従軍慰安婦の推定人数に関する日韓両政府の認識

山田高明氏と言い、有馬哲夫氏と言い、“朝鮮人慰安婦だけで20万人いた説が世界中に広まっている”と主張して、それを否定して見せるという論法を利用しています。
山田氏も有馬氏も基本的な知識に欠けているのか、それとも一般社会に否定論を流布するために敢えて知らない振りをしているのか、いずれにせよ、問題設定の時点でデマを紛れ込ませています。
では、従軍慰安婦の人数について実際にはどんな説が主流かというと、日韓両政府とも歴史研究の成果を踏まえた幅をもった数字を提示していることから、それが主流と言っていいでしょう。

日本の場合(アジア女性基金の認識)

 一体どれほどの女性たちが日本軍の慰安所に集められたのか、朝鮮人慰安婦の比率はどの程度であったのか、どれほどの人々が戦場から帰らなかったのかというような点については、今日でも確実な答をえるような調査ができていません。
 まず慰安婦の総数を知りうるような総括的な資料は存在していません。総数についてのさまざまな意見はすべて研究者の推算です。
 推算の仕方は、日本軍の兵員総数をとり、慰安婦一人あたり兵員数のパラメーターで、これを除して、慰安婦数を推計するやり方があります。この場合に交代率、帰還による入れ替りの度合いが考慮に入れられます。
f:id:scopedog:20200512011114p:plain

http://www.awf.or.jp/1/facts-07.html

様々な推定値を列挙していますが、これらを踏まえると、2~41万人という数字になっています。ただし、アジア女性基金では蘇智良の説に対してやや否定的な説明も付けています。

韓国の場合(日本軍「慰安婦」被害者サバイバー歴史館)

現在、慰安婦に 動員された女性の総数については、未だ正確な情報は分からない。強制的に動員して慰安婦にさせられた女性たちの総数を示す体系的な資料が見つかっていないためである。一部の学者たちは、日本軍の「兵士何人あたりに慰安婦を何人おくか」という計画が示された資料や、複数の証言資料に基づき元日本軍慰安婦被害者の総数を推測している。しかし、日本軍「慰安婦」の総数は、最低3万人説から最大40万人説まで多様な意見があり、研究者によってバラツキが大きい。

日本軍は、慰安所設置の初期段階で主に日本と日本の植民地だった朝鮮、台湾から女性を動員したが、戦争の長期化と戦線の拡大に伴って、日本の占領地だった中国、フィリピン、インドネシアベトナムミャンマーインドネシアに居住しているオランダ人の女性たちも強制的に動員され日本軍「慰安婦」にされた。慰安婦問題を長期間にわたって研究してきた研究者・吉見義明氏によると、日本軍「慰安婦」の数は少なくとも8万人から20万人と推定され、その中に占める朝鮮人女性の割合は半分を超えるという調査結果を発表した。

http://www.hermuseum.go.kr/jpn/PageLink.do?thirdMenuNo=&subMenuNo=010100&menuNo=010000&link=forward:/PageContent.do&tempParam1=&%22


韓国では「最低3万人説から最大40万人説」という書き方で具体的な数字の根拠については特に明記ないものの、概ね日本での推定値範囲と近い範囲をとっています。やや積極的に支持しているとみられるのは吉見氏の説である「少なくとも8万人から20万人」ですが、これはアジア女性基金で提示している数字と上側は同じですが、下側は異なっています。

吉見「従軍慰安婦 (岩波新書)」の記述

吉見氏の推計値として、アジア女性基金は4.5万人と20万人という数字を挙げ、日本軍「慰安婦」被害者サバイバー歴史館は8万人と20万人という数字を挙げています。
実は、4.5万人という数字も、8万人という数字も、20万人という数字も全て「従軍慰安婦 (岩波新書)」に記載されています。

ただし、韓国の8万人というのは千田夏光氏の説として記載されており、下限として記載されたものではありません。ですが、日本の4.5万人というのも吉見氏は実際の下限として書いたものではなく、兵士100人に1人という慰安婦の割合と交代率1.5という仮定から機械的に導出したもので、実際には100人に1人という割合は第21軍の把握している人数を前提としたもので指揮下の小部隊が自前で調達した慰安婦を含まないことを踏まえて、「下限は約五万」としています。

従って吉見説としての下限値と上限値を挙げるなら、5万人~20万人とするのが正確です。

交代率

慰安婦数の推定に用いる交代率とは対象期間中に慰安婦が何回交代したかという数値で、戦争中1回も交代が無かったとすれば1、戦争中半数が1回交代したとすれば1.5、全員が1回交代したとすれば2となる。吉見説上限の20万人は交代率2と仮定した場合ですが、同著のなかで吉見氏は交代率についても言及しています。

従軍慰安婦 (岩波新書)」(P81)
日本軍は移動するたびに、各地で新たな慰安婦となる女性を求めたため、比較的短い期間のうちに新たな慰安婦が求められた。このような被害者を慰安婦に算入すれば、占領地の女性の交代率は何倍にもなることになる。

もし交代率が平均して4であれば、慰安婦の総数は推定40万人ということにもなるわけです。


その他

例えば、ヒストリーチャンネル(英語版)のサイトでは慰安婦に関する記事があり、そこではこう書かれています。

UPDATED:JUL 21, 2019ORIGINAL:FEB 20, 2018

The Brutal History of Japan’s ‘Comfort Women’

(抜粋)
By then,between 20,000 and 410,000 women had been enslaved in at least 125 brothels.

https://www.history.com/news/comfort-women-japan-military-brothels-korea

2万~41万人という幅のある数字を挙げていますが、これはアジア女性基金の数字そのものですね。


その他、2015年に元慰安婦の柳喜男*1氏が日本政府と産経新聞を相手に訴訟を起こした際の記事にはこう書かれています(記事というか訴状に書かれた内容)。

WWII ‘Comfort Women’ Call Out|Japan, Others for War Crimes

July 14, 2015
(抜粋)
You*2 and her co-plaintiff, Kyng Soon Kim, are two of over 200,000 young women abducted and forced to serve as comfort women for the pleasure of Japanese soldiers during World War II, according to the 71-page complaint.

https://www.courthousenews.com/wwii-comfort-women-call-outjapan-others-for-war-crimes/

ここでは一般的な20万人という数字を出していますが、別に朝鮮人慰安婦に限定してはおらず、普通に読めば(民族構成問わず)慰安婦の総数が20万人以上であったという解釈になるでしょうね。

まとめ

日本軍慰安婦の総数に関する世界における一般的な認識としては、アジア女性基金の数字に則った2万~41万人という幅のある数字か、20万人という概算値であると言えるでしょうね。
決して、“朝鮮人慰安婦だけで20万人だ”というのが世界中に広まっているわけではないようです。





韓国検疫法に関する件

検疫法改正案が2月26日に韓国国会本会議を通過しました。
こちらのプレスリリース(韓国語)によると入国禁止の法的根拠が明確になったとのこと。

改正後の条文はこれ(ちなみに2021年3月施行の改正も別途されている由)。

제24조(출입국의 금지 또는 정지 요청) 보건복지부장관은 공중보건상 큰 위해를 끼칠 염려가 있다고 인정되는 다음 각 호에 해당하는 사람에 대하여는 법무부장관에게 출국 또는 입국의 금지 또는 정지를 요청할 수 있다. 다만, 입국의 금지 또는 정지의 요청은 외국인의 경우에만 해당한다. <개정 2010. 1. 18., 2016. 2. 3., 2020. 3. 4.>
1. 검역감염병 환자등
2. 검역감염병 접촉자
3. 검역감염병 위험요인에 노출된 사람
4. 검역관리지역등에서 입국하거나 이 지역을 경유하여 입국하는 사람

第24条(出入国の禁止または停止要求)保健福祉部長官は、公衆衛生上の大きな危害を及ぼすおそれがあると認められる次の各号に該当する者に対しては、法務部長官に出国または入国の禁止または停止を要請することができる。ただし、入国の禁止または停止の要求は、外国人の場合にのみ該当する。 <改正2010. 1. 18.、2016年2月3日、2020. 3. 4.>

1.検疫感染症の患者等
2.検疫感染症接触
3.検疫感染症の危険因子にさらされた人
4.検疫管理地域などで入国したり、この地域を経由して入国する人

http://www.law.go.kr/%EB%B2%95%EB%A0%B9/%EA%B2%80%EC%97%AD%EB%B2%95

改正前の条文がこれ。

제24조(출입국의 금지 또는 정지 요청) 보건복지부장관은 공중위생상 큰 위해를 끼칠 염려가 있다고 인정되는 검역감염병 환자등 또는 검역감염병 의심자에 대하여는 법무부장관에게 출국 또는 입국의 금지 또는 정지를 요청할 수 있다. 다만, 입국의 금지 또는 정지의 요청은 외국인의 경우에만 해당한다. <개정 2010. 1. 18., 2016. 2. 3.>

第24条(出入国の禁止または停止要求) 保健福祉部長官は、公衆衛生上の大きな危害を及ぼすおそれがあると認められる検疫感染症の患者等または検疫感染症の疑い者に対して法務部長官に出国または入国の禁止または停止を要求することができる。ただし、入国の禁止または停止の要求は、外国人の場合にのみ該当する。 <改正2010. 1. 18.、2016年2月3日>

保健福祉部長官が法務部長菅に対して入国禁止・停止の要請をできること自体は変わっていませんが、対象者が明確になり、患者と疑い者のみが対象者だったのが、疑い者を接触者・危険因子に曝露された者・流行地域から入国しようとする者と明確化している点が変わっています。

改正前から保健福祉部長官が法務部長菅に対して入国禁止・停止を要請できるようになっていましたので、入管法等にもこれに対応する条文があります。

출입국관리법

出入国管理法

(抜粋)

제11조(입국의 금지 등) ① 법무부장관은 다음 각 호의 어느 하나에 해당하는 외국인에 대하여는 입국을 금지할 수 있다. <개정 2015. 1. 6.>

第11条(入国の禁止など) ①法務部長官は、次の各号のいずれかに該当する外国人に対しては入国を禁止することができる。 <改正2015 1. 6>

1. 감염병환자, 마약류중독자, 그 밖에 공중위생상 위해를 끼칠 염려가 있다고 인정되는 사람

1.感染症の患者は、麻薬中毒者、他の公衆衛生上の危害を及ぼすおそれがあると認められる者

3. 대한민국의 이익이나 공공의 안전을 해치는 행동을 할 염려가 있다고 인정할 만한 상당한 이유가 있는 사람

3.大韓民国の利益や公共の安全を害する行動をするおそれがあると認めるに足りる相当な理由がある人

8. 제1호부터 제7호까지의 규정에 준하는 사람으로서 법무부장관이 그 입국이 적당하지 아니하다고 인정하는 사람

8.第1号から第7号までの規定に準ずる者として法務部長官がその入国が適当でないと認める者

② 법무부장관은 입국하려는 외국인의 본국(本國)이 제1항 각 호 외의 사유로 국민의 입국을 거부할 때에는 그와 동일한 사유로 그 외국인의 입국을 거부할 수 있다.

②法務部長官は、入国しようとする外国人の本国(本國)が第1項各号以外の事由により、国民の入国を拒否するときは、その同じ理由で、その外国人の入国を拒否することができる。

http://www.law.go.kr/%EB%B2%95%EB%A0%B9/%EC%B6%9C%EC%9E%85%EA%B5%AD%EA%B4%80%EB%A6%AC%EB%B2%95

この中の第11条第1項第1号が、検疫法第24条に対応するもので、今回の法改正は「公衆衛生上の危害を及ぼすおそれがあると認められる者」の要件を明確化したものと言えますね。


日本の検疫法には韓国検疫法24条に相当する部分がありません。日本の入国禁止措置は入管法第5条第1項第14号によるものですが、要件は曖昧です。

出入国管理及び難民認定法(抜粋)

第五条 次の各号のいずれかに該当する外国人は、本邦に上陸することができない。
一 感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(平成十年法律第百十四号)に定める一類感染症、二類感染症新型インフルエンザ等感染症若しくは指定感染症(同法第七条の規定に基づき、政令で定めるところにより、同法第十九条又は第二十条の規定を準用するものに限る。)の患者(同法第八条(同法第七条において準用する場合を含む。)の規定により一類感染症、二類感染症新型インフルエンザ等感染症又は指定感染症の患者とみなされる者を含む。)又は新感染症の所見がある者
十四 前各号に掲げる者を除くほか、法務大臣において日本国の利益又は公安を害する行為を行うおそれがあると認めるに足りる相当の理由がある者

https://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=326CO0000000319

韓国入管法第11条第1項第1号(感染症の患者等の入国禁止)と似たような条文は日本入管法にもあり、それが第5条第1項第1号ですが、これは感染症の所見がある者の入国を禁止できるだけで、韓国のように「2.検疫感染症接触者」「3.検疫感染症の危険因子にさらされた人」「4.検疫管理地域などで入国したり、この地域を経由して入国する人」には適用できません。

ちなみに韓国が今回のCOVID-19に関連して入国禁止措置をとったのは2月4日で対象は中国湖北省発行のパスポート所持者と14日以内に湖北省を訪問した外国人*1となっています。日本も同じ入国禁止対象としていましたが、その措置は2月1日からです*2

その後、日本政府は入管法第5条第1項第14号の曖昧な要件のまま入国禁止対象を次々と拡大させ、4月3日からはアジア10カ国、大洋州2カ国、北米2カ国、中南米6カ国、欧州44カ国、中東4カ国、アフリカ5カ国の計73か国にまで膨らみましたが、韓国政府は韓国入管法第11条第1項第1号の要件での入国禁止対象を中国湖北省のみに限定し続けました。

韓国政府は4月1日になって海外からの入国者全てに14日間の隔離を義務付けましたが、入国禁止にはしていません*3



こういういい話はちゃんと残しておきたい

まず、この話。
白血病の韓国女児 日本特別機で印から帰国(5/6(水) 14:31配信 日テレNEWS24)

COVID-19の影響でインドから帰国できない状態だった急性白血病の韓国人女児の支援を韓国大使館が要請したところ、日本大使館が応じ日本の特別機で韓国まで送ったというニュースです。
記事には「韓国メディアは、「7200kmの日韓協力」、「こどもの日の奇跡」などと好意的に報じています。」とあり、当然ながら韓国では好意的にとらえられているようです。
ただ、このニュースだけだと、“日本は良心的だから反日的な韓国に対して人道的な対応をした”とか“どうせ韓国はすぐ忘れて反日になる”とか決めつける嫌韓バカに誤った認識だけを与えかねないので、別のニュースも。

日韓政府が帰国チャーター機で協力…日本人が韓国機利用、共同運航も(2020/04/11 19:10)
今度は日本の航空機で韓国人退避 インド・スーダンから( 2020.04.14 16:52 )
新型コロナで韓国政府のチャーター便で日本人が帰国。「困ったときはお互い様」( ハーバー・ビジネス・オンライン 2020/04/19 08:32)
韓国人78人 チャーター機でナイジェリアから帰国へ=日本人1人も(2020.04.28 09:59)
タンザニアから韓国人119人が臨時便で帰国 日本人も同乗(Write: 2020-05-08 11:21:08)

外交の現場では日韓とも人道的な対応をとっているわけですね。

記事にあるもの含め、ネットでざっと見つかった協力ケースはこんな感じです。

3月31日、マダガスカルから韓国政府手配のチャーター機が出発(日本人7人搭乗)。
4月3日、フィリピンから韓国政府手配のチャーター機が出発(日本人12人搭乗)。
4月6日、ケニアから韓国政府手配のチャーター機が出発(日本人約50人搭乗)。
4月12日、インドから日本政府手配のチャーター機が出発(韓国人2人)。
4月17日、サウジアラビアからの韓国手配のチャーター機が仁川に到着(韓国人146人、日本企業関係者2人、サウジアラビア企業関係者1人)。
カメルーンから日韓(JICA、KOICA)手配のチャーター機が出発(日本人56人搭乗)。
スーダンから日本(JICA)手配のチャーター機が出発(韓国人6人)。
4月28日、ナイジェリアから韓国(大宇建設)手配のチャーター機が出発(韓国人78人、日本人1人、その他154人)。
5月5日、インドから日本政府手配のチャーター機が出発(韓国人1人 ※冒頭の白血病の女児)。
5月7日、タンザニアから韓国政府手配のチャーター機が出発(韓国人119人、日本人1人)。




慰安婦問題の件・2つ目

もう一つはこの件。
「2015年に日本が約束した10億円、慰安婦支援団体の代表は事前に知っていた」(5/8(金) 6:56配信 中央日報日本語版)

この件はニュース性がよくわかりません。
記事本文中にこう書かれています。

ほぼ最終段階で行われた譲歩なので、挺対協側に少女像関連の内容を伝えることはできなかった。だが、その以外の▼日本の内閣総理大臣が謝罪して▼被害者のために日本が予算で10億円を拠出する--などの内容はすでに尹氏に説明したという。
だが、尹氏率いる挺対協はその直後、「被害者の意見を吸い上げていない拙速合意」として源泉無効化を主張した。尹氏は当時「被害者への相談が全くなかった(合意は)解決だとみることはできない。被害者は知らないままで、加害者がこのようにするつもりだ言って解決されたとみることはできない」と主張した。
これについて2017年文在寅政府発足後、外交部は「被害者および関連団体の反発」を理由にタスクフォース(TF、作業部会)を設け、同年12月には慰安婦合意が被害者中心主義から外れており欠陥が重大だという結論を下した。TFは「外交部は交渉進行過程で被害者側に時々内容を説明した」としつつも「しかし『最終的かつ不可逆的』な解決確認、国際社会非難・批判自制など韓国側が取る措置に対しては具体的に知らせなかった」とした。

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20200508-00000001-cnippou-kr

「外交部は交渉進行過程で被害者側に時々内容を説明した」「しかし『最終的かつ不可逆的』な解決確認、国際社会非難・批判自制など韓国側が取る措置に対しては具体的に知らせなかった」のであれば、挺対協が反対するのは当たり前としか思えません。

契約内容のうち、一方の当事者が賛同する部分だけ伝えて、反対するであろう部分は伝えないまま契約締結されて納得する人なんかいないでしょうに。



慰安婦問題の件・1つ目

共に市民党代表「慰安婦被害者・李容洙さん、記憶が歪曲されたようだ…検証必要」(5/8(金) 11:13配信 中央日報日本語版)

李容洙氏(元日本軍慰安婦)と尹美香氏(正義記憶連帯前理事長)のいずれが正しいのか、あるいはいずれとも間違っているのかを判断する材料を私は持っていません。

一般論として、被害者が自身の記憶を変容させることや周囲に流されることはよくあることですし、支援団体が不正を犯すことも珍しくはありません。被害者と支援団体の方向性で齟齬が生まれ対立することもよくあります。これも一般論ですが、被害者が自身の被害を重視するあまり社会問題へと昇華させることができないことままありますし、被害者自身の考える社会化の方向性と支援団体の目指す社会化の方向性が違うこともあります。
しかし、これらはあくまで一般論であり、李容洙氏と尹美香氏のケースでどうなのかは個別の事情や経緯をちゃんと踏まえないと何とも言えません。

ただ一つだけ間違いないことは、李容洙氏と尹美香氏の対立の原因が何であろうとも、アジア・太平洋戦争中の従軍慰安婦問題は旧日本軍・政府による戦時性暴力であり、現日本政府にはその責任があることに変わりはないということです。



米韓通貨スワップ協定に関する件・補足

ところでこのサイトなどは、「03月19日にFEDが新たにスワップラインを締結した9カ国の中央銀行の中で、韓国銀行はぶっちぎりで最高金額を借りています」などと述べています。このサイトの論調は、韓国に対する揶揄・侮蔑に満ちていますが、それ故に韓国以外については全く見ておらず、結果として韓国すら見えていません。

ちなみに、「新たにスワップラインを締結した9カ国の中央銀行」に限定せずに、5月7日時点での借金額を並べると以下のようになります。

相手 未返済額*1
EU*2 1437億0970万ドル
英国*3 258億8000万ドル
カナダ*4 0.0
日本*5 2198億3200万ドル
スイス*6 100億6000万ドル
オーストラリア*7 11億7000万ドル
デンマーク*8 42億9000万ドル
ノルウェー*9 54億ドル
シンガポール*10 84億2400万ドル
ブラジル*11 0.0
韓国*12 174億5800万ドル
メキシコ*13 65億9000万ドル
ニュージーランド*14 0.0
スウェーデン*15 0.0
総額 4428億1370万ドル

未払総額4428億1370万ドルの約半分(49.6%)が日銀の借金分ですね。米国との通貨スワップ協定に基づく5月7日時点の日銀の借金額は韓国銀行の借金額の実に12倍以上ですね。

そろそろ本当に返済時の心配をした方が良いのではないでしょうか。



*1:Amount Outstanding

*2:European Central Bank

*3:Bank of England

*4:Bank of Canada

*5:Bank of Japan

*6:Swiss National Bank

*7:Reserve Bank of Australia

*8:Danmarks Nationalbank

*9:Norges Bank

*10:Monetary Authority of Singapore

*11:Banco Central Do Brasil

*12:Bank of Korea

*13:Banco de Mexico

*14:Reserve Bank of New Zealand

*15:Sveriges Riksbank

米韓通貨スワップ協定に関する件・2

米韓通貨スワップ協定に関する件 - 誰かの妄想・はてなブログ版の続き。

韓米通貨スワップのドル供給、開始37日後に中断…理由は?(5/7(木) 11:25配信 中央日報日本語版)

米韓通貨スワップ協定に基づくドル供給が6回目で中断することになりました。6回分の入札状況は以下のとおり。

入札日 入札額 応札額 決済日
3月31日 120億ドル 87億2000万ドル 4月2日
4月 7日 85億ドル 44億1500万ドル 4月9日
4月14日 40億ドル 20億2500万ドル 4月17日
4月21日 40億ドル 21億1900万ドル 4月23日
4月27日 40億ドル 12億6400万ドル 4月29日
5月 6日 40億ドル 13億2900万ドル 5月8日
決済日 落札額 金利 満期日
4月 2日 8億ドル 0.5173% 4月 9日
4月 2日 79億2000万ドル 0.9080% 6月25日
4月 9日 2億7500万ドル 0.4819% 4月17日
4月 9日 41億4000万ドル 0.5323% 7月 2日
4月17日 1000万ドル 0.3300% 4月23日
4月17日 20億1500万ドル 0.3567% 7月 9日
4月23日 21億1900万ドル 0.3386% 7月16日
4月29日 12億6400万ドル 0.3348% 7月23日
5月 8日 13億2900万ドル 0.2941% 7月30日

(参照:Central Bank Liquidity Swap Operations

韓銀関係者は「通貨スワップが締結されたことで必要ならいつでもドルを調達できるという心理が金融機関に広がり、安全弁の役割をした」とし「国内銀行の外貨健全性も相対的に良好とみられる」と説明した。

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20200507-00000030-cnippou-kr

中央日報記事にはこのような記述がありますが、金利が4月頭からかなり下がっていることもあり、まあその通りでしょうねぇ。


協定そのものは、米国連邦準備銀行FRB)と韓国銀行の間で締結されるものです。

例えば、韓国銀行が4月2日から4月9日まで8億ドル必要な場合、FRBから8億ドルの提供を受け、同時に4月2日の為替レートで8億ドル相当の韓国ウォンをFRBに提供します。そして4月9日になったら、韓国銀行はFRBに8億ドルを返済し、FRBは4月2日の為替レートでの韓国ウォンを韓国銀行に返済します*1
決済時点と満期時点で同じ為替レートを用いるため、実際の市場為替レートが変動していたとしても、FRBも韓国銀行も利益も損失も生じません。
ちなみに利息は双方に発生しますから満期時点で為替レートが大きく変動していなければ、双方プラスもマイナスも大したことになりません。


韓国銀行は8億ドルをどう使うかというと、8億ドルの110%相当額(国債など*2)を担保として市中の銀行*3に貸し出すわけです。

貸出期間は基本的に短期間で、要するに外貨払い用のつなぎ資金なわけですが、個人がサラ金で借りるようなものとは性質が全く違います。

それを混同して韓国差別するのが嫌韓バカなわけですが。



*1:Federal Reserve Board - Swap Lines FAQs

*2:国債政府保証債通貨安定証券を優先、不足する場合は、銀行債、韓国住宅金融公社発行の住宅抵当証券、ウォン貨現金も認める

*3:輸出入銀行、産業銀行、企業銀行など、国策銀行を含むすべての銀行