帯等調査結果を踏まえても次のように養育費受給率と面会交流実施率の相関を推定できます。

・調査1817世帯のうち、協議離婚1319世帯、その他の離婚(調停離婚、審判離婚、裁判離婚)318世帯、未婚180世帯。
・養育費の取り決め率*1は、
 協議離婚1319世帯中499世帯(37.8%)、そのうち現在も受給しているのは274世帯(20.8%)
 その他の離婚318世帯中253世帯(79.6%)、そのうち現在も受給しているのは129世帯(40.6%)
 未婚180世帯中24世帯(13.3%)、そのうち現在も受給しているのは13世帯(7.2%)
*2
・面会交流の取り決め率*3は、
 協議離婚1319世帯中270世帯(20.5%)、そのうち現在も面会交流を行っているのは173世帯(13.1%)
 その他の離婚318世帯中157世帯(49.4%)、そのうち現在も面会交流を行っているのは57世帯(17.9%)
 未婚180世帯中10世帯(5.6%)、そのうち現在も面会交流を行っているのは2世帯(1.1%)

取り決め率の高いその他の離婚(調停離婚、審判離婚、裁判離婚)で取り決めありかつ養育費受給率(40.6%)も取り決めありかつ面会交流実施率(17.9%)も共に高く、逆に取り決め率の低い協議離婚において取り決めありかつ養育費受給率(20.8%)も取り決めありかつ面会交流実施率(13.1%)も共に低くなっています。
このことから、取り決めに基づく養育費受給と面会交流実施の間に相関関係があることが示唆されます。

なお、面会交流の特徴として取り決めなしでも実施する世帯が多いという点があります。この傾向は母親の最終学歴が低いほど顕著に現れます。
例えば、最終学歴が中学校の世帯215世帯中、面会交流取り決めありは25世帯に過ぎませんが、面会交流を現在も行っているのは49世帯となっていますし、高校の場合も取り決め162世帯に対して実施は227世帯となっています。これに対して最終学歴が大学・大学院の場合、160世帯中取り決めありは62世帯で、実施は60世帯になっています。

まとめるとこんな感じになります。
・低学歴(低収入)世帯では、養育費も面会交流も取り決め率が低い傾向があるが、面会交流は取り決めに関わらず実施される傾向が強く、養育費の受給率は低い
・高学歴(高収入)世帯では、養育費も面会交流も取り決め率が高い傾向があり、面会交流は取り決め以上には実施されないが、養育費の受給率は高い

これらを考慮すると以下のように推測できます。
・全体の養育費の受給率を下げているのは低学歴(低収入)世帯であるが、この世帯は収入が低いために養育費を負担できないことに起因している可能性がある。この世帯での、費用のかかる判決、調停、審判などの裁判所における取り決め、強制執行認諾条項付の公正証書による取り決めの割合が低いのも、その傍証といえる。
・逆に高学歴(高収入)世帯では、費用のかかる取り決めを選択する割合が高く、それに伴い、養育費受給率と面会交流実施率がよく相関している可能性が高い。

この推測に基づくと、今回の算定表の改訂によってメリットがあるのは、主に高学歴(高収入)世帯の同居親であり、全体の養育費受給率を押し下げている主因である低学歴(低収入)世帯ではメリットが少ないと言えそうですね。



*1:表17-(2)-7 母子世帯の母の養育費の取り決めの有無(離婚(離婚の方法)・未婚別)

*2:表17-(3)-7 母子世帯の母の養育費の受給状況(離婚(離婚の方法)、未婚別)の「うち、養育費の取り決めをしている世帯」と表17-(2)-7 母子世帯の母の養育費の取り決めの有無(離婚(離婚の方法)・未婚別)の「取り決めをしている」の世帯数にずれがある。

*3:表18-(2)-7 母子世帯の母の面会交流の取り決めの有無(離婚(離婚の方法)・未婚別)

韓国の共同親権・共同養育権に関する韓国の弁護士による記事

そのうち、まとめたいのだが時間が無いので、とりあえず忘れないように良さそうな記事をリンク(リンク先は全部韓国語)。
親権と養育権の指定の形の多様性模索(1)
親権と養育権の指定の形の多様性模索(2)
養育費とその履行確保の重要性
面会交流事件における弁護士の役割
上記は全部同じ弁護士によるコラム。
「面会交流事件における弁護士の役割」とかはすごくいいこと書いてある。


離婚訴訟で共同親権・共同養育がほとんど認められない理由
これは裁判離婚にまで紛争がもめると共同親権・共同養育権を裁判所が認めることはまずないという指摘で、裁判所がどのような判断基準を持っているかについて書かれている。

친권 일부 제한, 조정의 대상이 될 수 있는지
これは親権が制限される場合について。

弁護士以外の記事

법정이혼에서의 공동양육권(공동친권) 인정에 관하여 /윤석찬 교수/법률신문 : 네이버 블로그
共同親権に関するドイツの判例研究。

솔로몬의 재판 > 내 아들을 데려가는데,납치라니요? | 찾기쉬운 생활법령정보
親権者による連れ去りであっても略取誘拐にあたる大法院判例に関して簡単に説明。
ただし、日本の離婚前の一方の親権者による連れ去りではなく、祖母に預けていた子供を母親が無理やり連れ去った事例で、子供自身も拒絶していたという事例のようです。

“애 키우려면 도망밖에” “데려오려면 납치밖에” 비극의 가정사
これは韓国で結婚した外国人女性が子供を連れて海外に帰国する件についての記事。ハーグ条約案件ですが、単純に連れ去り母を非難するような記事ではなく、そう至る事情についても掘り下げて述べています。

共同親権はなぜいいのか?
これは“YOU ARE MOM”というサイト名から母親向けと思われますが、共同親権を絶賛していますね。
単なる共同親権賛美ではなく、ちゃんと共同親権のメリットとデメリットを考慮してもいます。



日本外務省が外交青書でフェイク情報を発信している件

この件。
日本、外交青書で「韓国政府が『性奴隷という表現使わない』と確認」主張(登録:2019-11-12 01:46 修正:2019-11-12 07:39 )

実際、2019年の外交青書にはこう書かれています。

●「性奴隷」
 「性奴隷」という表現は、事実に反するので使用すべきでない。この点は、2015年12月の日韓合意の際に韓国側とも確認しており、同合意においても一切使われていない。

https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/bluebook/2019/html/chapter2_01_01.html#kakomi028

正確に言うなら、「「性奴隷」という表現は、事実に反するので使用すべきでない」というのは単なる日本政府の主張にすぎず、韓国政府にも使わないよう要求したものの韓国政府はそのような要求には応じず、「慰安婦問題の韓国政府の公式名称は『日本軍慰安婦被害者問題』だけであるということ」を説明しただけです。2015年合意に使われていないのもそれだけの理由で、韓国政府が「「性奴隷」という表現は、事実に反する」と認めたわけでも何でもありません。

実際、以前も言及しましたが、韓国には元日本軍慰安婦を支援するための「日帝下日本軍慰安婦被害者に対する生活安定支援及び記念事業に関する法律」というものがあります。

この法律の韓国語表記は「「일제하 일본군위안부(日本軍慰安婦) 피해자에 대한 생활안정지원 및 기념사업 등에 관한 법률」」で、韓国政府の公式名称が「日本軍慰安婦(일본군위안부)」であることを反映しています。
しかし、面白いのはこの法律の英語表記で、「ACT ON LIVELIHOOD STABILITY AND MEMORIAL SERVICES, ETC. FOR SEXUAL SLAVERY VICTIMS FOR THE JAPANESE IMPERIAL ARMY」となっているんですよね。
つまり韓国政府が公式に用いている表現は「일본군위안부(日本軍慰安婦)」と「SEXUAL SLAVERY VICTIMS」であるということです。

日本政府は当然そのことも知っているはずですが、外交青書にそのように書かなかったということは、日本政府が“慰安婦は「性奴隷」ではないが「SEXUAL SLAVERY VICTIMS」ではある”と認めたということになりましょうかねぇ。

全く、外交青書で日本国内にしか通用しないようなデマ情報を流すとは・・・。