PCR検査をむやみにやるべきでない理由は単に現状の日本の検査能力が貧弱だからに過ぎないのでは?

この件。
なぜワイドショーは解説しないのか? 「PCR検査をどんどん増やせ」という主張が軽率すぎる理由(3/21(土) 9:24配信 文春オンライン)

色々とおかしいですね。

まあ、「PCR検査をどんどん増やせ」という主張に慎重になるべきなのは、現状の検査能力が貧弱で処理件数が限定されているため重症者の判定を優先すべきというだけの話に過ぎません。「PCR検査をどんどん増やせ」という主張は要するに、検査できる能力を増やせという主張であって、それに反対する理由など基本的には存在しません*1

“現場の医師もそう言っている”と鳥集氏は主張していますが、その現場の医師たちに、もしCOVID-19のPCR検査の処理能力が一日10万件以上あるとしても検査すべきでないと考えるのか聞いてみるべきですね。

また、鳥集氏は「私はメディアが「軽症でも早期から希望者全員がPCR検査を受けられるように拡充すべき」と煽るのは間違いだと指摘しました」と言っていますが、その後の部分で出てくるシミュレーションは、なぜか1000万人の都民全員を検査する想定になっています。

東京都民1000万人全員に何らかの症状がある場合を想定しているのかと思いきや、さにあらず。

「軽症な人は病院ではなく家から出ないようにしてもらえばいい」という意見もありますが、1000万人にPCR検査をすると何の症状もなく元気なのに2週間も家に閉じこもらねばならない人が、10万人近くも出てきてしまうかもしれないのです。人権上、このようなことが果たして許されるでしょうか。

https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20200321-00036731-bunshun-soci&p=1

「何の症状もなく元気な」偽陽性患者を軟禁するのか!と主張し始めます。最初に鳥集氏が反対してみせた「軽症でも早期から希望者全員がPCR検査を受けられるように拡充すべき」という意見であれば、COVID-19について偽陽性であっても類似する症状を示す患者であることに変わりはないのですから、自宅安静を求めることに何の問題もないでしょう。

また、偽陰性についてもおかしなことを言っています。

 それだけではありません。実際には感染しているのに、陰性となる「偽陰性」の人が3000人も出ることになります。もしこれだけの人が「陰性だから安心」と誤解して普通に生活することになったら、感染の連鎖が止まらなくなってしまうでしょう。

https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20200321-00036731-bunshun-soci&p=1

偽陰性ということは実際にはCOVID-19患者であるのに検査上は陰性と出ているということです。もし、東京都民1000万人全員に何らかの症状がある場合を想定しているのであれば、COVID-19の偽陰性であっても何らかの症状が出ているわけですから普通には生活しないと考えるべきで、むしろ何らかの症状があり免疫が落ちている時に外出してCOVID-19に感染することの方を懸念するんじゃないですかね。
逆に、症状の有無に関係なく東京都民1000万人全員を検査する想定であるなら、COVID-19に感染していながら特段の症状の出ていない患者は検査するか否かに関わりなく普通に生活しますから、偽陰性患者が普通に生活することを恐れて検査しないという選択肢は意味がありません。

というより、1000万人中COVID-19患者が1万人いるという鳥集氏のシミュレーションを踏まえるなら、検査することで3000人の偽陰性患者が陰性だと勘違いして普通に生活を続けるかもしれませんが、検査しなければ1万人の患者全員が普通に生活を続けるわけで、「感染の連鎖」を生み出すリスクは検査しない場合の方が高くなりますよね。

PCR検査は有病率が低い大きな集団に行っても無意味」と主張する人たちが見落としている点

感度・特異度は検査に固有の数値です。陽性的中率と陰性的中率は、感度・特異度と検査対象集団の有病率から導出できる関数です。

感度70%、特異度99%の検査を有病率0.1%の集団に対して実施すれば、陽性的中率は6.5%、陰性的中率は99.97%ですが、有病率1%の集団ならば陽性的中率は41.4%、陰性的中率は99.7%、有病率10%の集団ならば陽性的中率は88.6%、陰性的中率は96.7%となります。
検査対象の拡大に反対する人たちの根拠の一つがこの有病率が低い集団を対象とした場合の陽性的中率の低下(つまり偽陽性の増加)にあるわけです。
しかしながら、この主張には見落としがあります。
PCR検査をする場合、検温や問診もまず間違いなくやります。つまり、仮に都民1000万人全員を症状に関係なくPCR検査をするとしても、同時に体温や呼吸器症状も検査するわけです。
すると、都民1000万人(有病率0.1%)全体で見れば陽性的中率が6.5%であっても、そのうち体温37.5度以上であったり呼吸器症状のある対象者の検査結果を見れば、その部分集団での陽性的中率は上がります。例えば、体温37.5度以上または呼吸器症状のある検査対象者が100万人いたとして、その有病率が1%であったとすると、陽性的中率は41.4%です。
さらにその中から重症の呼吸器症状のある対象者(10万人、有病率10%と仮定)だけに絞って検査結果を見れば、その陽性的中率は88.6%になります。

つまり、都民1000万人全員を検査したとしても、検査結果を他の症状別に見ればちゃんと陽性的中率は確保できるわけです。

検査結果が陽性でも他に何の症状も無い検査対象者には、偽陽性の可能性がかなり高いことを伝えた上で自身で健康観察するよう求め症状が出たら来院という措置に留め、軽症の検査対象者も偽陽性の可能性が50%程度あることを伝え自宅待機で症状が悪化したら来院という措置とし、重症の検査対象者のみCOVID-19患者として入院治療すれば良いだけです。
これなら重症の呼吸器疾患の患者が爆発的に増えない限り、医療崩壊もしないでしょう。

日本でこのような対応が取れない理由は、単純に検査する能力が不足しているからに過ぎません。

それを“検査する能力はあるけど医療崩壊を避けるために検査しないのだ”みたいに主張するのは欺瞞という他ありませんね。



*1:予算や人員のリソース上、COVID-19のPCR検査を増やせば他の検査能力を圧迫するなどの理由はあり得ますが。