この事件の被告の近親に関して重視すべきは養育費ではないと思う。

「大阪二児置き去り死事件で考える「子育てに失敗した女」への罰 - messy|メッシー」のブクマを見てて、少し思ったことです。

被告が周囲のサポートを得られなかったという点を知って、当初の報道に見られた非道な母親像を払拭するのは良いことだと思います。一方で、だからと言ってサポートしなかった周囲に非難の矛先を向けるのもまた違うと思うんですよね。
特に養育費に関して元夫が払ってなかったことを責めるかのような意見が散見されるんですが、それについていくつかの点は指摘しておきたいと思います。

まず、元夫が相場通りの養育費を払っていたとしてもこの事件を防げたとは考えにくい点です。ルポを読む限り被告に多少の養育費が払われていても生活の維持が困難だったことは容易に想像できます*1
そして元夫も当時まだ若い20代の会社員でしたし、離婚の原因には被告の浮気と借金があったため、養育費が子供のために使われると期待できなかった点もあります。元夫は子供の学資のために100万円程度の貯金をしていたようですから、単純に金が惜しくて放置したと言えない面があります。
何より、被告が精神的に子供であったように、元夫もまた年若い青年に過ぎませんでした。気がついたら妻に浮気され借金されていた、それ自体人生経験の浅い元夫には相当な精神的負担だったと思います。私としては、被告を責める気になれないのと同じようにそういう状態の元夫も責める気になれません*2

では、周囲の大人、特に記事で言及されていた元夫の母はどうか、というと、これも難しいと思います。記事では元夫の母がなぜほとんど子供(孫)を訪ねなかったのか、とありますが、その年代の人たちは離婚後親権のない親は子供と距離を置くべきという価値観が強いはずです。なぜ元夫が子供を引き取らなかったかと言えば、小さい子供は母親が育てるべき、という母性神話は未だに根強いためというのもあるでしょう。

要するにこの事件は、責められるべき誰かがいる事件ではなく、制度の不備や社会の価値観の陥穽が生み出したものだと考えます。

そういう意味で、判決に対して「「子育てに失敗した女」への罰」と言う表現には全く同意です。
ただ、シングルマザーの苦境の責任を周囲の者に安易に転嫁するのもまた危険なことです。被告には被告の事情があったように、周囲にも周囲の事情があります。

じゃ、どうすりゃ良かったんだ?

って声はあると思います。

指摘している人がいないのですが、月1回でも元夫が面会交流していれば、事件は避けられたんじゃないでしょうか?
今回の事件に関して言えば、養育費よりも確実に事件を回避できたはずです。

もちろん、“元夫は面会に行かなかったじゃないか”という指摘はありえますね。
でも誰も面会について指摘してないように、そもそもそういう風潮が希薄すぎるんではないですか?
ルポを読むと、元夫は子供に会いたかったけど、被告には彼氏がいるだろうと思い遠慮していることがわかります。結果を知っていれば非難できるでしょうが、事件が起こる以前の段階での元夫のこういう配慮は私には理解できなくもありません。再婚して新しい父親が出来たら、元夫はその家庭を邪魔すべきではないという風潮はやはり今でも強いと思います。仮に再婚しようが、父子は父子であって交流すべきという社会であれば、おそらく今回の事件は避けられたと思います。

今後、こういう事件を起こさないために一番簡単なことは、離婚後も親子の交流を続けるのが当然という社会になることです。

具体的に何かするなら、子供のいる夫婦の離婚は養育費と面会交流を含めた離婚後の育児計画がちゃんとできてない限り家庭裁判所が認めないという制度にすればいいのです。そうすれば、養育費と子供との面会交流は親の義務*3という認識ができていくでしょう。

コスト的な側面

児童相談所とかの人手不足を考えれば、離婚家庭内での虐待に対する行政の介入は難しいと言えるでしょう。それなら、離婚後の別居親に子供の状態を確認する義務を負わせた方が行政コストの節約になるでしょうし、離婚家庭内での虐待を防止する上で極めて効果的でしょう。別居親は子供が虐待されているように感じたら法に基づいて通報の義務が生じますし、正当な理由無く面会の義務を放棄していたなら、その時こそ非難に値する親として責められるべきです。義務を負わされる別居親が嫌がったとしても、それこそ親としてそのくらいの義務は果たせと言って構わないでしょう。その方がただ金(養育費)だけ払えと言うよりはよほど道義にかなっていると思いますけどね。

*1:詳しくはルポを読めばわかると思いますが、離婚後の生活の見通しがちゃんとあったわけではないので、その辺の実態を離婚当時に周囲がちゃんと把握し対策を採らない限り、一般的な養育費程度でどうこうできるレベルじゃなかったでしょう。

*2:子供がインフルエンザの時に被告が元夫に助けを求めて断られていますが、これも子育て経験がある人なら助けてやるべきと思うでしょうが、子育て経験の乏しい元夫にそこまで求めるのも酷だと思います。被告が周囲に助けを求めることを学べなかったことに同情できるなら、育児について学べなかった元夫にも同情できるはずです。

*3:別居親には養育費を払う義務と子供と面会する義務、同居親には養育費を適切に使う義務と子供を別居親に面会させる義務