あほか

この増田。
安倍首相の答弁は正しく、バカなのは増田とブクマカのほう

2003年のSARSの時、日本政府はSARSを新感染症に指定し、その正体がコロナウイルスだと判明した後もWHOが終息宣言を出すまで新感染症に指定しっぱなしだったのを知らないんだろうね。

まあ今回の場合、単純に安倍政権が最初に新型肺炎を新感染症に指定しなかったことが失敗だし、指定感染症にするのも遅かったのだが。
失敗を取り戻すために、一旦指定感染症に指定した後からでもその時認識していた以上の感染力を持って新感染症に指定しなおすこともできたんだけど、安倍政権はそれもやらなかった。例えば、厚労省武漢での肺炎流行を報じた1月6日の時点で新感染症に指定すれば良かったのに、それをやらなかったのは安倍政権。原因ウイルスが新型コロナウイルスだとわかった後も感染力や重症化の過程などは不明な点も多かった1月28日の時点でも新感染症ではなく指定感染症に指定したのも安倍政権。

一言で言えば、対処するための法律はあったのに安倍政権はそれを使いこなすことが出来なかっただけ。

安倍政権が今やっているのは、法の適用を誤ったという自らのミスを糊塗するために、法の不備だったと主張する責任転嫁。

増田は、今回の新型コロナウイルス感染症は指定感染症になってるから新感染症じゃないと主張しているが、別に指定感染症にしたものを新感染症に指定してはいけないなどと法律のどこにも書かれていない。感染症法は指定当時の想定よりも感染力や重症度が高い場合に新感染症に指定することで対処できるようになっている。

安倍政権にとっては全国一斉休校を要望しなければならないほど高い感染力を持つ疾患なのに、(2003年当時の)一類相当の新感染症ではないと解釈する安倍政権は矛盾しているとしか言いようがないのだが、安倍信者にはそれが理解できないのか、理解したくないのか。



某社会学者が意図せず炎上しているのを見て思ったこと

まあ、生物学的性差を絶対視する一派のフェミニズムであれば、性的少数者をどう扱うかで混乱するのはさもありなん、という感想。

生物学的女性が常に被害者であり生物学的男性が常に加害者であるとする教義にしたがえば、自認している性が何であれ生物学的男性は生物学的女性にとって警戒の対象でしかなく、むしろ女性だと自認する生物学的男性は“味方の振りをした敵”に見えるであろうなぁ、と。

私の個人的理解では、フェミニズムというのは、文化的な性別分業が残る中で生じる抑圧を解消する運動であり、歴史的な経緯から一般的に男性が抑圧する側の地位にあり、女性が抑圧される地位にあることが多く、それゆえに、社会的な意味での抑圧者としての“男性”による支配の解消と社会的な意味での被抑圧者としての“女性”を解放することが主眼となる、というものです。
社会的な意味での被抑圧者としての“女性”を解放することが主眼であるから“feminism”なのだという理解。

この場合の“男性”とは社会的な意味での抑圧者を指す代名詞であって、必ずしも生物学的男性に限らないというのが大事な点ですね。

例えば、多くの職種で男性が支配的な地位についており、女性は就業において不利な地位にあり、法的には平等でも文化的には不平等が多く残っています。これは典型的な男性優位・女性差別の社会構造ですが、一方で、家事・育児については女性の方が優秀であり、男性は劣っているとみなす文化もあります。家庭レベルの家事・育児でも、男性は女性よりも劣っているという認識での言説は多いですし、保育士等の職種では男性が不当に扱われることもあります。このように特定の場面で男性が不利に扱われることを男性差別・女性優位と言えなくもありませんが、それは社会的な意味での抑圧者の地位に生物学的女性がいることが多いというだけであって構造的には、社会的な意味での抑圧者としての“男性”による支配の構造とも言えます。

社会的な意味での抑圧者としての“男性”による支配の解消と社会的な意味での被抑圧者としての“女性”の解放というのは、(生物学的)男性優位の職種において、男女が平等に扱われることを目指すことであると同時に、(生物学的)女性優位の場面においても、男女が平等に扱われることを目指すことであるというのが私の認識であり、それこそがフェミニズムであろうと考えています。

ですから、生物学的女性が常に被害者であり生物学的男性が常に加害者であるとする教義のフェミニズムを、私は受け入れることができません。

で、ですね。
“男性”による“女性”の抑圧というものを、社会的な意味での“男性”“女性”であって、必ずしも生物学的性別と一致しないという考え方をすると、性的少数者をどう扱えば良いかがわかりやすくなります。

例えば、文化的な性別分業の残る社会では、男性が支配的な職種が多く残る一方で、女性が支配的な家事・育児(あるいは一部の職種)という場面が残っていますが、そのような文化的な性別分業に当てはまらないのが性的少数者ですよね。
生物学的女性は多くの場面で男性優位といった抑圧に直面するものの、一部の場面では女性優位の地位を得てもいます。それに対して、性的少数者にはそのような自らの属性が優位に働く場面が皆無です*1

これを、社会的な意味での“男性”、“女性”で見ると、性的少数派は常に抑圧される側、すなわち“女性”の立場になるわけです。

である以上、基本的には抑圧される側である性的少数者の人権を守ろうとするのが、フェミニズムであるべきだというのが私の理解です。



*1:ごくごく一部の特殊な場面は存在するものの

日本政府の新型コロナウイルス対応に関する評価

前回の続き。

新型コロナウイルス感染症に対する日本政府の対応ですが、いくつかの点を除けば、対応そのものは基本的には間違ってはいません。

間違っていたいくつかの点というのは、例えばクルーズ船対応については、関東圏の病院を選定して、可能な限り早く感染した乗客・乗員(疑い含む)の入院用に割り当て陸上に移送すべきだったという点ですね。感染症指定医療機関以外を多く割り当てる必要がありますから、感染症対策のための金銭的補償なども含めて政府が対応すべきだったと思います。
もう一つの間違いは、「本邦への上陸の申請日前 14 日以内に中華人民共和国湖北省における滞在歴がある外国人及び同省において発行された同国旅券を所持する外国人については、特段の事情がない限り、出入国管理及び難民認定法第5条第1項第 14 号に該当する外国人であると解する」という対応です。「本邦への上陸の申請日前 14 日以内に中華人民共和国湖北省における滞在歴がある外国人」については感染症対策として妥当ですが、「同省において発行された同国旅券を所持する外国人」については不当です。要するに湖北省発行の旅券を持つ中国人に対する入国拒否ですが、例えば過去2週間以上中国以外に滞在していた中国人に対しても入国を拒否できる内容になっていて、感染症対策とは言えない部分があります。

それを除いた感染症対応そのもの、例えば以下のような内容は妥当です。

現在の状況と考え方

 新型コロナウイルス感染症については、これまで水際での対策を講じてきていますが、ここに来て国内の複数地域で、感染経路が明らかではない患者が散発的に発生しており、一部地域には小規模の患者クラスター(集団)が把握されている状態になっています。しかし、現時点では、まだ大規模な感染拡大が認められている地域があるわけではありません。
 感染の流行を早期に終息させるためには、クラスター(集団)が次のクラスター(集団)を生み出すことを防止することが極めて重要であり、徹底した対策を講じていく必要があります。また、こうした感染拡大防止策により、患者の増加のスピードを可能な限り抑制することは、今後の国内での流行を抑える上で、重要な意味を持ちます。さらに、この時期は、今後、国内で患者数が大幅に増えた時に備え、重症者対策を中心とした医療提供体制などの必要な体制を整える準備期間にも当たります。
 このような新型コロナウイルスをめぐる現在の状況を的確に把握し、国や地方自治体、医療関係者、事業者、そして国民の皆さまと一丸となって、新型コロナウイルス感染症対策を更に進めていく必要があります。
 まさに今が、今後の国内での健康被害を最小限に抑える上で、極めて重要な時期です。国民の皆さまには、新型コロナウイルス感染症の特徴を踏まえ、感染の不安から適切な相談をせずに医療機関を受診することや感染しやすい環境に行くことを避けていただくようお願いします。また、手洗い、咳エチケット(咳やくしゃみをする際に、マスクやティッシュ、ハンカチ、袖を使って、口や鼻をおさえる)などを徹底し、風邪症状があれば、外出を控えていただき、やむを得ず、外出される場合にはマスクを着用していただくよう、お願いします。

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000164708_00001.html

この「感染拡大防止策により、患者の増加のスピードを可能な限り抑制することは、今後の国内での流行を抑える上で、重要な意味を持」つという認識は正しいです。

例えば、“潜伏期間中は感染せず、発症時の症状が特定しやすい”疾患であれば、発症中の水際阻止や入国後の発症・感染の早期阻止も可能でしょうが、潜伏期間が長く、入国時の阻止も入国後の感染拡大阻止も困難な今回のような疾患では、水際で食い止めることは不可能です。
水際対策でできるのは、感染者の大量入国を制限することで、国内での感染拡大のレベルを下げ、発生するであろう国内感染拡大に対応できる程度まで医療資源を充実できる時間を稼ぐことです。
医療資源の充実などは水際対策と並行して準備すべきことで、国内での感染例が増える前からやらなければならないことです。メディア・世論は国内での感染例が増えるまで水際対策ばかりに注目しがちで、やたらと入国制限・入国拒否を主張しますけどね。

個人的には1月中旬から2月中旬までくらいが「今後、国内で患者数が大幅に増えた時に備え、重症者対策を中心とした医療提供体制などの必要な体制を整える準備期間」だったと思っています。

前回、日本政府の対応が遅れたため法の適用が遅れたと指摘しましたが、1月中旬から2月中旬までの1か月間の日本政府の「準備期間」対応も、見る限りではお粗末な感が否めません。

まず、検査能力の貧困さがクルーズ船対応で露呈しましたよね。1日100件程度しか検査できないのでは、一般的な検疫期間である2週間で3000人以上の乗員・乗客の検査は不可能で、その時点でクルーズ船対応は破綻していました。
日本国内で感染者を確認した1月16日の翌日(1月17日)、国立感染症研究所新型コロナウイルスに対する積極的疫学調査実施要領を作成しています。日本政府は検査能力の拡充を1月17日ころから働きかけていたかというと相当疑問で、おそらく実態に動きはじめたのはクルーズ船が寄港した2月3日よりも後でしょう。先手先手とはとてもいいがたいところです。

つまり、現在、日本政府がやっている感染症対応そのものは間違ってはいないものの、その着手は間違いなく遅れましたし、その遅れの原因は政府対応のまずさにあったとしか言いようがありません。


さらに言うなら、今回の新型コロナウイルス感染症が発生する以前から、新型感染症が発生した場合の対応について十分に検討・準備してこなかったことも日本政府の怠慢であったという他ありませんね。
例えば、日本国内で感染者を確認した日(今回の場合、2020年1月16日)を起点として、何日以内に何を準備し、どのような条件を満たせばどのような法令を適用し、どのように動くか、それをちゃんと決めておく必要があったでしょう。現下の状況を見る限り、そのような緊急時対応がちゃんと検討されていたとは到底思えません。

また、感染者が出た場合、休業・休校などの対応が必要になることを踏まえると、経済上の損失が発生し中小企業だと倒産などの可能性もありますし、休業した労働者に対する手当の法的根拠も必要になります。

一応、中小企業支援のための窓口開設は1月29日で行われており*1新型コロナウイルス感染症を指定感染症にした政令公布の翌日であることを踏まえると、それほど遅いとは言えません。
しかし、その後政府系金融機関に対する配慮要請*2が2月7日、新型コロナウイルス感染症の影響を受ける事業者への支援策とりまとめが2月14日となっており、この辺はもう少し早くできたと思います(もし新型感染症の拡大に備えた緊急時対応を検討していたなら尚更)。
政府の緊急経済対策の決定も2月13日になってから*3ですが、水際対策が基本的に時間稼ぎでしかないということを踏まえれば、1月28日の政令公布と同時かその直後くらいにはできていていい内容ですよね。

新型コロナウイルス感染症対策の基本方針」に至っては2月25日になってからで1か月くらい遅いですよ、これ。

政府対応の問題・まとめ

そんなわけで、今回の政府対応ですが、(1)政令による指定など政府だけでできた対応が遅かった、(2)クルーズ船対応がお粗末だった、(3)国内での感染拡大までの準備がお粗末だった、(4)そもそも平時から感染症発生という緊急時対応が十分に検討・準備されていなかった、という点で落第点としか言いようがありませんね。
基本的な方針そのものは間違っていないものの、準備がおろそかだったため対応が遅れたという以外にありません。


その他

もっとも今回の場合、メディアも大概です。
いたずらに不安を煽るばかりで有用な情報は少なかったですよね。
流行が主に中国国内にとどまっていた時期は、中国に対する偏見を煽り、中国政府に対する陰謀論をばらまき、日本政府に対して入国禁止を求めるような世論を形成し、日本にも感染が広がると、中国政府に対する陰謀論が日本政府に対する陰謀論にも反射し、マスクやアルコール消毒の買い占めを招き、感染の可能性の低い人も含めてウイルス検査を要求するような事態を招きました。

メディアがもう少し疫学や感染症対策の基本的な知識を踏まえて報道していれば良かったんですけどね。

例えば、WHOがまだパンデミックではないと宣言した時とかまだ国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態ではないと言っていた時、WHOは中国に買収されているとか中国に忖度しているとか散々侮辱していましたけど*4、WHOの宣言とか定義に照らせば当たり前のことしか言ってませんからね。

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感染症対策の考え方

その他2

さて、私自身は別記事でこんなことを書きました。

2018年の肺炎での死者数は94661人、インフルエンザでの死者数は3325人、誤嚥性肺炎での死者数は38460人、不慮の事故での死者数は41238人、自殺は20031人、他殺は273人(死因簡単分類別)。

http://scopedog.hatenablog.com/entry/2020/02/20/120000

2月25日現在の政府も重症度については以下のように認識しています。

罹患しても軽症であったり、治癒する例も多いとされています。一方、重症度は、致死率がきわめて高い感染症エボラ出血熱等)ほどではないものの、季節性インフルエンザと比べて高いリスクがあります。特に、高齢者や基礎疾患をお持ちの方では重症化するリスクが高まります。

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000164708_00001.html

老人のいる家庭や介護施設や病院などでは感染させないための注意が必要なものの、それ以外ではそれほど神経質に感染防御する必要はないと個人的には認識しています。
一方で、判明していないだけで既に多くの感染者が日本国内にもいると思っています。
ですから、和田耕治氏のこの発言に対してはある程度は理解できます。

同室者から感染した乗客はいたと考えられます。しかし、クルーなどからどれぐらい乗客に追加で感染したかはわかりません。ゼロではないかもしれませんが、リスクを勘案して、乗客の人権や国内での感染状況を含めて意思決定するしかない。
国内でももうこれだけ広がっているのに、この方々だけをさらに隔離すべきだという根拠があるなら教えていただきたい。

https://www.buzzfeed.com/jp/naokoiwanaga/covid-19-wada

“既に国内で感染が広がっているので感染の可能性のあるクルーズ船の乗客を隔離する意味は無い”というのは、政治判断としてならわかります。
まあ、和田氏は政治家ではなく医師であること、検疫の目的が感染者を国内に入れないことにあることを踏まえると、法に基づき検疫を実施する立場の医師が言うことではないと思いますが。

インタビューで和田氏は乗客を2週間以上隔離するのは法的根拠がないと何度か言っていますが、2週間という期間は1月28日の政令*5や2月13日の政令*6で決められているもので、政府にはそれを変更して延長する権限があります。
検疫法の目的「国内に常在しない感染症の病原体が船舶又は航空機を介して国内に侵入することを防止するとともに、船舶又は航空機に関してその他の感染症の予防に必要な措置を講ずること」を果たす上で、医師として2週間では足りないという医学的知見があるのであれば、政府に対して期間を延長するように要望するべきだったでしょうね。
その上で、政府が既に国内に蔓延しているので延長に意味がないと判断するのであれば、それに従うしかありませんが、医師自身の判断で「下船後に発症者が出るのは想定されたこと」といって「国内に常在しない感染症の病原体が船舶又は航空機を介して国内に侵入することを防止する」という目的を放棄したのは厳密にいえば、越権だったのではないですかね。


個人的には、法的根拠とは別に高齢者が多いであろうクルーズ船乗客を2週間以上船内に留めておいたら、新型コロナウイルスとは関係のない疾患のリスクも高まることを考慮して2週間で打ち切った、というのであれば納得できるのですが。

本来やるべき検疫はこういう内容だったはずです。

横浜港で検疫中のクルーズ船ダイヤモンド・プリンセス号からの乗員の下船について

○ クルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス号」では、船内におられる乗客・乗員の皆さまの健康を最大限確保するため、乗客の皆様には、それぞれの個室内で過ごしていただくようにお願いし、発熱や咳など呼吸器症状のある方に対しては新型コロナウイルスに関するPCR検査を実施して、陽性であれば下船し、医療機関で治療することで、船内での感染拡大を抑止してまいりました。
○ 今般、PCR検査を実施し、陰性であった乗員について、本日より数日間かけて、順次、下船いただき、税務大学校(和光校舎埼玉県和光市)への移動を開始いたしました(対象者数約240名(2月27日時点))。
○ 今後は、陽性の方との接触がなくなり、そのウイルスの感染のおそれがなくなった日(起算日)から14日間は健康観察として当該施設に留まり、PCR検査を行い陰性であることを確認した上でご退所いただくことになります。

https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_09793.html

検査で陰性の者を別施設に移して、14日間停留させ、その後もう一度検査をして陰性であることを確認して検疫終了という教科書通りの手順ですよね、これ*7

その他3

一応言っておきますが、私は、特定の国の国民・特定の民族に対する入国拒否は感染症対策ではなく差別だという認識です。ですから、中国人を入国禁止にせよという主張にはもちろん、現状行われている武漢湖北省発行のパスポート所持者の入国禁止措置にも反対です。

ですが感染症対策として、武漢湖北省(流行地)に過去に14日間以内に滞在したことのある日本国内を常居所としていない外国人の入国を拒否すること自体は、日本の検疫能力の限界を超える期間に限定して同意できます。
日本人、日本国内を常居所としている外国人に対しては入国を認めるべきですが、それに対しても検疫措置が必要だと考えています。

ですから、武漢からのチャーター便や感染者の発生したクルーズ船の検疫については法的強制力を行使して行うべきだと思いますし、関連法の条文上、それは可能になっているという認識です。
チャーター便での帰国者やクルーズ船の乗員・乗客に対して十分な検疫措置ができなかったのは法律の不備ではなく、政府対応の遅れによるものに過ぎず、この件に関して、憲法改正はもちろん、法律の改正すら不要であるというのが私の認識です。

法律が必要だと思うのは、感染流行していない平時において感染発生時の対応を検討準備するための組織・制度の整備に関してですね。


ウイルス検査については、基本的に症状の出ていない人が検査を受ける必要はないと思いますが、流行地からチャーター便で帰国した場合や感染者が発生したクルーズ船の乗員・乗客については全員検査すべきだったと思いますね。あるいは発症者を隔離した後、14日間停留させて新たな発症者が出ないことを確認するかですね。
ダイヤモンドプリンセス号の場合、最初の2~3日で症状のある患者を全員検査・隔離し、その後新たな発症者が出なかったのならば、14日間の停留のみで終えても良かったですが、実際には新たな発症者が出続けていたわけですから(新たな発症者が徐々に乗客から乗員にシフトしたと言え)、最後の発症者を隔離してから14日間というのは停留させ続けるべきだったと思いますね。
停留場所は船内に限らず、乗客の体調等を考慮して手配出来次第、陸上の施設に移送するとかはできたと思うんですけどね。



*1:新型コロナウイルスに関する中小企業・小規模事業者支援として相談窓口を開設します

*2:新型コロナウイルス感染拡大に伴い政府系金融機関等に対し配慮要請を行いました

*3:新型ウイルス 150億円余の緊急対応策決定 政府 2020年2月13日 19時09分

*4:http://scopedog.hatenablog.com/entry/2020/02/05/080000

*5:政令は仮検疫済証に付する期間を2週間と定めている。 https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000589747.pdf

*6:政令は停留の期間を2週間と定めている。https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000596291.pdf

*7:税務大学校が停留施設として適切・合法かどうかという点が気になりますが。何らかの通知を出しているか、そうでなければ法的には検疫法上の停留ではなく、本人同意に基づく任意の滞在という形式なのかもしれません。

新型コロナウイルスに対する防疫の失敗は法の不整備のせいではなく政府の不手際のせい

一応、最初に擁護しておきますが、潜伏期間の長さや潜伏期間中にも感染が広まるという新型コロナウイルスの特性上、日本国内に入ってくること自体を完全に阻止するのはまず不可能で遅かれ早かれ市中感染までいっただろうなとは思っています。台湾は早期に入国制限をかけていて現時点で判明している感染者数は少ないものの(2月25日0時現在 台湾:30人*1)、正直これも時間の問題だと思います*2

潜伏期間の長い感染症を水際で完全に食い止めることは原則的に不可能ですから、基本的に入国制限措置は国内での発症に備えるための時間稼ぎに過ぎません。

日本政府は最初に日本国内で感染者を確認した1月16日*3以降、適切に備えたと言えるかが一つの評価指標になります。検疫や国内発症時の備えが十分だったかですが、その前に法的にそれが可能だったかどうかを見ておきます。
“法律が整備されていないから出来なかった、政府はよくやっている”という擁護が正しいかどうかを判断するためです。
憲法改正が必要”だという主張は論外なので省略。

チャーター便での帰国者に対して検査できなかったのは法律の不整備のせいか?

1月29日のチャーター便第1便での帰国者206人のうち、2名は当初検査を拒否しましたが、その際に法律上、検査を強制できないという弁明がされていました。
しかし、感染症法上の「新感染症」または「指定感染症」として指定すれば、法律上検査を強制することができました*4

日本政府が新型コロナウイルス感染症感染症法上の指定感染症とする政令を公布したのは1月28日ですが、施行は当初2月7日からとされました。しかし、既に日本国内で感染者を確認していたにも関わらず、政令公布まで10日間以上もかかっているのはいかにも遅いと言えます。
また、政令公布には時間がかかるというのであれば、SARSの時のように「新感染症」に指定すれば政令も必要ありませんでした。1月28日に新感染症に指定しておけば、即日か遅くとも翌日には発効しました。

すなわち、現行の法律でチャーター便での帰国者にウイルス検査を強制することは可能でしたが、日本政府の政令公布が遅れたために1月29日の第1便では強制できなかったにすぎません。
法律の不備ではなく、日本政府の不手際です。

クルーズ船の検疫・隔離が失敗したのは法律の不整備or国際法の制約のせいか?

2月3日に寄港したダイヤモンドプリンセス号に対して、法律の不整備または国際法上の制約のため検疫に失敗したという弁明もあります。

例えば、「危機意識の低さから初動の失敗を招いたのでは…新型コロナウイルスへの対応からみる日本危機管理の“弱点”(2/25(火) 12:04配信 FNN.jpプライムオンライン)」という記事で自民党佐藤正久参院議員がこんなことを言っています。

船の運営会社は米・船籍は英…不明確な指揮系統で混乱か

反町理キャスター:
初動対応で乗員を下船させるという選択肢が考えられたときに、日本政府がその要求や交渉を行ったという経緯はあるんですか? したのであれば、なぜ下船させられなかった?

前外務副大臣陸自化学科隊員 佐藤正久参院議員:
交渉はあったと思う。受け入れ施設の問題と、運営会社の反対があったという可能性がある。法的には、運営会社が下船させないと言えば下船させることはできない。

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20200225-00010003-fnnprimev-pol

まず、佐藤正久議員は与党議員なのですから、(乗員を下船させる)「交渉はあったと思う」ではなく、交渉があったかどうかを調べるべきですね。これでは全く部外者の感想にしかなりません。

受け入れ施設の問題というのは確かに、特定感染症指定医療機関が4施設10床、第一種感染症指定医療機関が55施設103床*5、第二種感染症指定医療機関が632施設5692床*6しかないことを考慮すればわからないでもありません。しかし、検疫法は「緊急その他やむを得ない理由があるとき」は感染症指定医療機関以外の病院・診療所に停留を委託することも認めています(検疫法16条1項・2項)。

「法的には、運営会社が下船させないと言えば下船させることはできない」というのもおかしいですね。検疫法の条文はこうなっています。

(停留)
第十六条 第十四条第一項第二号に規定する停留は、第二条第一号に掲げる感染症の病原体に感染したおそれのある者については、期間を定めて、特定感染症指定医療機関又は第一種感染症指定医療機関に入院を委託して行う。ただし、緊急その他やむを得ない理由があるときは、特定感染症指定医療機関若しくは第一種感染症指定医療機関以外の病院若しくは診療所であつて検疫所長が適当と認めるものにその入院を委託し、又は船舶の長の同意を得て、船舶内に収容して行うことができる。

https://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=326AC0000000201#59

法の条文は「病原体に感染したおそれのある者」に対する措置を規定しており、乗員・乗客の区別をしていませんし、むしろ、船内に留めておく場合について「船舶の長」の同意が必要だとしており、船外の医療機関に入院させることについては同意を必要としていません。

出入国管理及び難民認定法では「船舶等の長又はその船舶等を運航する運送業者の申請」が必要ですが、申請があれば緊急上陸の許可を出すことが出来ました。

(緊急上陸の許可)
第十七条 入国審査官は、船舶等に乗つている外国人が疾病その他の事故により治療等のため緊急に上陸する必要を生じたときは、当該外国人が乗つている船舶等の長又はその船舶等を運航する運送業者の申請に基づき、厚生労働大臣又は出入国在留管理庁長官の指定する医師の診断を経て、その事由がなくなるまでの間、当該外国人に対し緊急上陸を許可することができる。

https://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=326CO0000000319#227

もし、日本政府がクルーズ船の船長や運航会社に対して緊急上陸の申請を出すように求めたにも関わらず、先方が申請を拒んだというのであれば、日本政府の責任とは言えないでしょうが、そういう事実がなければ、日本政府の責任は免れないでしょう。

反町理キャスター:
もともと運営会社がアメリカ、船籍がイギリス。しかしアメリカやイギリスのメディアは「日本の対応がけしからん」という論調。おかしいですよね?

前外務副大臣陸自化学科隊員 佐藤正久参院議員:
おかしい。私も非常に不満に思う。今回は船の運営会社がアメリカ、船籍がイギリス、検疫を行うのが日本、ここの分担をどうするか国際協議で決めていかなければならない。日本があまりにも全部に対応している状況。

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20200225-00010003-fnnprimev-pol

日本で検疫を行う以上、検疫の責任は日本にあるのは当たり前です。緊急上陸の申請などで運営会社や船長が協力しなかったというなら、その責任を問うことはできるでしょうが、そういう事実が無いのであれば、日本が全部対応して当たり前で、不満に思うこと自体がおかしいです。


なお、検疫法上の隔離・停留は、検疫法2条で定義される検疫感染症に対してであって、2月3日時点では新型コロナウイルス感染症はこの検疫感染症に指定されていませんでした。指定されるのは、2月13日の政令によってで効力は2月14日から発生しています(検疫法34条)。そのため、2月3日から13日までの11日間、ダイヤモンドプリンセス号に対して検疫法15条の隔離、16条の停留を適用することができませんでした(2月13日までのクルーズ船の扱いは、法律上は停留ではなく検疫だったと思われます。)。

しかし、新型コロナウイルス感染症が検疫法34条の対象であると政令で規定されていれば、法律上は検疫法にある隔離・停留の対応ができました。
これも日本政府による政令が遅れたため、法律が適用できなかったにすぎません。

ちなみに2週間を超えて停留・隔離することは法律上できない、という主張もありますが、その期間も政令で定められているものですから、政府がその気になれば延長は可能です。念のため。



*1:新型コロナウイルス、感染者が確認された国と地域(25日0時現在)

*2:台湾が武漢からの旅行者入国を禁止したのは1月22日ですが、この時点で潜伏期間中の感染者が多数入国していたはずで、そこから感染が拡大している可能性は現在でも否定できない。入国制限以前の入国者に対して疫学的な追跡調査を行って接触者全員の陰性を確認しているなら別だが(https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20200225-00000030-cnippou-kr

*3:https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_08906.html

*4:http://scopedog.hatenablog.com/entry/2020/02/01/080000

*5:https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou15/02-02.html

*6:https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou15/02-02-01.html

ハーグ拉致条約の国内法不整備に対する訴訟の件。

この件です。

子の連れ去り規制、「国は未整備」 当事者ら集団提訴へ

大貫聡子 2020年2月8日 20時00分
 国は子の連れ去りを規制する法を整備せず、立法義務を怠っている――。配偶者らに子を連れ去られたと訴える男女14人が近く、国に国家賠償を求める集団訴訟東京地裁に起こす。国境を越えた連れ去りについて定めたハーグ条約に加盟しているのに、国内の連れ去りを「放置」しているのは違憲・違法だとし、国の責任を問うという。
 ハーグ条約の定めでは、片方の親が一方的に16歳未満の子を国外に連れ去った場合、残された親の求めに応じ、原則として元の居住国へ引き渡す。ただ、国内の連れ去りについては条約の対象ではない。
 原告は配偶者との間に未成年の子がいる日本籍や外国籍の14人。配偶者に子を連れ去られ、親権や監護権が侵害されていると主張。国内での一方的な連れ去りを禁止する法規定がなく、「子を産み育てる幸福追求権を保障した憲法13条に違反し、連れ去られた子の人権も侵害している」として、原告1人あたり11万円の支払いを求める。

https://www.asahi.com/articles/ASN285SFQN1LPLZB00Q.html

これ本来なら、ハーグ条約締結時に整備しておくべき法制度だったんですけどね。

残念ながら、一部のフェミニスト*1とそれに連動した弁護士ら*2の反対運動で日本国内では整備されてきませんでした。2012年に日弁連の態度を批判する記事を書きました。
ハーグ条約締結にあたって、日弁連が出した意見書(2011年2月18日)にこう書かれています。

(4)ハーグ条約に遡及的適用がない旨の確認規定を担保法上定めることや、国内における子の連れ去り等や面会交流事件には適用されないことを担保法上明確化し、かつ周知すること、

http://www.nichibenren.or.jp/activity/document/opinion/year/2011/110218.html

それに対する私の意見がこれ。

離婚した当事者による子どもの連れ去りは何も国際離婚に限らず、日本国内の離婚でも頻繁に生じています。もちろん日弁連もそれを知っています。しかし、日弁連は国際離婚における子の連れ去りに対して返還してもいいけど、国内離婚における子の連れ去りについては返還しなくてもいいように法整備せよ、と言っているわけです。
一般的な事例で言うなら、日本人母が連れ去ってきた子どもを外国人父に返すのはいいけど、日本人母が連れ去った子どもを日本人父に返すのは認めない、ということになります。

http://scopedog.hatenablog.com/entry/20120405/1333645932

この日弁連の意見書が功を奏したからかどうかはわかりませんが、ともかく日本国内における連れ去りについては法整備されることはなく現在に至っています。そのため、今回の訴訟が起こされたという形ですね。

ハーグ条約は、子の連れ去りがDVからの避難のためなど正当な理由がある場合には返還しなくても良いと定めています(条約13条b)。それでも実際に日本から外国へ返還される事例があるわけです(2017年12月までに日本に連れ去られてきた子どもの返還請求が83件あり、そのうち34件について返還するという結論が出ています*3)。

つまり、一方の親が他方の親の同意を得ずに海外から日本に子を連れ去ってくる事件では、日本政府はDV等の返還できない・すべきでない事情が無ければ返還のための支援をしているわけです。
ところが、日本国内で一方の親が他方の親の同意を得ずに子を連れ去った場合については、日本政府から何の支援も得られない、というのが現状です。

ブコメの反応

はなてブックマークの反応がどうもですねぇ・・・。

リベラルのための離婚後共同親権に関する説明」の続き的に少し書いておきます。

日本会議とかウヨ連中がロビイングしてるやつ」「DV夫とかの団体みたいなもの」「DVから逃げた母子を誘拐ダーと騒いで追い詰めるおぞましいやつ」

この訴訟は、夫婦別姓訴訟なども手掛けている作花知志弁護士が参加しているものですよ?

私が弁護士の1人として担当をさせていただく「子の連れ去り違憲訴訟」を,2月8日付朝日新聞デジタルで紹介していただきました。「子の連れ去り違憲訴訟」とは,配偶者に無断で子を連れ去られる被害に遭った方14名が原告となり,日本が子の連れ去りを禁止したハーグ条約の批准国であることなどから,国会(国会議員)は子の連れ去りを防ぐ法律を制定する立法義務があるにも拘わらず,それを怠ったことを違憲・違法であることを主張した,憲法裁判です。

https://ameblo.jp/spacelaw/entry-12574523492.html

ツイートもいくつか。



ハーグ条約と同じく、DV等の正当な理由もないのに子どもを連れ去る行為を違法なものとする立法をすべきだという主張ですね。

“子の連れ去りは全てDV被害から逃れるためでただ一つの例外もない”というのなら、「DVから逃げた母子を誘拐ダーと騒いで追い詰めるおぞましいやつ」とかいう評価もできるでしょうが、そんなわけないというのが、ハーグ条約事件での返還事例が存在することから明らかです。

「冊子の挿絵がヘイト絵師のはすみ」だから信用できない

はすみとしこ氏は、ウイグルチベットに関する中国非難にも関与しています*4けど、ウイグルチベット政策について、はすみとしこ氏が間違いで中国政府が正しいとか思いますか?
もし中国政府を非難するのであれば、それはヘイト絵師と共闘することを意味しますか?

しませんよね?

それとこれとは話が違う。はすみ氏が関与しているかどうかではなく、その問題がどうなのかで判断すべきでしょ?違います?

「DVで逃げた(逃れた)子をDVしてた側の都合で連れ戻したいケースが多々ある」

そういうケースも「多々」かどうかはともかくあるでしょうね。

ですが、ハーグ条約がDV等の場合は返還の必要が無いと決めている以上、それに整合する国内法を整備してもDV加害者に子どもを返すような運用にはならないと考えるのが普通ではないですかね。

あと、日本の場合、離婚後単独親権を定めた民法819条は、ただ一方を親権者とすると定めているだけで、DV加害者の親権を取り上げるような規定ではありません。ですから、DV加害者が、被害者を追い出して子どもを抱え込んで親権を得る事例だってあります。
今の日本の制度では、DV加害者が子どもを連れて逃げた場合に連れ戻す手段がありませんよ。

子どもが「会いたいならある程度大きくなっていれば家出しても会いに来てくれるはず」

それ、別居親との交流を維持する責任を子どもに押し付けてるだけですよね?
まして、新生児や乳児の頃、場合によっては出産前に引き離され、別居親に対して親だという認識すら与えられずに育てられている場合にそんなこと期待できるはずもありません。

さらにこういう話もあります。
子どもが父親嫌いになった…我が子に夫の愚痴を言い続けた家族の悲劇(2020.02.11 00:00大中 千景)

別に離婚していなくても、母親が父親に対する愚痴を子どもに聞かせ続けたら子どもが父親を嫌うようになることがあるわけです。
別居・離婚後に同じことをやれば、同様に子どもが別居親を嫌うようになるでしょうが、そうなっても「ある程度大きくなっていれば家出しても会いに来てくれる」でしょうか?

「DVから子どもに促されて逃げたが、そのDV夫が実家近くにわざわざ転勤してきて監視されてる人がいる」

ハーグ条約がDV等の場合は返還の必要が無いと決めているので、同様の法整備をしても何の問題もありませんね。
加えて言うなら、そのケースはDV防止法による保護命令やストーカー規制法で対処すべきことであって、DV等の理由もなく子を連れ去る行為を禁止する法整備に反対する理由にはなりませんね。



*1:上野千鶴子氏らが賛同者となったハーグ慎重の会と称するハーグ条約反対派

*2:伊藤和子弁護士ら

*3:日本に所在する子に関する申請で返還援助申請が83件。うち47件について子の返還が実現又は返還しないとの結論となった旨が外交青書に記載されている。https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/bluebook/2018/html/chapter4_02_04.html

*4:https://www.sankei.com/life/news/170915/lif1709150037-n1.html

“国際保健規則(IHR)が強制的なウイルス検査を禁止している”とかいう珍説

この増田。

強制的にウイルス検診を受けさせることは出来ない

ではまず、当方が眉をひそめた主張として「中国からの帰国者の一部がウイルス検診を拒否した件」へ寄せられた「強制的にウイルス検診を受けさせるべきだ」という類の主張である。
はっきりと言おう。これは日本政府どころか世界中の190以上の国家と地域は強制的にウイルス検診を受けさせることが出来ないようになっている。

国際保健機関(WHO)に加盟する190以上の国と地域は国際法として国際保健規則(IHR)に縛られている。

以下、厚労省の資料から引用する。

第三条 諸原則
1. 本規則の実施は、人間の尊厳、人権及び基本的自由を完全に尊重して行なわなければならない。

https://www.mhlw.go.jp/bunya/kokusaigyomu/dl/kokusaihoken_honpen.pdf

引用したPDFをご覧になった方は直ぐに理解できるであろうが、規則としての機能するであろう一番最初の明文が「人権の尊重」である。
今回の件に対応しなければならなかった日本の高級官僚はおそらくこのPDFとほぼ同じものを比較的早期に読むことになったであろうことは想像に難しくなく、そして一番最初に目へ飛び込んだのは「人権の尊重」だ。
日本政府はIHRによって人権の尊重を履行しなければならないので、ウイルス検診を拒否した者の意思をそのまま受け入れた日本政府の対応を非難するのは誤りある。
もし非難する点があるとするならば「説得の失敗」という点。ただしどのような説得があったか不明であるし結局は相手の人権を尊重しなければならないため、相手にやむを得ない理由などがあるのならば誰が説得しても困難だろう。
これは脅しているわけではなく1つの注意として、そう例えば忠言のようなものだと考えていただければ幸いだが日本国へ疫病を蔓延させんとする優しいアナタの主張は人権を脅かす可能性があるのだ。

https://anond.hatelabo.jp/20200221183446

IHRの第3条に人権尊重がうたわれているから強制的な検査はできない、と増田は主張しているようですが、日本国憲法にも人権尊重の条文がありながら、逮捕や刑罰あるいは医療措置としての強制入院とか入国拒否とかが合法的に行なわれていることを知らないのでしょうかね。

殺人を犯した容疑者を逮捕するのは人権尊重に反するとか主張している人なんていますか?少なくとも裁判所はそんな判断してませんし、諸外国もそれを非難したりはしてません。
非難されるのは、逮捕などで制限される人権がそれをしなかった場合に損なわれる他の人権に比べて著しく大きい場合ですよね。

感染している可能性の高い者が検査を拒否する自由は、その者の入域によって生じる地域内の感染拡大のリスクよりも常に勝るとは限りません。疾患の深刻さや検査の侵襲性の高さなどを考慮して判断されるものであり、公共の福祉による調整を受けるわけですよ。

実際、IHRの18条1項にはWHOの権限として次のような勧告ができることになっています。

第十八条 人、手荷物、貨物、コンテナ、輸送機関、物品及び郵送小包に関する勧告

1. 人に関して WHO が参加国に発する勧告には、次の助言を含めることができる。
(抜粋)
- 医学的検査を要求する。
- 疑いのある者を公衆衛生上の観察の下に置く。
- 疑いのある者に対して検疫措置その他の保健上の措置を実施する。
- 必要に応じて影響のある者を隔離し処置を実施する。
- 疑いのある者又は影響のある者の接触先の追跡を実施する。
- 疑いのある者又は影響のある対象者の入域を拒絶する。
- 影響のない者の影響のある地域への入域を拒絶する。及び
- 影響のある地域の人に対する出国時検査及び/又は制限を実施する。

https://www.mhlw.go.jp/bunya/kokusaigyomu/dl/kokusaihoken_honpen.pdf

これらはいずれも個人の人権を制限する内容ですが、IHRが強制的な検査を否定しているならこんな勧告を出す権限自体が矛盾していますよね。

「ダイヤモンド・プリンセス入港直後に罹患者を下船させることは困難だった」?

増田は「陸上の病院へ送致した時点でそこはもう日本の水際ではないのだ。」とか言ってますが、検疫法15条・16条には、検疫感染症(2条1号・2号)の場合に特定感染症指定医療機関又は第一種感染症指定医療機関・第二種感染症指定医療機関に委託して入院させ、隔離・停留させる権限を検疫所長に与えています。「緊急その他やむを得ない理由があるとき」は、そのような医療機関以外の病院、診療所に委託することも法律上、可能です。

実際、クルーズ船内で感染が確認された患者は直ちに陸上の病院に送致されていますね*1
これは検疫法15条の規定から当然の措置ですが、増田に言わせれば「陸上の病院へ送致した時点でそこはもう日本の水際ではないのだ。」らしいですねぇ。

そして、別に感染確認されてなくても「感染症の病原体に感染したおそれのある者」であれば停留することになりますが、その停留も船舶内でなければならないわけではありません。

(停留)
第十六条 第十四条第一項第二号に規定する停留は、第二条第一号に掲げる感染症の病原体に感染したおそれのある者については、期間を定めて、特定感染症指定医療機関又は第一種感染症指定医療機関に入院を委託して行う。ただし、緊急その他やむを得ない理由があるときは、特定感染症指定医療機関若しくは第一種感染症指定医療機関以外の病院若しくは診療所であつて検疫所長が適当と認めるものにその入院を委託し、又は船舶の長の同意を得て、船舶内に収容して行うことができる。

https://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=326AC0000000201#59

条文から明らかなように、原則として「感染症の病原体に感染したおそれのある者」も指定医療機関に委託して入院させるのが基本であって、「緊急その他やむを得ない理由があるとき」に限って「船舶の長の同意を得て、船舶内に収容して行うことができる」ことになっています。

むしろクルーズ船内に収容し続けた今回の措置の方が法の条文上は例外的だったと言えますね。

もっとも、これらの隔離・停留の措置は検疫法上は、感染症法に規定する一類感染症新型インフルエンザ等感染症(検疫法2条)、あるいは新感染症(検疫法34条の2)に対して行なわれるものであって、それ以外の場合は政令で指定する必要があります(検疫法34条)。

新型コロナウイルスを指定感染症とする政令*2は1月28日には出ていますが、この時の政令では検疫法2条3号の感染症とし、検疫期間を2週間としただけで、検疫法34条が適用されるための指定を行っていませんでした(この理由がわからない・・・)。
そして、2月3日に「ダイヤモンド・プリンセス号」が入港し、それから10日も経った2月13日になってようやく「新型コロナウイルス感染症を検疫法第三十四条の感染症の種類として指定する等の政令」を出しています(施行は2月14日)。

新型コロナウイルス感染症を検疫法第三十四条の感染症の種類として指定する等の政令等について(施行通知)

正直言って、なぜ1月28日の政令の時点で検疫法34条を適用できるように指定してなかったのか、そして「ダイヤモンド・プリンセス号」が入港して10日も経ってから指定したのか、意味不明です。
政令ですから、国会での立法は不要で行政だけで対応できたのに、この体たらくはいくら何でも安倍政権の失態としか言いようがないんですよね。


ちなみに

未だに“中国人を入国禁止にしろ”とか言っているレイシストがうじゃうじゃいますが、そんなものに法的根拠はありません。

ただし、検疫法14条に基づき、「検疫感染症が流行している地域を発航し、又はその地域に寄航して来航した船舶等、航行中に検疫感染症の患者又は死者があつた船舶等、検疫感染症の患者(略)その他検疫感染症の病原体に汚染し、又は汚染したおそれのある船舶等について、合理的に必要と判断される限度において」隔離や停留といった措置をとることが出来ます。

2月6日の閣議決定では「本邦への上陸の申請日前 14 日以内に中華人民共和国湖北省における滞在歴がある外国人及び同省において発行された同国旅券を所持する外国人については、特段の事情がない限り、出入国管理及び難民認定法第5条第1項第 14 号に該当する外国人であると解する」という措置が取られましたが、これ自体に相当問題がありますが、それを置くとしても、この措置が新型コロナウイルスに関して出されたことを踏まえれば、感染症対策として「合理的に必要と判断される限度」を超えるわけにはいきません。

新型コロナウイルスの蔓延状況は武漢湖北省とそれ以外の中国では明らかに異なっていますから、それらを一緒くたに排除する“中国人を入国禁止にしろ”などということは感染症対策ではなく排外主義であり、差別に他なりません。



陰口が大好きな人

こいつの件。

これは完全にダメなやつだね。scopedogさんと変わらんレベル。
terf,
これはひどい,
EoH-GSのコメント2020/02/20 08:27

https://b.hatena.ne.jp/entry/4681772654549980994/comment/EoH-GS

私が全く言及してもいない記事のブコメにわざわざ私を侮辱する内容が書かれているので反応しておきます。

EoH-GS氏の発言は意図的か天然かわかりませんが、本旨がわかりにくいことが多いんですよね。
このブコメも「完全にダメなやつ」とは千田有紀氏を指しているのか、記事を書いたゆな (id:snartasa) 氏を指しているのか曖昧です。

前者だとすれば、離婚後共同親権関連の話題で千田氏に媚びを売って讒言にいそしんでいたEoH-GS氏は宗旨替えをしたのかもしれません。
後者だとすれば、EoH-GS氏はトランス差別賛同者ということになりますね。

どっちかな。