抗日戦争映画関連

日中戦争を中国では抗日戦争と言います。抗日戦争を描いた映画は、抗日戦争映画であって抗日映画という略称はちょっといただけません。日中戦争映画を日中映画、太平洋戦争映画を太平洋映画と略すようなものです。

(戦後70年)抗日映画に浮かぶ断層 戦争の記憶めぐり

 早稲田大学非常勤講師の劉文兵(47)は山東省出身。無声映画から現代のドラマまで何百本もの抗日作品を収集し、制作意図や時代背景を分析してきた。
 八十数年前、初期の作品で日本は圧倒的脅威として描かれた。旧満州や上海を攻撃された衝撃が映る。盧溝橋事件をへて全面戦争に突入すると、残虐さを強調する作りが主流になった。
 毛沢東共産党政権を樹立すると、映画産業は国有化された。中国人扮する日本兵は冷酷か臆病かどちらかに揺れた。
 1978年に平和友好条約が結ばれると、心優しい日本人女性や中国残留日本人孤児が主役として登場した。改革開放の時代には、日本への憧れが強まる。故・高倉健を思わせる寡黙な日本人を中国人が演じた。
 時代とともに日本人像は変遷したが、抗日ものは飽くことなく作られた。
 「中国の一般視聴者にとっては、時代劇の定番ジャンル。日本で言えば忠臣蔵水戸黄門で悪役が不変なのと同じ。抗日ものに登場する日本人は悪としか描きようがないのです」。日本在住20年、日中の戦争映画を見比べてきた劉は言う。
 中国に暮らした日本人がきまってうんざりするのは抗日ドラマの多さである。朝から晩まで延々と続く。
 逆に、日本の戦争映画に中国の視聴者が例外なく感じる違和感もある。日本軍の侵略行為がほとんど描かれていないことだ。
 「あゝ海軍」などの作品は中国でも知名度が高い。訪日時に「永遠の0」など近作を見る人も多い。軍人の潔さ、家族愛という主題には中国人も共感するのだが、大陸での日本軍の描写があまりに乏しいことが胸に引っかかる。
 「なぜ大陸ものを撮らないのですか」。劉は数年前、日本で高名な監督たちに尋ねて回った。「暴力や収奪を詳しく描けば客は入らない」「映画は芸術とビジネスの両面。大陸ものはビジネスにならない」。そんな返答が多かった。
 劉は、10歳で高倉健に魅了されて以来、変わらぬ邦画ファンだと言う。「図式化した抗日ものに安住している中国も内向きだが、日本の映画人も内向き化したように見えてしまう」

http://www.asahi.com/articles/ASH135WW7H13UCLV007.html

まあ、足掛け15年にわたって中国を侵略した日本軍との戦争である抗日戦争が「時代劇の定番ジャンル」として作られるのはある種当然ではあるでしょうね。日本人にとっては空襲物や連合艦隊物が戦争映画として定番で作られるようなものです。
今の朝日新聞では書けないでしょうけど、日本で「大陸もの」が撮られないのは、政治的・イデオロギー的な妨害があるからでしょうし、純粋に戦争物として作るにも、戦争中の中国軍に対する根深い蔑視観もあるでしょうね。

■取材後記
 取材のため「抗日作品」二十数本を集中的に見た。
 駄作は迷わず早送りした。いくつかの名作に出会えた。戦後すぐの「春の河、東へ流る」には国を超えた芸術性を感じる。近年の「鬼が来た!」や「南京!南京!」には、善悪だけでは割り切れない戦場の現実が描かれている。
 今年か来年あたり、どこかで抗日作品を集中上映する映画祭を開くのは無理だろうか。名作も駄作もまとめて鑑賞すれば、巨大な隣人の懐の深さと厄介さが理解しやすくなると思うのだが、やはり時期尚早でしょうか。

http://www.asahi.com/articles/ASH135WW7H13UCLV007.html

「南京!南京!」については3年前に観てレビューを書いてます。まあ、フューリー*1と同程度かそれ以上の「戦場の現実」は描かれていると思います。

ところで個人的には2010年公開の「喋血孤城(2010年公開)」(Death and Glory in Changde)も結構面白いと思いました。
戦史的・軍事的な点での描写には不満もありますが一方の当事国である日本が日中戦争物の映画を避けていますので、娯楽映画として日中戦争物を観ようとすると中国映画しかないんですよね。
中国人俳優扮する日本軍将兵の日本語がやはりいまいちだったりして、日中合作でガチの日中戦争物を作ってほしいところです。
この映画「喋血孤城」では、攻略にてこずった日本軍が毒ガスを使用するシーンがあり、これが反中ネット民に受けが悪いんですが、常徳殲滅作戦で日本軍が毒ガスを使ったというのは有名な話なので、何だかなぁという感じ。

明らかに記録が残っている日本軍が毒ガスを使った地域にも“爛脚”といってくる人がいる。私が去年調査に行ったときに、自分がそのとき“爛脚”になったと言ってきた人がいる。湖南省の常徳にも日本軍がすごく毒ガスを使っている。

http://war-medicine-ethics.com/Seniken/Journal/J6-1.pdf

 一九四三年の湖南省・常徳戦でも航空毒ガス戦がおこなわれた。一一月一八日慈利では軍機から四次にわたって中国軍第五八師に対し毒ガス弾の投下がなされ、一一月二七日には、常徳で一二機による空爆と毒ガスの雨下がおこなわれた(「三二年度敵軍用毒情況」「三二年冬常徳会戦倭寇使用毒気調査」『細・毒』七三三頁、『侵・毒』三四二、三四三頁、『紀・化学』二〇五頁)。

http://www16.ocn.ne.jp/~pacohama/warsitehama/dokugasu.html

日本軍が捕虜にした中国軍を射殺するシーンもありますが、プライベート・ライアン以降、取り立てて珍しいわけでもありませんしね。

*1:この前、観たのでそのうちレビューを書いてみたい。