死者数も信用できるとは限らないという話

この件。
日本が新型肺炎に強かった理由(3/16(月) 15:11配信 ニューズウィーク日本版)

まだ、完了形で「日本が新型肺炎に強かった」などと言える状況ではないと思うんですけどね。

個人的には、イベント自粛や一斉休校の措置は感染拡大を阻止する上で一定の効果があったとみていますが、それを踏まえても日本で確認されている感染者数は少なすぎる印象はあります。

“死者数が少ない”ことを強調する人もいますが、これも個人的にはあまり信用できないだろうと見ています。“死者数は正確だ”という主張もその根拠は、COVID-19を疑わせる患者が亡くなった場合は医療機関は院内感染を心配して必ず検査する、というものだったりしますが、これもあまり信用できません。

例えば、肺炎・誤嚥性肺炎の年間死者数が13万人からいて1日あたり350人程度になりますが、生存している重症患者の数も含めたこれらの患者を全員検査することは日本の検査能力を考慮すればまず不可能ですよね。明らかにCOVID-19以外の肺炎患者を除外するとしても、既知の細菌性肺炎と非定型肺炎の鑑別だって、それほど確定的なものではなく*1、一般的には細菌性肺炎・非定型肺炎いずれの原因に対しても効果のある薬剤を処方するなどして、それで効果が無い場合に他の可能性を考慮するというのが多いかと思います*2

COVID-19特有の症状を医師が見極めることができるかというと現時点でそこまでの特徴は判明していないでしょうし、細菌性肺炎とCOVID-19を併発しているような場合に、COVID-19かどうかをどうやって判断するのかという問題もあります。結局のところ、検査しなければ判断できないわけですが上述した通り、日本の検査能力上、肺炎患者を全て検査するなんてことはできません。

すると、COVID-19かどうか不明のまま、軽症者には既知の肺炎の治療薬を出して自宅療養させ、重症者は入院させ人工呼吸器なども使った治療をせざるを得ないわけですよね。仮にSARS-CoV-2の検査をするにしても検査結果が出るまではそうせざるを得ません。

院内感染が心配なのは別にCOVID-19に限らず他の肺炎(マイコプラズマ肺炎等)でも対応すべきことですから、“COVID-19の疑いがある患者が来たら検査して確定させないと何もできない”なんてことはないでしょう。アルコール除菌が有効だとわかっているのですから、COVID-19かどうかわからないが、COVID-19だとしても大丈夫なくらいの院内感染対策をとればよいだけです。
もし患者が亡くなったとしても、死因として肺炎と書けばよく、それがCOVID-19であるかどうかを確認しなければならないこともありません。COVID-19だったかもしれないと医師が思ったとしても、遺体や病室に残留したSARS-CoV-2が他者に感染しないよう除菌と消毒を徹底すればよいだけです。おそらく、MRSAマイコプラズマ肺炎で亡くなった場合も同じように除菌と消毒をしているはずです。

“COVID-19患者を確認したら国に報告の義務があるから”という理由で、COVID-19での死者数は正確だと主張する人もいますが、あくまでも確認したらの話で、検査できず確認できないのであれば報告の義務はありませんよね。それどころか、もし検査して陽性だとなれば、病院関係者に対する調査や消毒などで病院を一時閉鎖する必要が出てきますから、病院経営的には検査することにメリットがありません。

そもそも“治療薬がないのだから検査することに意味はない”といって検査不要論を主張している人もいますが、その理由は病院が検査したくない理由にこそ適用されますよね。

国の態度も明らかに検査を推奨するようなものではありませんから、重症の肺炎患者が入院直後に亡くなったとしても病院としては院内感染を防ぐための除菌・消毒を徹底するだけで、それ以上のことはしたくないんじゃないじゃないですかね。

何といっても、COVID-19だとわかったところで治療法はないし(既に死亡しているなら尚更)、PCR検査を求める手間もかかるし、もし陽性だった場合には国に報告する義務があるし、場合によっては病院を一時閉鎖する必要があるしで、病院にとっては何のメリットもありませんよね。

こういったことを考慮すると、果たして日本のCOVID-19による死者数もどれほど正確だといえるのか、と疑わざるを得ないのですよねぇ。



*1:https://www.osaka-med.ac.jp/deps/in1/res/memo/infection/cap/Cap2005JRS/AtypicalTable.htmlhttp://www.jrs.or.jp/quicklink/journal/nopass_pdf/040120929j.pdf

*2:2002年の日本呼吸器学会市中肺炎ガイドラインでは、起炎菌不明の時点で細菌性肺炎と非定型肺炎の鑑別を行い、非定型肺炎が疑われる場合はマクロライド系やテトラサイクリン系薬剤を、細菌性肺炎が疑われる場合はβ-ラクタム系薬を推奨するやり方。高齢者や持病のある人がCOVID-19に罹患した場合、ガイドライン的には細菌性肺炎が疑われる流れになることが多くなりそう。