この件です。
https://www.asahi.com/articles/ASN285SFQN1LPLZB00Q.html子の連れ去り規制、「国は未整備」 当事者ら集団提訴へ
大貫聡子 2020年2月8日 20時00分
国は子の連れ去りを規制する法を整備せず、立法義務を怠っている――。配偶者らに子を連れ去られたと訴える男女14人が近く、国に国家賠償を求める集団訴訟を東京地裁に起こす。国境を越えた連れ去りについて定めたハーグ条約に加盟しているのに、国内の連れ去りを「放置」しているのは違憲・違法だとし、国の責任を問うという。
ハーグ条約の定めでは、片方の親が一方的に16歳未満の子を国外に連れ去った場合、残された親の求めに応じ、原則として元の居住国へ引き渡す。ただ、国内の連れ去りについては条約の対象ではない。
原告は配偶者との間に未成年の子がいる日本籍や外国籍の14人。配偶者に子を連れ去られ、親権や監護権が侵害されていると主張。国内での一方的な連れ去りを禁止する法規定がなく、「子を産み育てる幸福追求権を保障した憲法13条に違反し、連れ去られた子の人権も侵害している」として、原告1人あたり11万円の支払いを求める。
これ本来なら、ハーグ条約締結時に整備しておくべき法制度だったんですけどね。
残念ながら、一部のフェミニストら*1とそれに連動した弁護士ら*2の反対運動で日本国内では整備されてきませんでした。2012年に日弁連の態度を批判する記事を書きました。
ハーグ条約締結にあたって、日弁連が出した意見書(2011年2月18日)にこう書かれています。
(4)ハーグ条約に遡及的適用がない旨の確認規定を担保法上定めることや、国内における子の連れ去り等や面会交流事件には適用されないことを担保法上明確化し、かつ周知すること、
http://www.nichibenren.or.jp/activity/document/opinion/year/2011/110218.html
それに対する私の意見がこれ。
離婚した当事者による子どもの連れ去りは何も国際離婚に限らず、日本国内の離婚でも頻繁に生じています。もちろん日弁連もそれを知っています。しかし、日弁連は国際離婚における子の連れ去りに対して返還してもいいけど、国内離婚における子の連れ去りについては返還しなくてもいいように法整備せよ、と言っているわけです。
http://scopedog.hatenablog.com/entry/20120405/1333645932
一般的な事例で言うなら、日本人母が連れ去ってきた子どもを外国人父に返すのはいいけど、日本人母が連れ去った子どもを日本人父に返すのは認めない、ということになります。
この日弁連の意見書が功を奏したからかどうかはわかりませんが、ともかく日本国内における連れ去りについては法整備されることはなく現在に至っています。そのため、今回の訴訟が起こされたという形ですね。
ハーグ条約は、子の連れ去りがDVからの避難のためなど正当な理由がある場合には返還しなくても良いと定めています(条約13条b)。それでも実際に日本から外国へ返還される事例があるわけです(2017年12月までに日本に連れ去られてきた子どもの返還請求が83件あり、そのうち34件について返還するという結論が出ています*3)。
つまり、一方の親が他方の親の同意を得ずに海外から日本に子を連れ去ってくる事件では、日本政府はDV等の返還できない・すべきでない事情が無ければ返還のための支援をしているわけです。
ところが、日本国内で一方の親が他方の親の同意を得ずに子を連れ去った場合については、日本政府から何の支援も得られない、というのが現状です。
ブコメの反応
はなてブックマークの反応がどうもですねぇ・・・。
「リベラルのための離婚後共同親権に関する説明」の続き的に少し書いておきます。
「日本会議とかウヨ連中がロビイングしてるやつ」「DV夫とかの団体みたいなもの」「DVから逃げた母子を誘拐ダーと騒いで追い詰めるおぞましいやつ」
この訴訟は、夫婦別姓訴訟なども手掛けている作花知志弁護士が参加しているものですよ?
私が弁護士の1人として担当をさせていただく「子の連れ去り違憲訴訟」を,2月8日付朝日新聞デジタルで紹介していただきました。「子の連れ去り違憲訴訟」とは,配偶者に無断で子を連れ去られる被害に遭った方14名が原告となり,日本が子の連れ去りを禁止したハーグ条約の批准国であることなどから,国会(国会議員)は子の連れ去りを防ぐ法律を制定する立法義務があるにも拘わらず,それを怠ったことを違憲・違法であることを主張した,憲法裁判です。
https://ameblo.jp/spacelaw/entry-12574523492.html
ツイートもいくつか。
ハーグ条約上「不法な連れ去り」は,日本国内法における不法な連れ去りを意味するのですから,日本は条約を批准する際に,日本の国内法において連れ去りを不法(違法)なものとする法改正を行うべきでした。それを行わないまま条約を批准したのに,日本から外国への子の連れ去り請求がされていることで
— 作花知志 (@sakkacom) 2020年2月9日
ハーグ条約第3条により日本から外国への子の引き渡し請求をするためには日本の国内法で子の連れ去りは他方配偶者の監護権を侵害するもので許されない,不法であるとされていることが必要です。でも日本では子の連れ去りは何等違法(不法)とはされていないのです。国会には立法義務があると思います。
— 作花知志 (@sakkacom) 2020年2月9日
逆に「日本の国内法において連れ去りが不法とはされていない場合」には,日本から外国への引き渡し請求ができないことになります。現在日本から外国への請求がされているわけですから,日本にも連れ去りを不法とするべき立法義務があることになると思います。よろしくお願いいたします。
— 作花知志 (@sakkacom) 2020年2月9日
ハーグ条約と同じく、DV等の正当な理由もないのに子どもを連れ去る行為を違法なものとする立法をすべきだという主張ですね。
“子の連れ去りは全てDV被害から逃れるためでただ一つの例外もない”というのなら、「DVから逃げた母子を誘拐ダーと騒いで追い詰めるおぞましいやつ」とかいう評価もできるでしょうが、そんなわけないというのが、ハーグ条約事件での返還事例が存在することから明らかです。
「冊子の挿絵がヘイト絵師のはすみ」だから信用できない
はすみとしこ氏は、ウイグルやチベットに関する中国非難にも関与しています*4けど、ウイグル・チベット政策について、はすみとしこ氏が間違いで中国政府が正しいとか思いますか?
もし中国政府を非難するのであれば、それはヘイト絵師と共闘することを意味しますか?
しませんよね?
それとこれとは話が違う。はすみ氏が関与しているかどうかではなく、その問題がどうなのかで判断すべきでしょ?違います?
「DVで逃げた(逃れた)子をDVしてた側の都合で連れ戻したいケースが多々ある」
そういうケースも「多々」かどうかはともかくあるでしょうね。
ですが、ハーグ条約がDV等の場合は返還の必要が無いと決めている以上、それに整合する国内法を整備してもDV加害者に子どもを返すような運用にはならないと考えるのが普通ではないですかね。
あと、日本の場合、離婚後単独親権を定めた民法819条は、ただ一方を親権者とすると定めているだけで、DV加害者の親権を取り上げるような規定ではありません。ですから、DV加害者が、被害者を追い出して子どもを抱え込んで親権を得る事例だってあります。
今の日本の制度では、DV加害者が子どもを連れて逃げた場合に連れ戻す手段がありませんよ。
子どもが「会いたいならある程度大きくなっていれば家出しても会いに来てくれるはず」
それ、別居親との交流を維持する責任を子どもに押し付けてるだけですよね?
まして、新生児や乳児の頃、場合によっては出産前に引き離され、別居親に対して親だという認識すら与えられずに育てられている場合にそんなこと期待できるはずもありません。
さらにこういう話もあります。
「子どもが父親嫌いになった…我が子に夫の愚痴を言い続けた家族の悲劇(2020.02.11 00:00大中 千景)」
別に離婚していなくても、母親が父親に対する愚痴を子どもに聞かせ続けたら子どもが父親を嫌うようになることがあるわけです。
別居・離婚後に同じことをやれば、同様に子どもが別居親を嫌うようになるでしょうが、そうなっても「ある程度大きくなっていれば家出しても会いに来てくれる」でしょうか?
*1:上野千鶴子氏らが賛同者となったハーグ慎重の会と称するハーグ条約反対派
*3:日本に所在する子に関する申請で返還援助申請が83件。うち47件について子の返還が実現又は返還しないとの結論となった旨が外交青書に記載されている。https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/bluebook/2018/html/chapter4_02_04.html
*4:https://www.sankei.com/life/news/170915/lif1709150037-n1.html